水魔法の使い方 3
3人は歩き出した。ユコナが先頭で、ルフトとプヨンが少し遅れて並んで歩いている。積極的にルフトから近付いてきたようで、ルフトは、身分の違いや紳士的な行動など、いろいろプヨンに語りかけてきた。説教じみてはいるが、長年仕える立場で仕事をしてきたからなのか、ルフトなりの価値観があるのだろう。プヨンも言うにまかせて適当に相槌をうっていた。
「サラリス様も、ユコナ様も、魔法に関しては、特に秀でた力をもっておられて・・・」
などと、ユコナ達が小さい頃から魔法が使えたことがポイントが高かったらしい。そのあたりになると、かなり熱のこもった語り方だった。
「もう、そのくらいでいいのではないですか?」
ユコナも自分が言われるのが気恥ずかしいのか、何度か止めようとしていたが、とまらない。ユコナもいい加減に話題を変えようとしたのか、
「そういえば、ルフト様はどうやって見えないようにしていたのですか?私は、まったく気が付きませんでした」
と、質問した。そう言われたが、ルフトはちょっと考え、すぐに回答しなかった。複雑そうな表情をしている。が、やがて隠しておきたい気持ちからのしぶしぶと話したいという誇らしさが混ざったような複雑な表情をしながら説明してくれた。
「姿を隠す方法を言うのは基本的にはダメではあるのですが、ユコナ様ですから・・・。まわりの風景に溶け込むのですよ。虫や動物にもいるでしょう。いわゆる擬態というものです」
プヨンもそれを聞いてなるほどと思った。まったく気配を感じなかったところから、たんに見た目を変えているだけではないんだろう。ルフトは、続けて、
「自分をまわりに同化させるため、まわりの風景を投影するのです。このように」
そういうと、ルフトが、背後の景色に溶け込んでいく。そこにいるのがわかっているので、意識すると違和感のようなものを感じるが、ユコナにはわかっていなければまわりと区別がつくとは思えなかった。ルフトは、そっと気配を殺しながら、横に移動していく。それに気づいたプヨンは、それを目で追っていた。
「プヨンどうしたのです?どこを見ているのですか?」
そう言いながら、ユコナはプヨンの目の動きにあわせて、見ている方向を見た。ぼやっと風景がぼやけているように見えるので、半信半疑ながらもそこにルフトがいるのはわかったが、集中していないと確実に見失ってしまうだろう。移動したことには気づかなかった。
「くっ。このようなものに見破られてしまうとは・・・。なんという屈辱」
ルフトの声が聞こえる。表情はわからないが、ルフトは油断していたさっきとは違い、慎重に移動したにもかかわらず気づかれたことにショックを受けているようだった。でも、戦っている最中にこの状態になって素早く動かれたらどこまで対応できるか、プヨンは考えてしまっていた。
「プヨンはなぜ気が付いたのですか?」
「え、なんでって言われてもなぁ。見ようと思えば、ふつうに見えているし・・・」
ユコナにはそう聞かれても、見えたものは見えたとしかいいようがない。ただ説明は難しそうだったし、きっと教えろとくるだろうから、方法は秘密にしておいた。
「ルフトさん、もう、出てきてください」
ユコナにそう言われて、ルフトは姿を現したが、なんとなく憮然とした表情だ。ルフトに姿をだしたり消してもらったり、ユコナが質問したり、そんなやり取りをしながら、ようやくフィナのところに到着した。フィナは、プヨン達の姿が見える前からやってくるのに気づいていたようで、いつもの場所で姿を現して待っていてくれた。
「プヨンがくるの久しぶりよね。今日は、こないだいってた虫の件?3人もくるとは思わなかったけど?」
挨拶も早々にフィナが要件を確認してきた。先日から、虫退治のことをそれとなく言っていたので察しているようだった。
「こっちは、ユコナとルフトさんだよ。ユコナのことは話したことあるよね」
はじめましてとお互い挨拶したが、ルフトは、こんな家もないようなところにフィナのような子がいるのが不自然で、さらに不信感を募らせていた。プヨンは、ざっくりとフィナの素性、人ではないことをそれとなく説明しておいた。
「す、すると、そのフィナ・・・さんは、その・・・古代樹の精霊様で?」
「人によっては、そう呼ぶ方もいますね。そんな、たいそうなものではないですが」
フィナは、ルフトに対してそう答えていた。ルフトはそれを聞き、なにやら畏敬の表情を浮かべていた。精霊というと、何かすごいもののようなイメージを思い浮かべたプヨンは、何気なくユコナのほうを見てしまった。あからさまに、ほんとなのという顔をしている。
「古代樹の精霊様だけではないですが、長く生きていると自我が目覚めるといいます。霊的な存在といえばいいのか、」
ユコナが自分たちの認識を説明してくれた。
「そんな大層なものではないですよ。人より長生きしていますが、まだ、“若木”ですので」
フィナがプヨンを見ながらそう言う。若木のところに強いアクセントがあったが、プヨンはあえて気にしないことにした。ちょっとだけ横目でみると、フィナが寂しそうにしているような気がしたが、あえて、違うところを見た。
「プヨン、お二人は、一緒に虫退治されるのですか?」
なぜか、ちょっと怒り口調で、フィナが聞いてきた。にこにこしながら返事する。
「い、いや、違うよ。2人は、たまたまさっき会っただけで。こちらのユコナが、何か用事があるとかでついてきただけだよ」
「そうなのですか?ユコナさんが用事があるのに、こんなところまで来ていただく必要があるのですか?先にすませていただいてもいいのでは?」
「うん、自分もそう言ったんだけど、急がないから終わってからでと言われたんだ」
そう言いながら、ユコナを見る。ユコナは少し戸惑っていたが、
「そ、それはプヨンにちょっと聞きたいことがあったからですが、ちょっと街中では難しいので・・・」
「街の中では難しいの?なぜなんだろ?」
「・・・そ、それは、その、プヨンがまさか精霊様と約束しているとは思いもせず。その、ここで言うのもなんなのですが、ちょっと水魔法のことで悩んでいまして。プヨンと試してみたいことが・・・」
「ユコナ様は水魔法がお得意なのは存じておりますが、しかし、この者に相談ですか?」
ルフトは、ユコナの意外な返事に思わず聞き返した。プヨンもいったいなんだろうと興味を持ち、ユコナの発言を待った。




