伝説の剣 6
翌日、サラリスとプヨンは、翌日の約束の時間に指定の空き地にきていた。ティムも待ち構えている。わざと遅れて反応を見てもよかったけれど、ここは時間通りにいくことになった。サラリスが待ちきれなかったからだ。
「よくきたな、プヨン。これが、本物の炎の剣だ」
腰のさやをポンポンと叩きながら、挨拶も早々に、ティムが説明という自慢を開始する。
「なぁ、ほんとにもう一回やるのかい?」
「もちろんだ。勝負だ」
勝ったところでティムの思うようには運ばないと思うが、ティムは今さら退くことはできないだろう。
「でもなぁ、ティムが勝ったらサラリスをゲットするというのはわからなくもないけど、ボクは勝っても何の得もないんだよなぁ」
「なんだと。じゃぁ、例え奇跡が起こってもあり得ないことだが、俺が負けたらこの剣をやろう」
そういうと、ティムは、腰のさやに入った剣を取り出し、目の前でかかげた。見た目は普通の剣のように見える。
「よく見ろ、これが本当の3000℃の炎だ」
ティムがそう言いながら、剣を構える。すると、剣の刃先から炎が現れ、切先から半分くらいまでを覆った。炎の大きさは前回のもどき剣とそう変わらないが、炎の色が暗い赤ではなく、橙色に近い。温度も本当に高そうだった。
「プヨン、どうするの?一応、あんたはぼろぼろの鉄剣をもってきてるけど。私が用意したほうがよかったんじゃ?」
遊び気分だったサラリスもさすがにちょっと心配になったか、それとなく気遣いをしている。わざと小刻みに震えてみせて、
「う、う、サラ。俺はダメだ。負けてしまう―」
「バカ言ってんじゃないわよ。まじめにやってよ。もちろん、プヨンが負けたら即逃げるけどさ」
「いやー、すごいよ。俺、負けるよ。負けたら、サラリスが人質に連れていかれるんでしょ?見ものだけど、とりあえずあっちにいっててね」
そんな冗談を一通り言い合いし、サラリスは、少し離れた場所に避難した。ティムの付き人も離れたところに移動している。なぜか、ティムはすでに疲れた顔をしている。それが少し気になったが。
「いくぞっ」
そういうと、ティムが、切り込んできたが、あまりに予測通りなまっすぐな切り込みで、ステップを踏んでかわすことができた。ティムの剣の金属部分はまったく赤くなっておらず、確かにティムが言うように炎に耐性があるように見えた。ただ、心なしか、剣の炎が最初に比べるといくぶん小さくなっているように見える。
その後も、ティムが切り込んできて、それをプヨンがかわす攻防が続いていたが、
「はぁっ、はぁっ」
切り込んでくるだけで、たいした斬り合いをしているわけでもないのに、ティムはすでに息があがっていた。さすがに、こんなに早いのは何かおかしい気がする。
「おい、プヨン、逃げ回ってばかりいないで、そっちからも仕掛けてこい。このままじゃ負けにするぞ」
「え、わかりました。ボクの負け・・・」
「だ、だめよ。ちゃんとやって。ほらほら」
これ幸いと負け宣言しようとしたら、サラリスがすぐに遮ってダメ出しをしてきた。
(しかたない、ちょっとだけこっちからもやるしかないか)
プヨンが、
「いくよ、あれから、ちょっと考えてたアイデアがあるんだ・・・風よ集まれ・・・」
プヨンには珍しく、大げさに魔法の詠唱モードに入った。
「プレスリリース」
プヨンは、ティムの前に気圧差を作り、風を起こした。突風というほどではないが、風がおこりティムの持つ炎の剣の剣先からティム本人の方に向かって風が吹きはじめた。
「あ、あつ。あついっ」
ティムは、思わず叫んでいた。自称3000℃とはいえ、それなりに剣先の炎で熱された風がティムを襲う。炎系の魔法を直接受けるほどではないが、かなり熱気を伴っているはずだ。
「ま、まって。ちょっと待って」
剣から片手を放して空気を払おうとしているが、そんなものでは解決するはずもなく、それを見てサラリスは笑い転げていた。
「がんばれー、ティム。応援してあげるわ」
「こらー、サラは、どっちの味方なんだ」
プヨンがサラにそう返すが、プヨンも返事しながらにやついてしまっていた。
 




