伝説の剣 7
ティムは、剣を持ったまま逃げ回っているが、風の向きをティムの行き先にあわせて移動させてやるだけで、なんなく対応できていた。しかし、剣を持っている手元は特に熱そうなのでかわいそうではあった。
(あれ、ティムの剣の炎、また、小さくなっているな)
剣先をみると、さっきよりも、さらに剣の炎が小さくなっていることに気づいた。かわいそうなので、熱さを和らげてあげることにした。
「シュティックシュトッフ」
空気中の窒素を冷やして液体にする。-200℃程度まで冷やしたドッジボール大の水球ならぬ、液体窒素球ができた。表面からは白い窒素蒸気がもうもうと立ち込めている。
「な、なんだこれは。水か?」
突然現れた液体に驚いたティムが叫んでいる。が、それを無視して、
「えいっ」
プヨンが叫ぶと同時に、ティムの剣先にぶつけてやった。
ドジューーー。
炎と液体窒素がぶつかった瞬間、剣先を中心に白い煙が立ち込める。ちょっとした気化爆発で、液体が飛び散っていた。飛び散った液体も煙を出しながら気化していくので、濡れるということもない。白い綿のような霜がつき、それもすぐに融解していく。
「う、うぐっ。く、息が・・・できん。な、なんだこれは」
突然、苦しそうに、ティムが動きをとめ、うずくまってしまった。酸素濃度が低下している状態で動き回ったからか急激に苦しくなったようだ。プヨンも低酸素の空気に近寄ると危ないので、遠巻きに見ながら、
「知ってるかい?窒息するから、窒素っていうんだよ。はやく移動したほうがいいよ」
「・・・・・・」
アドバイスしたが、ろくに返事もできないようで、ティムは動かずその場に蹲ったままだった。プヨンがティムの剣先を見ると、剣の炎が今にも消えそうになっている。どうやら、温度を下げたからだけではなさそうだった。空気自体は自然に循環しているはずなので、すでに酸欠状態はもとに戻っているはずだ。
「ティム、もういいよね。その剣をはなせ、そのままじゃ倒れるよ」
ティムを心配して声をかけたが、
「ぐっ。いや・・・だ」
膝をついたまま動けないが、動けない屈辱がかえってティムの闘争心に火をつけたのか、剣の炎が強くなった。ちょっとだけだが。そして、なんとか立ち上がり、かかってこようと足を動かそうとしているが、体が思うように動かないようだ。そして、
バタッ
ティムが膝をつき、崩れ落ちてしまった。すでに、風などで空気は完全に入れ替わっていると思われ酸欠の危険はないはずだが、念のためプヨンは遠巻きに様子を見ていた。
「ティムは、どうなったの?」
サラリスもちょっと心配になったようで、離れた場所から聞いてきた。
「うーん、炎の剣の炎を作りすぎて、いわゆる体力切れじゃないのかな?この剣って、使用者のエネルギーを使って炎を出すようだよね」
「そ、そうなの?炎の剣って剣自体が炎を出すんじゃないんだ?なんでわかったの?」
「いや、使ってるうちにどんどん炎が小さくなっていくし。他に炎の供給源もないだろうし。これも本物じゃないんじゃないのかなぁ。でも、熱には強そうだったね」
「そ、そんなに、エネルギーを消費するもの?」
「どうだろう。ざっと比較しても最初に見た剣の炎の大きさだと、サラの火球くらいはありそうだったよ。それを剣を構えていた間だから、4-5分たったかなぁ。毎秒火球打ち続けたら、サラなら何分できる?まぁ、火球と違って、剣は一度上がった温度を維持しているだけだと、もっと少なくてもいいのかもしれないけどね」
「なるほどねーティムにしてはよくもったのかなぁ。私ならもっとだろうけどね」
なぜか、ふんぞりかえってサラリスが「自分はもっとできる」を強調していたが、それでもいずれ限界はくるだろう。サラリスと会話しながら、それとなくティムに近づいて様子を見たが、起きる気配はない。剣に魔力を注がないように注意して、手に取ってみた。ずっしりと重い。
「すごい重いね。この銀灰色の光沢とか熱に強いところからすると、W金属とかかなぁ」
「W金属?何それ?」
「熱に強いんだよね。切れ味は悪そうだけど、重さで切るタイプ?これもらえるの?」
プヨンは、ティムが最初に、負けたら剣をやると言っていたのを思い出したが、勝手にもっていくのも少し気が引けて、サラリスに意見を聞いて見た。なんとなく確認を取りたかったからだ。サラリスは、そう聞いてちょっと考えていたが、ほぼ空気状態のティムの付き添いを一瞥してから、
「いいんじゃないの?勝ったら持って行っていいって言っていたし」
プヨンは剣と鞘をはずして手にとってみた。あらためて口には出さなかったが、ティムの付き添いに目で確認すると、頷いてくれた。引き留める気はないという事なのだろう。
「じゃぁ、このボロ鉄の剣と交換ということにしよう。サラリスも置いていこう」
「ま、待ってよ。私も帰るわよ。あー楽しかった」
プヨンは、伝説の炎の剣 (スーパーコピー)を手に入れた。
 




