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亡霊のたくらみ  作者: 長栄堂
第四章 鉄平と飛馬(九ヶ月前)
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闇の中の声

 OT興業は、表の顔と裏の顔を持っている。

 表の顔は、石松フーズの業務請負会社として、石松フーズが新店舗を出すための不動産取得や、全国に三十箇所以上に増えた石松フーズの店舗管理を主な業務として行っている。

 石松フーズの社長は、石松三郎の長男・石松和夫に代替わりしているが、相変わらず固い絆で結ばれているようだ。この仕事は社長の太田虎之助が全てを差配しており、息子の太田虎彦はノータッチだ。

 OT興業はまた、石松フーズとは関係なく、過疎化した牧場や農村、漁村を安く買い取り、インフラと労働力を整備して、主に外国資本に売り渡すという廃村や僻村開発の仕事も日本とタイで行っている。この仕事は、二十年ほど前に息子の太田虎彦が始めたもので、彼がいっさいを仕切っている。

 裏の顔は少し複雑だ。廃村の再生とその売り買いは、買い手が仮に外国資本であろうとも、そのこと自体が必ずしも違法となるわけではない。OT興業の特徴は、そこに暴力的手法を介在させることにある。

 牧場や農漁村の買収はそう簡単なことではない。例え過疎化した村と言っても、まだ住人は残っているし、多くのケースで残った住人は立ち退きには消極的である。また、今回の山森牧場のように、なんら経営的に問題のない牧場や農漁村の買収を買い手から要求されることもある。これらに対して、あらゆる嫌がらせを駆使して追い出しを図る。また、近隣町村とのトラブルが起こった際にも、様々な暴力を使って解決に持って行く。これがOT興業の裏の顔だ。

 この裏の仕事は、息子の太田虎彦がタケチという男と組んで実行している。従業員は裏の仕事には関与していない。また、社長室で裏の仕事の話が出たこともない。どうも社長の太田虎之助は、太田虎彦がやっていることを知らないようだ。黙認しているのかも知れない。


「飛馬、太田虎彦の片腕になっているタケチという男だがなあ、奴は手強いぞ。太田虎彦は、所詮はお坊ちゃまだ。頭も腕力もたいしたことはない。しかしタケチは違う。頭が良い。それと悪事をやるのに、ためらいがない」

「タケチか……。そいつがリーダーなのか?」

「太田虎彦とタケチは互いに対等だと思う。しかし、実際に決断を下しているのは、全てタケチだ。これからは、この男の動きを徹底的にマークしようと思っている」

「わかった、鉄平」

「それと、飛馬。一つ気になることがある。あいつら、少なくとも一件の殺人を犯している」

「殺人? 暴行だけではないのか?」

「ほとんどが脅しというか、痛めつけるのが目的の犯罪だ。しかし殺人も少なくとも一件はある」

 その殺人事件というのは、小矢部鉄平が盗聴を始めて、最初に飛び込んできた事件だった。それは、他のOT興業の犯罪とは、質の異なるものだった。


『店長とムスメはおまえが殺したのか? 相変わらず荒っぽいな、タケチ』

『可哀そうだが、ノートとデータを奪うためだ、仕方がない』

『警察は大丈夫なのか?』

『心配するな、オオタ。今回もオニの仕業に見せかけておいた。警察が俺たちに目を付けることは絶対にない』

『わかった。なら安心だ』

『しかし、オオタ。今頃、ノートが出てくるとは驚いたな。それも、向こうからノコノコやって来るとは……』

『おかげでノートとデータのコピーは手に入った。あとはタキガワのキンだけだ』

『それももうすぐ在りかがわかるぞ』

『オトコを泳がせて後をつけるんだろう。警察に飛び込まなきゃ良いが……』

『確かに……、警察に飛び込まれるとやっかいだ。ただ、あいつも詳しいことは言えないだろ。大騒ぎになれば、あのオトコの村は世界中から狙われる』

『ははは。確かにそうだ。あいつの村は世界中から狙われる』

『オオタ、キンの在りかがわかれば、今度は奪いに行くぞ』

『了解だ。二十年前と十年前はそこまでの余裕がなかったが、今回はもう大丈夫だろう』

『ああ、もう大丈夫だ』

『キンも揃うと三十億か……。そいつは楽しみだ。なあ、タケチ』


「このタケチって奴は、二人も殺したのか」

「ああ、狂っている。気をつけろ、飛馬」

「ここでもオニってのが登場するのか……」

「ああ、オニってやつに濡れ衣を着せている」

 被害者は店長とムスメと呼ばれている二人の人物だが、名前はわからない。この会話の少し前のニュースを調べても、二人の人間が殺害されて、今なお未解決の事件は存在しない。

「こいつら、タキガワのキンというものを狙っているようだな。それは、まだ手に入れてはいないのか?」

「まだだ。キンの在りかを知っているオトコと呼ばれる人物を泳がせて後をつけると言っていたが、どうも、そのオトコを見失ったようだ」

「そうなのか……。口ほどにもない亡霊だな。ところで、鉄平。おまえ、この事件をどうしたいのだ?」

「やつらはこの会話の中で十年前のことをチラッと話題にしている。十年前は奪いに行く余裕がなかったとかどうとか……。意味はわからんが、去年の段階で十年前と言えば、今からだと十一年前だ。これが、なんか気になるんだ」

「確か、親父さんが事故で亡くなったのは十一年前だったよな」

「そうだ。俺はこの三ヶ月の間、盗聴を続けたが、あいつらが親父の事故のことを話しているのを聞いたことがない。古い話だから口に出さないのか、事故には関与していないのか、よくわからないが、ただ、あいつらの言う、この十年前ってのが、妙に引っかかる。飛馬、俺はこの事件を追いかけてみようと思ってるんだ」

 タケチと太田虎彦は、彼らが店長とムスメと呼ぶ人物を殺害して、ノートとデータのコピーを奪った。

 さらに、タケチと太田虎彦は、タキガワのキンというものも狙っている。キンまで揃うと三十億円以上の価値があると言う。

 タキガワのキンの在りかは、彼らがオトコと呼ぶ人物が知っているが、今現在、その行方はわからない。 

 彼らはキンを手に入れるため、どこかで必ず動く。その時に、タケチと太田虎彦の黒幕としての証拠を掴んで、警察に突き出してやろうというのが鉄平の考えだった。残念ながら盗聴記録は、刑事事件の証拠にはならない。

「わかった。殺人事件ともなると、警察は力の入れ方が違う。奴らを警察に突き出すことが出来れば、親父さんの事故のことも何かわかるかも知れないな」

「そうなんだ」

 鉄平は飛馬の理解の速さに感謝した。


ここまで読んで下さって、ありがとうございます。

次回から舞台をタイのバンコクに移し、早奈と隼人がさらに事件の真相に迫ってゆきます。

殺人事件の濡れ衣を着せられる隼人と早奈。鉄平と飛馬との出会い。タケチとの対決……。

けっこう盛りだくさんな内容になっていますが、最後まで読んでもらえると、嬉しいです。

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