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亡霊のたくらみ  作者: 長栄堂
第八章 隼人の作戦
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マナカンホテル(一)

 早奈と隼人はマナカンホテルにいた。

 バンコク市街から、車で三十分ほど東に行ったところにあるリゾートホテルである。

 二人の部屋は本館六階の六一七号室。窓の外にはベランダがあり、そこからは太田虎彦が宿泊しているデラックスコテージ十八号室がよく見える。

 隼人は下からはわからないように、超小型の望遠カメラを取り付けた。

 高感度のCCDセンサーがついており、そのままテレビのディスプレーに繋げば、夜でもコテージに出入りする人物の顔まではっきりと見える。もちろん、録画も出来るし、ホテル館内の無線LANを使えば、インターネット経由でスマホやタブレット端末でも監視が出来る。鉄平が気を利かせて、持たせてくれたものだ。

 鉄平と飛馬はタイに着いた時、この部屋から太田虎彦の動きを見張るか、アパートに入った黒シャツの男を見張るか、火焔木の家の動きを見張るかで悩み、最終的に飛馬の判断で火焔木の家を見張ることにした。

 あの時、遠隔監視用の望遠カメラがあれば、全てを見ることが出来たのだ。結果的に火焔木の家を見張って事なきを得たが、その時の反省もあり、監視グッズを充実させることにしたのだ。

 太田虎彦の部屋には、灯りが点いている。

「ねえ、太田虎彦が出掛けるよ」

 監視カメラを見ていた早奈が隼人に言った。

「後をつけよう」

 早奈と隼人も部屋を飛び出した。

 一階までエレベーターで降りてきたが、どこにも太田虎彦の姿は見えない。館内は広い。一度見失うと、探すのはほぼ不可能だ。

「彼が部屋を出てから、すぐに私たちが一階に降りても、間に合わないんだね」

 早奈の言う通りだ。だからと言って、隼人がロビーで見張るから、早奈は部屋に帰れと言っても早奈は嫌がって帰らない。

 それはさておき、今は太田虎彦の行き先だ。ホテルのドアマンに聞いても、それらしい人物は見ていないという。

「そうだ。確か、最上階にバーがあったな。そこだ、多分」

 早奈と隼人は十二階の最上階のラウンジに行き、通路から中を覗いたが、太田虎彦はいない。諦めて帰ろうとした時、早奈が代わりにある人物を見つけた。

「ねえ、あの隅っこに座っている人、見たことあるよ」

 早奈は石松フーズの常務取締役・石松大吾だと言う。早奈が勤めていた会社の役員で、創業者の石松三郎の次男だ。石松フーズは、落合真由美が就職すると言っていた会社でもある。

 石松大吾の向かいには、若い女性が座っている。顔は見えない。

「私たちも入る? 顔を見られたらまずいかな……?」

 ラウンジの入り口で中を覗き込んでいる方が、かえって怪しまれる。隼人がウェイターに、あの隅に座っている客とは顔を合わせたくないので、離れた席を用意してくれと頼むと、「オーケー」と言って、反対側の隅の席に案内してくれた。

 隼人はスコッチの水割り、早奈はカクテルをオーダーして、しばらく様子を見た。

 石松大吾は同席の若い女性と、楽しそうに話している。

「あいつは何をしにタイに来たんだろう?」

 隼人は鉄平の話を思い返した。

 太田虎彦が専務取締役を務めるOT興業は、石松フーズから分かれて出来た会社だ。今も石松フーズの請負業務を行っている。当然、石松大吾と太田虎彦は顔なじみのはずである。また石松大吾は落合真由美とも繋がっている。

「早奈。あいつも太田虎彦たちの仲間じゃないか?」

「仲間というより、大ボスかもね」

「大ボスか……。タケチといい、石松大吾といい、どうも奴らの人間関係が良くわからん」

 その時、石松大吾の向かいに座る女性が髪の毛をかき分け、チラッと早奈と隼人に顔を見せた。

「早苗。あれは……」

 見たことのある顔である。

「そう。ジュリアだね」

 ジュリア・ルイビル。タイ自然科学大学微生物研究所の職員で、伊崎睦夫の通訳を担当している女性である。

「どうして、彼女が石松大吾といっしょにいるんだろう?」

「わからん」

 それから三十分くらい話していただろうか、石松大吾とジュリアが席を立った。

「出て行くぞ」

 早奈と隼人も席を立ち、エレベーターでロビーまで降りると、腕を組んで歩く二人の姿が見えた。隼人たちが後をつけると、二人はコテージに入って行く。最上級のロイヤルスイートコテージだ。どうやら朝まで一緒に過ごすようである。

「太田虎彦の部屋はどうだ?」

「戻ってないよ」

「太田は街にでも繰り出して、憂さ晴らしか……」

 これ以上、ロビーにいても仕方がないので、二人は六階の部屋に戻ることにした。


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