水魔法の使い方 4
ユコナがフィナの顔色を窺っていたが、いつまでも考えていても始まらない。言葉を選んで説明をはじめた。
「その、精霊様も、魔法は使われるのですか?」
「フィナでいいです。そんなかしこまらなくても、ふつうの生き物と同じです。人とは違う力があるのはありますが、逆に私たちにできないことを人ができることも多いのですから」
プヨンは、もともとフィナを特別な生き物と意識していなかった。そのため気づかなかったが、フィナは、ユコナとルフトが自分を特別視するような反応に窮屈そうだった。
「人が使うものとは違うかもしれませんが、そういった類のものは使えるものもありますよ。人が気づいているかは知りませんが、動物でも使うものはおりますし」
そう言われると大抵の肉食系の動物は殺気を放つ。狩られる側の弱い獲物はそれだけで動けなくなってしまうことも多い。程度の差はあるが、擬態をする生き物もたくさんいる。これも、実は一種の魔法と言えるかもしれなかった。
フィナはそう言った後、一呼吸おいて何かを意識しながら歩き回りだした。
(フィナってもともとは木という違う姿だとすると、この姿も一種の作られた擬態だよなぁ。すると、これは、はだしで歩きまわっていることになるのか?)
そうプヨンが思っていると、
「水を出すのであれば、こんな感じで」
バシャバシャ
「お、おぉぉ」
脇で見ていたルフトが、なぜか感動したような表情をしている。水を出すだけなら珍しくもないと思うが、古代樹の精霊がするというのが珍しいのだろうか。それなりに畏敬の念を持つ相手の魔法を間近に見たのもあるのだろう。
フィナは、人差し指を1本だけ伸ばして、その先から水を出していた。水道の蛇口から水が出るように、一定の水量の水が出続けている。フィナは、20秒ほどでバケツ1杯ほどの水を出したところで止めた。
「私は、意識してエネルギーを使う魔法というよりは、あなた方の言う、筋力強化みたいなものですよ。力を入れて走るみたいに、大地の水分をがんばって吸い上げてますよーって感じです」
裸足の足から地面の水分を吸い上げ、指先から出す。そう考えると、たしかにもとが木であれば、魔法で水を出すというよりは、水分吸い上げの力の加速=筋肉強化という言い方には納得できた。
フィナの説明になるほどとプヨンが考える横でユコナが口を開いた。どうやって言い出したらいいか、言葉を選びながらゆっくりと話す。
「唐突なんですが、実は、一度、プヨンに見てほしかったのです。町の外で水を出すのなら遠慮もいらないかと思って」
「見てほしかったって何を?え?ユコナ、何をするつもり?」
ユコナは、なぜか何か思いつめたような表情をしていた。さっき試したいことがあると言っていたが、このことなのだろうか。そうプヨンが思ってさらに聞き返す。
「見るだけでいいのかい?遠慮がいらないってどういうことなの?」
「ユ、ユコナ様が全力で水を出すとは、あの量ですか?ま、待ってください」
ルフトがユコナの意図がつかめず聞き返しながら、慌てて距離を取っている。プヨンもつられてルフトについて行ってしまった。
「ルフトさん、今までは全力ではありません。プヨンもそこで見ていてください」
そういうと、ユコナは集中し、キャスティングに入った。そして、魔法を解き放った。
急激に空中や地表の水分がなくなっていくのがわかる。土が茶色から白くなっていく。空気も乾燥してカサカサになっていく。ユコナは、地中の水分を気化し、空気中の水蒸気をかき集めているのがわかった。
ユコナのいつもの水魔法だ。そして、今度は水を液体化する。
バシャバシャザバッ。
いっきに水があふれだし、ユコナの少し前のくぼ地に水がたまっていき、25mプールくらいのちょっとした池ができていた。
「ふ、ふふ、ふふふ」
なにやらユコナは自己満足なのか、おかしな笑みを浮かべやり遂げました感を出している。息が荒くなっているのがわかり、膝がちょっと震えているところからしても、宣言通りにかなり力いっぱいまでやったのだろう。
「ユコナ様、こ、この量は・・・いつもの水量とは比較にならないくらいに多いですが、これは?」
ルフトも身構えていた以上の量を目の前にして、うわずった声を出していた。
プヨンは、ユコナが水を出した方法は、一番一般的な方法だと思っていた。おそらく地中の水分を一度気化して取り出し、集めた水蒸気を再び水に戻す方法だ。その方法で必要なエネルギー量を計算すると、これだけの量の水を気化、液化にかなりのエネルギーがいることになる。プヨンは、たった今ユコナが目の前で見せてくれたことを再確認して驚いていた。
「じゃぁ、次、プヨンもやってみてください」
プヨンがユコナの魔法エネルギー量を考えていると、ユコナはそういって、プヨンにも水を出してくれと促してきた。
「え、僕も、水を出すの?」
「はい。見せてください。いつも気になっていたのです」
「気になる?ふーん。別にかまわないんだけどさ」
全力疾走してくださいと言われても普通は全力でわざわざ走らない。それと同じでめんどくさいなとも思ったが、プヨンも今まで全力というのは試したことがなかった。必要がなかったからだが、そう誘われると、プヨンもどの程度できるかを試してみたくなる。
「わかった。いいよ。ちょっとやってみたい」
プヨンは、そう言うと準備に入った。
しかし、その横で、フィナはプヨンを見ながら、いぶかしげな表情をしていた。
(プヨン、そうは言っても、もうこのあたりは今ので空中も地中もからっからよ。ほとんど水分残っていないんじゃないの?出した水を集めなおすだけならできるでしょうけど・・・)
プヨンも似たようなことは気づいていたが、特に気にはならなかった。今回は、ユコナとは違う方法を試してみたかったからだった。
 




