水魔法の使い方 2
突然声が聞こえて、あわててユコナが振り返るが特に何も見えなかった。
「え、えっ。なんですか?」
ただ、2mほど離れた目の前に砂埃が立ち、何かが動く音も聞こえる。ユコナも何かいるのはわかったのだろう、音の方を向きつつ身構えていた。相手からの声などは聞こえなかった。
プヨンは、赤く見える人型のシルエットが足から着地するのがわかり、
「バターダウン」
今度は、地面の方に向かって投げつけ続ける。言い換えると、地面に押さえつけるようにしてみた。手のひらを前にだして、手で押さえつけるような仕草をする。ユコナは目の前の空間とプヨンの手のひらを交互に見比べていた。シルエットは耐えようとしたが、徐々に背中が丸まり、跪き、そのうち、耐えられなくなって地面に倒れてしまった。
「うぐぅ、・・・ま、まっ・・・て」
声を出そうとしているだが、胸が押さえつけられているのでうまく声をだせず、手で地面をばんばんと叩きながらもがいていた。土にしか見えなかったところの色合いが徐々に変わっていく。そして、1人の年配の男の姿になった。
「あっ。あなたは。たしか、ルフト様」
「えっ、ユコナの知り合いなんだ」
プヨンは、下向きの力を緩めずにいたが、ユコナの知り合いと知って驚いた。ルフトは、気づかれてしまったとわかり残念そうな顔をしていたが、首を縦に振っていたが、口に出しては、
「うーうー」
と何か呻きが聞こえただけだった。いくぶん安心したプヨンは、そこまで心配する必要もないかと力を緩め、ルフトはそれに気が付いて立ち上がった。
ルフトは少し頭が白くなっているが、体つきはかなりがっしりしていた。先ほど空中で姿勢をたもっていたから、かなり動作も機敏に動けるように見えた。ルフトが立ち上がったところで、ユコナがおもむろに切り出した。ルフトは非常に恐縮しているようだ。
「なぜ、ルフト様がここにいるのですか?」
そして、プヨンの方を振り返り、
「こちらのルフト様は、サラの領地で護衛隊長をされています」
そう説明してくれた。なるほどと、プヨンも顔見知りの理由に納得した。
「・・・申し訳ありません、ユコナ様。・・・その職は以前に辞したので今はしておりませんが、その・・・、旦那様に言われてお二人の護衛を・・・」
「旦那様って、サラのお父様から?」
ルフトは言葉には出さないが、ゆっくりと頷いた。それを聞いて、ユコナは少しムッとしながら、
「なぜですか?サラではなく、私なのですか?」
「き、今日はたまたまです。サラリス様はおでかけされていないので。以前からサラリス様達が頻繁に町に行くことを気にされていました。それで、その護衛を兼ねて・・・」
ユコナが、ゆっくりとプヨンの方を向き、
「いつからですか?」
ルフトではなくプヨンに聞いてきた。本人に聞いても証拠がなければ今日からだというに決まっている。きっともっと前からだろうと推測したユコナの考えを察したプヨンは、
「僕が気が付いたのは、2年半くらい前かなぁ。それ以前は、気にならなかったというよりは見分ける術がなかったから。ただ、時々で、いつもついているわけではなかったよ」
「そ、そんな前から。きっと、もっと前からですね」
「はうぅ・・・その、それは、仕方なく」
隠れて護衛していたことをずばっと言われてしまい、ルフトもだまってうつむいていたが、先ほど地面にねじ伏せられたこともあって、プヨンには目つきが厳しかった。ただ、プヨンはルフトの護衛との説明を聞いて、小さいころからサラリス達だけで出歩いていたことが不自然と思っていたため、かえって納得できた。地方の小領主や都市長程度ならそんなものかとも思っていたが、こっそり護衛がついているのは考えてみたら当たり前だった。それも、引退したとはいえ、元隊長ということなら相当に腕がたつのだろう。
「そ、その、サラリス様は以前から誰彼かまわず声を掛けられるところがありますし、その、お二人がかなり魔法が使えることは存じていますが、かえって自己保身に欠けておられるのも事実・・・その、旦那様がかなり気にされておられます」
そこで、ちらっとプヨンの方を見て、
「それに、その、ここ最近は特定の平民と頻繁に会っておられることを大変心配されていまして・・・万が一のことがあったらと・・・」
「そこまでしているなら、プヨンのことは調べているのでしょう。そこは問題はないと思いますよ」
「いや、しかし、そう言われても、はいそうですかとは言い難く・・・仲がいいことはわかりますが、どこまで信用できるのやら・・・」
ルフトは、見下すとまでは言わないが、ユコナと話すときとは違って、プヨンには、年齢的にも上なことに加え、職業的なこともあるのか高圧的な態度や口調が感じられた。
「今日はプヨンに聞きたいことがあったのですが、先にプヨンの用事をすませてからとなったのです」
ユコナがそう説明してくれたが、
「なんですと?ユコナ様の用事が後回しなのですか?・・・なんということ」
「いいのです。そんな急ぐことでもないですし、町中では頼みにくかったことですので・・・」
「そうなのですか?しかし・・・」
ルフトはぶつぶつ言っていたが、ユコナはいつものことなのか特に気にした様子もなかった。
「プヨン、フィナさんのところに早く行きましょう。こっちでいいのですか?」
そういうと、ユコナは歩き出した。




