水魔法の使い方 2-1
ネタノ聖教の聖地マクラーンにある象徴的な建物、スーイミン大聖堂。高さ40mはある尖塔など、遠くからも目立つ。
様々な彫刻などにも彩られたこの荘厳建物の奥で、ニードネンは、1人の女性の前で跪いて報告をしていた。年は20代半ばくらいだろうか。
膝にうさぎのようなペットを乗せ、椅子に腰かけていた。
「以上で報告を終わります。予想外の邪魔が入ってしまい、申し訳ありません。メサル殿の拉致は失敗に終わりました・・・」
ニードネンはうなだれていた。ノビターン主教に先日のメサル拉致に失敗の報告を終えた。
ノビターンは椅子に座り、膝の上に乗せたスイマーという名のペットの頭をなでながら、黙って報告を聞き終えた。
「そうですか。すんでしまったことは仕方ありません。残念ではありますが、すべてに完璧ということもありえません。すでに同意していた大半の方々は予定通りに味方してくれることになっております。多少の予定変更があるのは致し方ないこと。不利になったかもしれませんが、致命的ではないでしょう」
特にお咎めもなかった。そこについてはニードネンは安堵したが、一方でその分自分達の教団がその分不利になったのも間違いない。今後、ニードネン自身でがなんらかの形で挽回をしないと気が収まらない。次の機会があれば可能な限りしっかりと準備し、相手を圧倒するつもりだった。
「ノビターン様、すぐに態勢を整え、次の手を打たせていただきます」
ニードネンがそう言うと、
「それには及びません。拉致失敗の連絡が入ってすぐ、シータとルファの2人が飛び出ていきました。それなりの対応はするでしょう」
「えぇ、あの2人がですか?」
(あのじゃじゃ馬姉妹が。こちらが失敗したとわかるや、さっそく出しゃばってくるとは)
ニードネンはシータとルファと呼ばれた姉妹とはそりが合わない。しかし、失敗してしまった身としては、自分の役割を横取りされても甘んじて受けるしかなかった。
もんもんとしながらも、黙ってうつむいていると、
「そういえば、AHI、ソレムリン研究所のメレンゲ教授が報告したいことがあるといっていました、後ほど伺ってください」
「わかりました」
そうノビターンに言われ、ニードネンは返事をすると、一礼して部屋から退室していった。
退室時に横目で見ると、ノビターンは膝の上のスイマーに何やら話しかけているようだ。その内容までは聞き取れなかったが、報告後はノビターンはいつもペットに話かける習慣があった。
今日もプヨンはのんびりと過ごしていたが、先日の虫退治の報告があり、あとで同行したユコナとレスルにいくつもりだった。もうすぐ約束の時間だなと思っていると、予定ぴったりでユコナがやってきた。
「こんにちは、プヨン、ねぇねぇ、私、昨日がんばったよねー?役に立ちませんでした?」
「え、あぁ、うん。まぁ」
やたらにこにこ愛想を振りまいている。報酬が出るから分け前の催促だろうとプヨンは思っていたが、とりあえずそこには気づかないふりをして適当に会話をしていた。道を歩いていると、急にユコナが立ち止まって、
「ちょっと待ってください、あれを買ってきます」
急にユコナが走り出して露店の方にいった。
しばらくすると、名前は知らないがこのあたりでよく見る甘みのある果汁がつまった果物と、これも水分たっぷりなきゅうりかへちまのようなものを買ってきた。
果物の方は、見た目はスイカのように見える。きゅうりは、太さも長さも人の腕くらいでかなり大きそうだ。それが、それぞれ2つずつ袋に入っていた。
「そんなの買ってどうするの?しかも、これからレスルにいくのに?食べるの?」
ユコナは、ふふふと不敵な笑みを浮かべると、
「実は、レスルに行ったら、プヨンに実験に付き合ってほしいのです。」
「実験? 先日の虫の時も実験に付き合わされたけど、また? どんなの?」
「このスイカを使って、ちょっとした実験です。レスルの報酬をもらったら、奥にある訓練場に付き合ってください。じゃぁ、ちょっと準備がありますので」
そういうと、スイカを振り回しながら、元気よく走っていってしまった。
プヨンはレスルに着くと、すぐ売店で味見をしているユコナを見つけた。
声をかけようとすると、ユコナはビエラと話をしているようだった。先日、ほとんど話をする機会はなかったが、メサルの護衛のときにハリーのグループにいたのを覚えている。何やら真剣な面持ちで話しかけており、ユコナはそれを聞きながら何度も頷いていた。
ふとユコナがこちらを見て目が合う。ユコナはプヨンに気が付いたようだ。
「プヨンいいところに。一緒にきてください」
「何があったの?」
歩きながらそう聞いた。ユコナは知らないと手ぶりで示したが、ビエラが振り返ってやれやれとため息をつく。
「あぁ、ハリーがなぁ。女の子をナンパしようとして、強引にやったのかやりこめられたらしいんだ。まぁこういうこともあったほうが、あいつにはいいのかもしれんが」
ユコナは急にやる気がなさそうな顔になったが、行くと約束したからなのか黙ってついてく。
奥の部屋に入るとハリーが寝かされていた。眠っているようだが、太ももと腕に血がにじんだ包帯をしているのが見えた。
 




