回復魔法の使い方 2-2
プヨンは、人工呼吸と心臓マッサージを続けていたが、これだけではダメなこともわかっていた。レアが意識を戻す気配はなかった。レアが意識を失ったのが、ペリンが扉を開けて叫ぶ直前だったとしても、2分近く経っているはずだ。
「メサル、実は、もう一個ある。これができる保証はないが・・・はぁ、はぁ」
そう言いながら、息を整える。心臓マッサージはかなり疲れる。筋力強化はしているが、それでも息は切れる。
「な、なんだ。いってくれ」
「実は、魔法を使いたいが・・・胸に直接触れる必要がある・・・」
「ちょ、直接・・・。わかった。もう、好きにしてくれ。なんとか治してくれ」
「・・・メサル様」
ペリンが呟いていた。もう、時間的余裕はない。事前のレアの様子を調べる余裕もなく、これにかけるしかなかった。
プヨンは、少し考えていた。たしか、心臓を復活させるのは、心臓に短期で電流を流せばいいはずだ。1500ボルトで、30アンペア、5ミリ秒くらいでいいはずだ。女の子だから、ちょっと弱めの20アンペアでもいいかもしれない。
ビリビリ
レアの左わき腹と右胸上のあたりの服の生地を破き肌を露出させ、金属がまわりにないか確認した。そして、そこに右手と左手の人差し指を添えた。
「リスワイフ」
おおよそ加減した電流を流す。
バシン
レアの体が反動で少し跳ね上がる。再び心臓マッサージを続けながら、様子を見るが、レアが動く気配がない。
「ちょっと弱かったか。もう一度、リスワイフ」
少し電流を強くする。
(これで、うまくいってくれ)
プヨンが強く願っていると、
「カハッ・・・ハッ」
レアの口から音がし、息を吹き込もうとすると抵抗を感じるようになった。見ると、胸が上下している。自分で呼吸を始めたようだ。
「あ、胸が動いている。呼吸が戻った」
ユコナが、気が付いて声にだした。それを聞いて、プヨンもほっとしていた。どうやら、うまくいったようだ。事前検査がなく本当に必要なのかがわからない状態で、通電時の力加減もおおよそではあったから、失敗する可能性も高かった。
「よ、よかった。言い方悪いけど、ダメ元だったし、まぁ、なんとかね」
プヨンもほっとして、横にいるメサルに目で合図を送って場所をあけてやった。ペリンは、足の痛いのも忘れているのか、跪いて、何度も奇跡です、ありがとうございますなどと言いながら祈りを捧げていた。メサルは、レアの様子を一通り見終わると、
「プヨン、現象を目の前にしていうのもなんだが信じられないが、ありがとう・・・あの状態から、復活するとは・・・(こんなことができるやつがいるなんて、俺はダメダメだ)」
メサルの言葉の最後の方はぼそぼそと声が小さくて聞き取れなかった。ユコナも、首をふったり、何かぶつぶつ呟いていた。
「は。うっ」
レアが、急に体を動かしたと思うと、目を開いた。
「あ、お兄様・・・私は、どうしたのでしょう」
「あ、レア。気づいたか。そのまま動かないで」
レアは、何か思い出すように考え込んでいたが、自分の胸のところの赤いシミと、メサルがレアの前で跪いているところから状況を推測したようで、急に眼を見開いて、うるうるさせながら、
「あ、あぁ、わたしのお兄様が、私の命を助けてくださったのですね」
自分の好きな兄が自分の命を助けてくれた状況に酔っているようだ。それがかえってメサルを落ち着かせたようで、
「い、いや、それは違う。俺が治したのは、ただ、胸のところをっ」
「この血のシミですね。わかってるんです。胸を打ったのを覚えています。こんなところを治せるのはお兄様だけです・・・あぁ、うれしい」
レアの言ううれしいの意味は、命が助かったとか、怪我が治ったとは違う意味を含んでそうだった。
「お、俺じゃないのに」
聞こえるかどうかわからない小声でメサルはつぶやいたが、レアには聞こえなかったようだ。お兄様が私を治してくれた、とか、嬉しい、などといった言葉を呟いていた。
プヨンは、メサルに気づかれないようにそっと立って外に出た。ユコナもそれとなくくっついて出てきた。後ろから、
「プ、プヨン。待ってくれ、俺を一人にするな・・・」
「お兄様、何を言うのですか。レアがついていますよ・・・」
そんな声が聞こえてきた。もちろん、プヨンもユコナも後ろは振り返らなかったが、ふとユコナの視線に気づいた。
「プヨン、いろいろ教えてくださいね」
「え?な、なにを?」
「いろいろです。今日したことをいろいろ」
「えぇ?」
(ユコナに語ることなど、なにもなーい)
「なんかいいましたか?」
「よ、喜んで・・・ふぅ」
「ふぅ?ふぅってどういうことですかっ」
厳しい取り調べの予感がした。
 




