伝説の剣 2
相手の3人の男が、天敵ティム関連の男たちとわかると、サラリスの対応は速かった。
「そうとわかれば、話は早いわ。いくわよ。女神アイギスの咆哮2」
サラリスが叫ぶ。
「な、なに、2って。先日の改良版なの?」
(2ということは、先日のただの咆哮からバージョンアップしているんだな)
そう考えて聞いて見たが、プヨンの問いにはサラリスは答えず、目の前に集中している。すると、サラリスの数m前方に小さめの火球が10数個現れた。
「やーー」
サラリスの掛け声とともに、火球は一斉に男たちに向かって解き放たれ、放物線を描いて、男たちの50cmほど手前の地面に着弾した。
バスッ、ガスッ。
「う、うぉおっ」
突然の魔法、しかも、火球の連射を目の前に受け、男たちはたじろいでしまった。
「2ってことは、なんか改良したのかい?相手が動かなければ、狙った場所に着弾させるのはマスタークラスだね」
サラリスは、プヨンが本気で感心しているのがすぐにわかった。一方で、「狙ったところ」を強調しているのは、相手が動いていると当たらないと暗に言っていることだから、ちょっとむっとしたけれど。
「う、うるさいわね。挑まれたらよけずに正々堂々受けて立つのが大事でしょ」
「ふつうは、避けますよ、ふつうは」
サラリスの悪態にプヨンは常識的に返していた。男たちはすでにこちらに対抗しようという気は失せているようだ。なす術がないようで、完全に目が泳いでいる。それを見て、勝ちを確信したサラリスは、
「ティム、さっさと出てきなさい」
男たちを無視し、仁王立ちして、大きな木の方を指さした。
プヨンは、わけがわからず、ただ、事の成り行きを見ていた。
「ま、待ってくれ。い、いま着いた・・・」
木の方ではなく、サラリス達が入ってきたのと同じ空き地の入口から1人の少年が現れた。全力で走ってきたからか、息が切れている。
「はぁはぁはぁ」
「あ、まだ来てなかったのね」
サラリスが、男たち以上にバカにするような目でみていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。呼吸が・・・」
「お待ちください、お美しいサラリス様と言ったら、3秒待ってあげるわ。それとも、ティム、今すぐとどめをさしてあげようか?」
なぜ3秒なのか、もともと待つ気がないくせにとプヨンは頭の中で突っ込んでいたが、
「3秒かよ。・・・そ、それは、はぁ、はぁ、お前が俺を放置するからだ。最近ぜんぜん帰ってこないじゃないか。はぁ、はぁ。他の男と遊んでいると聞いて心配でな」
「余計なお世話よ。私は自分の身は自分で守れるわよ」
「そ、それは、ダメだ。お、お前は、はぁ、はぁ、俺が守るから」
「そのざまでよく言うわね。足手まといよ」
息が切れながらも、2人は口論している。プヨンも、なんとなく事情がわかってきた。すでに空気の3人の男たちと、視線で確認し、呼吸をあわせる。
「じゃ、じゃぁ、我々はここで失礼しますので、あとは、2人でしっかり話し合っていただいて、また、結果がでたら後程おいでくだ、うっ」
サラリスが腕をつかんで、逃げられないように引き留めてきた。
「ダメよ。プヨン。原因はあんたよ」
「え?俺?なんの関係が」
プヨンは、思い当たるところを必死に思い出そうとしていた。
「ビシッ」
それを聞いて、ティムは、ビシッと口に出しながらプヨンを指差した。
「お、お前がプヨンか。サラリスが最近遊びにいってばかりだという・・・」
「そうよ。彼が温泉帰りの男よ」
サラリスは、プヨンをだしにして、ティムを怒らせようとしているのか、いちいち逆撫でするような言い方をしている。
「ゆ、ゆるせん。プヨンとやら、俺と正々堂々と勝負しろ。今日はそのためにきたんだ・・・」
「すまない、サラリス、彼の専門用語をちょっと翻訳してくれ」
ティムは、どうやら本気のようだが、八つ当たりを受けているプヨンは、たまったものじゃなかった。
「せ、正々堂々って、ふつう1:1じゃないの?さっき、3人もけしかけてきておいて・・・。そもそも、勝負ってなんの?」
「う、うるさい。今から1:1だ。もちろん、どちらがサラリスにふさわしいかだ」
「へ?・・・・・あ、僕の負けです。もちろん、あなたがふさわしい。完璧ですよ」
「え?そ、そうか。そうだよな。よかった。これにて一件落着」
「落着しないわよ。ティムもプヨンもダメダメよ。ここは、かわいい私を取り合うのよ。そして、プヨン、あなたが勝って私を自由にして」
うまくおさまりそうだったのに、サラリスが蒸し返す。まぁ、いやなものはいやなのかもしれないが、プヨンは経緯がわかっておらず、逃げ出すタイミングを見計らっていた。
「ならば、プヨン、やはりお前はここで倒されるべき存在なのだ。見よ、この伝説の炎の剣を。この剣を受けろ、そして、この空き地でゆっくりと眠るがいい」
ティムが抜いた剣を一目見るなり、サラリスは慌てだした。
「あっ、そ、その剣は。ちょっとしたことにそんなもの使っちゃダメでしょ」
「いいんだよ、男には勝たねばならないときがあるんだ」
ティムは腰のさやから剣をかまえる。剣を抜いた時点ではただの金属の剣だったが、その刀身の周りに炎をまとっている。プヨンは、そんな剣があるということと、そんなものを持ってきていきなり勝負というティムの頭の中身と両方に驚いていた。ふと横を見ると、3人組も成り行きに呆然としているのが見えた。こういうシナリオは事前に聞いていなかったようだ。見るからに、予想外の展開らしい。プヨンとしてはさっさと逃げたいが、ティムは、無理してでも勝負に持ち込むつもりらしかった。
 




