伝説の剣
(や、やばいやばい。なんで今日まで気づかなったの)
温泉から戻って早々、サラリスは焦っていた。ユトリナの別宅に戻り、自分の部屋に入ってすぐに落ちていた手紙に気がついた。まだ、開封していなかった手紙だ。
パサッ。
「ハニー元気かい?最近ぜんぜんもどってこないんで、とても寂しいです。噂では、他に仲のいい男の子がいるとかなんとか。だから、赤の月、12日にそっちにいきます。いちゃいちゃしようね。サラのフィアンセ ティムより」
(この手紙、完全に忘れてたわ。しっかし、誰がフィアンセよ、誰が。それに、赤の12日っていったら、今日じゃないの。どうしよう。きたって、うっとうしいだけなのに)
この世界では、1年は10ヵ月だったが、毎月少しずつ月の見える色合いが変わっていくことから、茶、赤、橙・・ときて、最後は、ほとんど月が見えない、黒の月となっていた。
サラリスには、どうやら、今日、訪ねてくる人がいるらしい。
とりあえず、サラリスはユコナを探すがいつもいるようなところにはなぜかいない。
「ユコナはどこにいったのよ、肝心な時にいない。・・・そうだ。プヨンだ。プヨンも原因なんだから、彼にも責任を取らせよう」
プヨンにはまったくのとばっちりではあったが、他に逃げ場が思いつかない。サラリスはとりあえずの避難場所として、プヨンのところに向かうことにした。
(いた、やっぱりここだと思ったのよ。火と氷の同時魔法の練習、いわゆるアキラクンをやっているところを見ると、やつは暇ね。だいじょうぶだいじょうぶ)
サラリスは、教会の裏から少しいったところにある丘のところで、いつもどおりのぼけっとするプヨンを発見した。こそこそと忍び足で背後に回り、そして、目の前に飛び出す。
「プヨン、いいとこにいたわ。ちょっと付き合って」
「は?え、え、え?」
突然でわけもわからないプヨンの腕を掴んで、ぐいっと引き起こす。筋力強化のたまものだ。そのまま腕を組んでひきずるようにつれていこうとする。反射的に、抵抗するプヨン。
「いきなりでわるいけど、話をしたいことがあるから、ちょっとこっちにきて」
「お、落ち着いて。こ、ここじゃできない話なのかい?ちょっと待って」
「そうよ、ここじゃだめ。ここでいいなら、すでにしてるから」
「わ、わかったから、引っ張るな。動きにくいよ。自分で歩くよ」
サラリスは、プヨンが抗うのも無視して、町はずれの空き地に向かう道を歩いていく。強化魔法を使っているから、女の子とは思えない力で引きずられていった。
と、いきなり、3人の見るからに暇そうな男達が、わざとらしく前に立ちふさがった。
「おぉー、朝っぱらからいちゃいちゃして、うらやましいなー」
1人がわざとらしくちょっかいを出してきたが、
「じゃまよ。また、今度相手してあげるから、よろしく」
サラリスは、よほど急いでいるのか、相手の顔もみないで、横を通りすぎようとした。
(おいおい。それじゃ、かえって喧嘩を売ってるようなものじゃ・・・)
プヨンが心配していると、案の定、
「なんだぁ、ご挨拶だなぁ。調子にのるなよ?」
つっかかってくる。もともと、それが目的のようなものだ。相手の思うつぼだ。
「うるさいわね。急いでるのよ。さっさといかないと痛い目にあわせるわよ」
サラリスもいつになく挑発的のような気がする。そして、走り去ろうとした。
突然走り出したサラリスを見て、プヨンもついていく。
「なにぃ、なんだそりゃ。ちょっと待てよ。やってみろよ・・・おい、いくぞ」
そう言いながら、3人はサラリスを追いかけ始めた。ふつうなら口だけは応対しても、まともに相手をしないだろうに、わざとらしく追いかけるところが、出来の悪い芝居のようでとても不自然だった。
(え?えぇっ?ほんとに追いかけてくるの?ちょっと大人げなくない?)
プヨンは、まさかの展開に驚いたが、サラリスは、あまり動揺していないようで、
「プヨン、とりあえず、逃げるわよ。空き地にいきましょう」
「え?とりあえずなの?助けを呼ぶなら、もっと人の多いところじゃ?」
「こっちよ、はやく」
サラリスはプヨンの手を強く握り、ひっぱっていく、ほどなくして空き地についた。
サラリスはプヨンを連れて空き地の奥にいき、3人は入口側に立っている。
「ほんとに、追いかけてくるとはね。誰に頼まれたのよ」
「別に誰にも頼まれちゃいねぇよ。ただ、少し、口のきき方を教えてやろうとおもってな」
じわじわと、こっちに寄ってくる。サラリスは、しかし、男たちをみないで、まわりをきょろきょろしていた。
「サラ、なにやってんだよ。ごめんなさいしちゃいなよ?」
プヨンはそう言いながらもサラリスが不自然すぎて、何か裏があるのかと勘ぐっていると、
「ティム、そのへんにいるんでしょ。さっさと出てきなさいよ」
男たちは、その言葉を聞くと、一瞬ギクッとしたが、すぐに何食わぬ顔で、
「ティム様って誰だよ。そんなやついねぇよ」
にやっと笑い、さらにこちらに距離を縮めようとした。しかし、サラリスはそれを聞いて、
「あんたら、あほなの?知らない人にわざわざ様つけるあほちんなの?」
「あっ」「うっ」
男たちは、しまったという顔をしていた。罪を認めたようなものだった。




