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亡霊のたくらみ  作者: 長栄堂
第六章 コブラの襲撃
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バンコクの夜(二)

「ここはまずい」

 一階まで降りると、そこはショッピングフロアーになっており、買い物客が大勢いるが、同時に警官らしい人間もたくさんいる。早奈と隼人は、急いで人混みに紛れてエレベーターから離れた。

 中国人だろうか、十数名で行動している団体がいる。早奈と隼人はその団体の中に紛れ込んだ。

 団体の後ろの方から何かを言ってくる。多分、『おまえは誰だ』と言っているのであろう。隼人が『ごめん、ごめん、頼むよ』という仕草をしたら、『オーケー、オーケー』と何も言わなくなった。

 前を歩いているお年寄りが振り向いて、何やら話しかけてくる。親子三代の家族連れのようだ。『どこから来たの?』と聞いているのだと、横にいた息子らしい男が英語で教えてくれた。早奈が「JAPAN」と言うと、彼らは台湾から来たと言う。

「警察に追われている。助けて欲しい」

 隼人が英語でその男に言うと男が聞いてきた。

「おまえは悪いことをしたのか?」

「誤解だ。俺たちは何も悪いことはしていない」

 その男は、最高年齢者と思われるお年寄りに、隼人の言葉を伝えてくれた。お年寄りはしばらく隼人と早奈をじっと見ていたが、やがて、ついて来いという仕草をした。

 すぐ横に警官がおり、隼人たちをじろじろと見ている。台湾人の一行は、隼人たちが言葉を解さないのもお構いなしで、気安く話しかけてくる。早奈と隼人も笑いながら、友達の振りをして会話の真似をした。

 エレベーターホールに目を向けると、浅井和宏が出てくるのが見えた。きょろきょろと隼人たちを探している。早奈と隼人は、浅井和宏に見つからないよう、台湾人の一行に紛れて外に出た。

 目の前に検問があった。警官が一人ひとりの顔を覗き込むが、二人連れと聞いているのだろう、早奈と隼人を見ても怪しむ様子はない。身分証明書を出せと言っているが、台湾人の一行は知らん顔をして、誰もパスポートを提示しない。早奈と隼人も『よくわからない』という顔をした。

 一行は警官を無視して、勝手気ままに会話を始めた。早奈と隼人も英語混じりの知っている限りの中国語を駆使して、同じように話をした。早奈と隼人たちが前に進まないので、しばらくすると検問の周りは人だらけになった。

 後ろの方で、何やら警官に食ってかかる者も現れ、強引に横から柵を乗り越えようとしている者もいる。台湾人の一行は知らん顔をして、勝手にワイワイと話をしている。次はどこに行こうかとでも言っているのだろうか……。

 警官は困った顔をしていたが、やがて仕方がないという顔をして、隼人たちに『通れ』という仕草をした。早奈と隼人は「謝謝(しえしえ)」と言いながら検問を通った。

 検問は通過したが、まだ彼らから離れるのは危ない。次のブロックまで台湾人の一行と一緒に行動することにした。

 よくしゃべる賑やかな連中だ。その分目立つが、早奈や隼人がその中に混ざっているとは、警官も気がつかないようだ。やっと次のブロックの信号まで辿り着いた。

「ここまで来たら大丈夫だろう」

 台湾人の一行に礼を言い、別れようとしたが、彼らはもっと一緒に行こうと言ってくる。

 そういう訳にもいかないので、早奈と隼人は、最高年齢者と思われるお年寄りの手を握り、「謝謝(しえしえ)」と何度も繰り返し言った。どうやら早奈たちの気持ちを察してくれたようだ。そのお年寄りは、大きい声で何かを言って、握りしめた手を放してくれた。「気をつけて行け」と言ってくれているようだ。

 二人が信号を渡り、振り返ると、台湾人の一行が歩きながら早奈と隼人を見て、手を振っている。早奈と隼人も、彼らが見えなくなるまで手を振った。

「親切な人たちだったね」

「ああ、助かった」

「浅井さんがいたね。びっくりしたわあ」

「彼もタイに来ていたんだ。目と目が合った時は俺もびっくりしたよ」

 隼人は賭けに勝ったと思った。怪しい集団も見なかった。ほっとすると急に力が抜けてきた。


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