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亡霊のたくらみ  作者: 長栄堂
第一章 真夜中の惨劇(一年前)
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明かりの灯る家(一)

 十二月の声を聞いて、街はいっせいにクリスマスモードに入っていた。サンタクロースやトナカイが普通に横断歩道を往来し、LEDで鮮やかに彩られた街角には、巨大なスノーマンが居座っている。多岐川早奈は、そんな都会の喧騒に別れを告げ、京都・衣笠の閑静な住宅街に戻ることにした。

 彼女は大手の食品メーカーに勤める入社三年目の会社員。姉の美奈と二人、京都の平野神社近くの一戸建てに住んでいる。

 今日は、と言ってももう昨日になってしまったが、小学校の同級生と大阪のミナミで会い、久し振りに食べて飲んで歌ってはしゃいでいたら、あっと言う間に時間が過ぎてしまった。午後十一時前には店を出て、地下鉄御堂筋線、阪急電鉄京都線と乗り継ぎ、京都の四条大宮に着いた時には、日付はもう十二月八日に変わり、酔いはすっかりと覚めていた。

 大宮駅からはタクシーで帰って来たが、やっと辿り着いたと思った我が家は……?

 煌々と明かりが灯って昼間のように明るく、大勢の野次馬と警察官でごった返していた。すぐ横にはパトライトを点灯させたパトカーが二台。さすがに大概のことには動じない多岐川早奈でも、この家で、なにかの事件があったことくらいはわかる。

 血相を変え、野次馬をかき分けて家の中に入ろうとすると、「早奈」と大きな声で呼び止められた。

「隼人……」

 近くに住む桐島隼人だ。三歳違いの姉の美奈とは小学校からの同級で、早奈とも幼馴染みである。その桐島隼人が、今日は何故か険しい顔で早奈を睨みつけてくる。

「私の家で、事件でも……?」

 早奈は嫌な予感がした。周りをキョロキョロと見渡したが、一人で家にいるはずの美奈の姿がどこにも見当たらない。

「美奈は?」

「それが……」

「それが……、どうしたのよ」

「それが……、美奈が……」

 隼人の言葉は歯切れが悪い。やっとの思いで続きを語ったが、それは早奈が最も聞きたくない言葉……。

「美奈が殺された」

「殺された?」

「ああ、殺されたんだ。首を絞められて……。早奈には、何度も電話したんだぞ」

 早奈がスマホを確認すると、確かに隼人からの着信記録が履歴にいくつも並んでいる。電車の中では眠っていたので、気が付かなかったようだ。

 よく見るとパトカーの後ろに京都警備保障(株)の車が停まっている。美奈と早奈がこの家のホームセキュリティの契約を結んでいる会社だ。セキュリティがセットされた状態で窓ガラスが割れたり、窓や玄関のドアが開いたりすると、即座に京都警備保障に警報が入り、およそ五分でスタッフが家に駆け付けてくれる。

「この家の異常を知らせる警報がこの会社に入ったんだ。何者かが窓ガラスを破って家に侵入したらしい」

「警報が……?」

「昨日の午後十一時五十分だって言ってた」

 隼人の顔は苦しそうである。

「美奈が殺されたの……?」

 早奈が改めて問い掛けると、隼人は黙って頷いた。

「そんな馬鹿な……」

 早奈には、それ以外の言葉が見つからなかった。


 早奈が家に入ると、中は全ての部屋に明かりが灯り、大勢の鑑識官が忙しく手と足を動かしていた。

 浅井和宏という刑事が話を聞かせて欲しいと言うので、空いている部屋で早奈は矢継ぎ早の質問を受けることとなった。

 浅井和宏以外にもう一名刑事がいたが、早奈はその刑事の名前を覚えていない。質問もほとんど覚えていないが、どうも、怨恨とか痴情のもつれとかを疑っているのだろうかという印象だけが残った。

「美奈さんに恨みを持つ人物に心当たりは……?」

 何度も同じ質問を受けたが、そう言われても早奈には思い浮かぶ人物はいない。

「これは物盗りとか、行きずりの者による犯行ではないですね」

 もう一人の刑事が決めつけるように言った。

 確かにそう思うのも無理はないのかも知れない。盗まれたものが何もないのである。浅井和宏に頼まれて、早奈は家の中を一通り見て回ったが、犯人は、現金や預金通帳の類にはいっさい手を付けていない。

 また、部屋に残された下足痕によると、犯人は一階のリビングの窓から侵入し、リビングを通り抜けて二階の美奈の部屋まで最短距離で向かっている。そしてロープ状のもので首を絞めて美奈を殺害した後、やはり同じルートをたどってリビングの窓に戻り、そこから一目散に逃走している。

 京都警備保障㈱にこの家の異常を知らせる警報が入ったのは、午後十一時五十分。その五分後の午後十一時五十五分には、京都警備保障のスタッフが家に駆け付けている。このわずか五分の間に犯人は家の中に侵入し、美奈を殺害して逃走しているのだ。

 家の中の構造に詳しい者による、美奈の命を狙った犯行と警察が考えるのも無理はない。

 しかし……、早奈には、その心当たりが全くない。


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