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亡霊のたくらみ  作者: 長栄堂
第四章 鉄平と飛馬(九ヶ月前)
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小矢部家の悲劇(三)

 話し終えた鉄平は、ほっと一息ついたようにソファにもたれ掛かっている。

 飛馬は何と言えば良いのか、わからない。しばらく黙って考えていたが、かなり時間が経って……。

「鉄平、おまえは、会社を取り戻そうとしているのか?」

 やっと口を開くと、鉄平がすかさず答えた。

「いやそうではない。俺は、奴らが爺さんの作った会社を乗っ取ったとしても、そのこと自体を恨んだり、会社を取り戻そうと思ったりはしていない」

 鉄平の正直な気持ちだった。それは鉄平が生まれる前の、もう終わった話だ。

「母は生前、自分は幸せな人生を送ったと言っていた」

 会社を去った鉄平の両親は、一人息子の鉄平を授かり、三人で世界を転々とする不安定な中でも充実した人生を送ったのだ。

 親子三人で過ごした国は、インドネシア、ベトナム、タイ、インドなど四か国を越え、そこで、健司はNPO法人に属して、農業指導の仕事を行った。

 どこに住んでも、両親に会社をなくした悲壮感は感じられなかった。母親の千恵子は、健司や鉄平と一緒にいることが出来て、幸せな人生を送れたと本気で思っていたのだ。

 乗っ取られた会社も、大株主の清美や千恵子が、司法の力を借りて事実解明を行えば、石松三郎の手から取り戻せたかも知れない。あるいは、それ以前の問題として、取締役を全員解任して、新たな体制でもう一度、会社を創り直すという選択肢もあっただろう。

 両親があえてそれをしなかったのは、両親の意思として、会社経営とは別の人生を歩むという選択をしたのだと鉄平は思っている。


「飛馬、俺が気にしているのは……、事故のことなんだ」

「親父さんが亡くなった事故か?」

「親父は十一年前の九月にタイで亡くなった。大型のトレーラーとぶつかって、崖から落ちて、即死だったらしい。その事故に、OT興業が関わっていると母は思っていたのだ。母なりに調べて、そう思ったのだろう」

 会社を乗っ取るのと人を死に追い遣るのとでは、問題の次元が異なる。ましてや会社を不正な方法で乗っ取られ、それにも負けずに新しい人生を作っていた最中である。

 父親が亡くなった時、鉄平は十一歳だった。まだまだ父親の健司に教わりたいことがたくさんあったし、健司も鉄平に教えたいことがいっぱいあっただろう。それを彼らが根こそぎ奪ったのであれば、それは許せなかった。

 飛馬は鉄平の話を聞いて、彼の気持ちがよくわかった。

「俺はなあ、飛馬。昨年の暮れに、OT興業に忍び込んで、社長の太田虎之助の部屋と、息子で専務の太田虎彦の部屋に、盗聴器を仕掛けたんだ。受信機は近くに借りたマンションに設置して、世界中、どこからでも聞けるようにしている」

「やっぱりそうか。鉄平、おまえ、それが犯罪だと、わかってやっているのか? 捕まれば、実刑だぞ」

「わかっている。警察に捕まれば実刑だし、あいつらに見つかれば殺される。しかしなあ、飛馬。捜査の手が及ばないのをいいことに、奴らのやり方はますますひどくなってくる。他に方法が見つからないのだ」

「俺の家の襲撃も盗聴で知ったのだな」

「これがその時の会話だ」

 鉄平は、太田虎彦とタケチが飛馬の家の襲撃を相談している会話を聞かせた。

 腕を組んで考え込んでいた飛馬が言った。

「わかった、鉄平。もう何も言わない。何も言わない代わりに、俺にも手伝わせろ」

 無茶苦茶な理屈だが、きっと飛馬はそう言うだろうと鉄平は思っていた。

「飛馬、おまえ、自分で言っていたじゃないか、これは犯罪だ。それに、下手すれば殺されるぞ」

「鉄平、ここまで教えて、それはないぞ。殺されても、おまえに迷惑はかけない。俺は俺で家族を守らにゃあならんのだ」

 鉄平が断っても、飛馬は勝手に動くだろう。結局、飛馬を仲間に引き入れるしか、鉄平には方法がなかった。彼はOT興業について、知っていることを全て話すことにした。


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