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1 赤兎領 滝浪家
怪鳥の声が宵闇を震わせて、唯一部屋に灯る蝋燭の火があえかに揺れた。
書に記された文字さえも揺らいだ気がして、幸長はようやっと己が眼がひどく疲れているのに気付く。
蝋燭がもう短い。
どれほど書に没頭していたのか。
その癖、書の中身はいくら読んでもいっこう頭に入らない。
物語なれば楽しむ事もできようが、開いているのは兵法書である。
……面白くない。
闇に沈みかけた部屋に、まだ声変わりも済まぬ少年の声が小さく零れた。
書の内容が詰まらないというのでは勿論ない。