水魔法の使い方 5
「よーし、いくよー。シスターンマイステン」
高エネルギー状態にした光子を衝突させ、対生成を利用して水素原子を作る。そうすると、できた水素と空気中の酸素とを合わせて水を作ることができる。これが、プヨン流の水作成魔法だ。
ただ、このとき、酸素を使い過ぎると酸素不足で呼吸ができなくなる。だからなるべく広範囲から少しずつ酸素をかき集めないと危険なことだ。
バシュッ。バシャ。
水素が酸素が反応した瞬間、まばゆい炎が一瞬見えた。その燃焼熱と水蒸気を水に冷却するために吸収した熱は、わずかではあるが次の水素作成に流用できた。
水がバシャバシャと溢れてきた。
「ふーふー。こ、このくらいが限界か・・・」
だいたい、フィナがだした量の数倍、バケツ3、4杯くらいだった。予想以上に効率が悪いのか、できた水の量が少なく感じる。対生成は大量のエネルギーを必要とするため、ユコナのような地中や空中から水を取り出す一般的な方法に比べ、疲労度が格段に大きかった。
「ふふっ。所詮この程度か。お前ではユコナ様とは比較にならんな」
プヨンの出した水の量を見たルフトは、ユコナの水量と比較して少なかったのもあって嫌味を言ってきたが、
(もう、この辺りは絞りつくしたのに、この水はどこから?)
ユコナとフィナは、口には出さなかったが、プヨンの水魔法の仕組みが理解できず、あれこれと想像していた。
「ユコナ、こ、これでいいのかい?」
コクコクと頷くが、頭の中でいろいろと計算でもしているのか、ちょっとうわの空だった。が、望みはかなえられたようだ。
ユコナの望みはかなえて、見せ合いは一段落した。
「じゃぁ、フィナ、本題の虫退治の方をお願いしたいんだけど」
ユコナの用事を終わらせたプヨンは、もともとフィナにお願いしようとしていた案件を切り出した。
「あぁ、この間いっていたのよね。私たちにはどうってことない羽虫でも、血を吸う生き物がいっぱい発生となったら、人や動物にとっては大変よね。もちろん植物を食べる虫のように、人はいいけど私たちはダメという逆もあるんだけど」
ふと横を見るとかなり無理をしたのか疲れたユコナを、ルフトが誉めそやしていた。
「私たちもついていきますよ。すぐ移動できますよ。大丈夫です」
プヨンとフィナの視線を感じたユコナが、休憩なしで移動しても大丈夫と返事してきた。ルフトは、何か言いたそうではあったが、特に言葉にはしなかった。
「じゃぁ、行きましょうか。繁殖地は、そんなに遠くはないので」
そう言って数歩あるいたところで、フィナが振り返って、
「ごめん、プヨン。この集めた水って戻せる?土がからからになると、木々がこまっちゃうからね」
ユコナがこのあたりの地表の水気を搾り取ったので、土は砂のように白くなっていた。このままだと、次の雨まで、木々は困ってしまうだろう。
「そうだね。うん、大丈夫だよ。えーっと。ヴェポラップ」
ユコナが作った池の水を気化する。対生成に比べたら、水の気化熱のエネルギーはしれている。池の水ほぼ全部を気化して空気中に含ませると、霧のように視界がぼやけた。地表部分はそのまま液化して、雨のように降らせたので、地面が湿り気を帯びていき、土色に戻っていった。
「これで、いいよね?」
「うん、ありがとう。もとの湿気に戻ったと思う」
ユコナは、自分が作り出した水が急になくなってしまったことにすぐに気がついた。空気の湿り気が増したことから、何が起こったかは理解できた。
(プヨン。出すのはダメダメなのに、私の水を全部消したわね。また、そんなことをして。あとで聞きださないと)
ルフトは、一瞬でユコナのつくった池がなくなった理由がよくわかっていなかった。
4人は、フィナの案内で歩き出した。森はそこまで木々が生い茂っていないので、地表も十分あかるく歩きやすかった。フィナは歩きなれているのか、すいすいと歩いていく。残りの3人もなんとかがんばってついていった。
普段のくせなのか、時々、ルフトが歩くのをとめて周りを警戒する。もともとはそうした仕事をしていたからか、周囲の些細な物音なども気になるようだ。その都度、みんなより早く気が付いたルフトが注意を促し、様子を確かめにいくがほとんどは小動物だった。一度だけ、大型の獣が現れたこともあったが、こちらの人数も多く、相手は一匹だけだったので、これもルフトが少し威圧するだけですぐに逃げていってしまった。
そうこうしながら、比較的歩きやすそうな森の中を30分ほど歩くと、ほどなく、小さい池のようなところにでた。池の上には、無数の羽虫がとびまわっているのが見える。大きさは子供の手のひらサイズくらいだから、大量にこれに襲われると、無傷ではすまないように思えた。少し上の方には、それを捕食する大きな虫が飛び回っているのも見えた。
「うぁぁぁぁ、すっごい数。なんかいや」
うかつに飛び込むと、一斉に虫が寄ってきそうで、池のそばまではいかず遠巻きに見る。
「ねー、これってどうしたらいいの?」
フィナに聞くと、フィナはちょっと考えていたが、
「まぁ、確かにこの虫はちょっと増えすぎたのよね。動物たちもずいぶん迷惑がっているし。ただ、卵は水中に、虫は空中にいるでしょ。そして、虫をえさにする生き物もいる。虫だけを倒せばいいなら、火とかで燃やせばいいんだけど、それをやるとエサにしている生き物が全滅しちゃうから悲惨よ」
そういうと、上の方を指差して、
「上の方に大きな虫がいるでしょー、鳥とかも。あーいう天敵がいなくなると、もっとひどくなるよ」
全滅はそれはそれで影響が大きいから、減らすのも適度にしてほしいということのようだった。
(ちょっと大きめの蚊のような生き物か。吸血性じゃなければ、そこまで被害もないだろうになぁ)
プヨンがそんなことを考えていると、ユコナが要約してくれた。
「じゃあ、水中の卵はなんとかする、水中の表面から1mくらいまで飛び回っている問題の虫は倒すけど、上のほうにいる大きな鳥とかは倒さないでってこと?それって、難しくないですか?」
「まぁ、そうなるのよね。私たちは害がないから何もしなくてもいいし、嫌だとは言っていても、人だって手間かかるでしょー」
フィナもそう返してきた。
「どうしましょうかね?」
ユコナも、ついてきただけだとしながらも、いろいろと考えてくれているようだった。
 




