回復魔法の使い方 2-1
プヨンは馬車の方に走り出した。距離にして20mほどで、筋力強化しているので走った時間は2秒ほどだ。爆炎の魔法が消えたのを確認し、撤収するニードネン達が視界から消えるのを確認してからなので、すでに1分以上たっていた。さすがに、今の状態を考慮すると、移動するニードネンを追撃するのは難しそうだ。ここが安泰でもないため、ニードネン達が去るのを黙って見送るしかなかった。
プヨンが馬車の方に向かって走る。もうすぐ馬車の扉というところまできたとき、急に馬車の扉が開き、ペリンが顔を出して叫んできた。
「だ、だれか、すぐにきてください! 」
そう言いながら、すぐに目の前にいるプヨンに気が付き、
「あ、プヨンさん、きていただけますか?あちらは、大丈夫なのですか?」
よく見ると、ペリンは足を引きずっているようだ。先ほどの衝撃で怪我でもしたのだろうか。しかし、どうやら、自分の怪我できてくれといっているのではないようだ。
「あっちはたぶん大丈夫。な、なにがあったの? 」
プヨンは、戸惑いながらも、ペリンに聞いてみた。
「レア様が怪我をされて、様子がおかしいのです。こ、呼吸がおかしいとメサル様が・・・」
ペリンは扉の横によけてプヨンを通してくれた。馬車の中に入ると、レアが長椅子部分の上に寝かされていて、メサルがレアの胸あたりに手をあてているのが見えた。どうやら、治療魔法をかけていたようだ。プヨンに気づくと、
「おぉ、プヨン。ちょっときてくれ」
メサルは、場所をあけてくれた。レアの胸当たりが見えているが、血がにじんでいるのか、少しだけど、服の生地が赤くなっているのが見えた。
「血?胸をどうかしたの?」
「あ、あぁ、さっき馬車が大きく揺れて、その際にレアが、椅子の角のところで強く胸を打ったんだ。怪我したと思ったんでそのあたりは治したんだが、一度立ち上がったあと、急に倒れてしまって・・・」
プヨンがよくよく見ると、レアの胸が上下していないように見えた。
「傷は治ってるの?メサルが治したんだ?」
すると、横にいたペリンが、
「メサル様は治療に関しては教会内でも指導的立場におありです。メサル様以上の方はそうそうおられません。でも・・・」
足を引きずっていたペリンが急に背筋を伸ばして誇るかのように説明してくれた。ちょうど、そのタイミングでユコナも入ってきたが、緊迫した雰囲気を感じたのか、何も言わず、入口でかたまっている。メサルはペリンの言葉に対して特に気にした風もなかった。固まっていたが、プヨンは、とりあえずレアの首筋に指をあててみた。が、何も感じなかった。
「み、脈がないのでは?息もしていないようだし」
「そ、そうなんだ。息をしていないんだよ。脈もやっぱりないか」
「あぁ、ここの胸のところも。心臓がどくどくと脈打ってない・・・これは・・・」
プヨンは首筋の触る場所を変えたりしながら何度も確かめてみた。
「そ、そんな。息をしていないと、死ん・・・。こんなことになるとは」
ペリンは、死んでしまっていると言いたかったのかもしれないが、不吉な言葉を口にするのもためらわれたようで、口をつぐんでしまった。ただ、死んでしまったことは否定できず、ショックもあってか、へたり込んでしまった。
「き、傷は治したはずだ。治った後、一度立ち上がって歩いたんだ・・・そして、急に倒れて・・・」
メサルは、レアが立ち上がった時のことを思い出しながら、確認するように呟いた。
「立ち上がって倒れた?すぐに?もしかして、心臓震盪? 」
「し、しんとう?震盪ってなんだ?知っているのか?」
メサルがプヨンの肩を掴み、激しくゆさぶりながら叫ぶ。もはや、どなっているに近い。
「胸とかを強打すると、ショックで心臓が止まることが、まれにあるんだよ。さっき胸を打ったって言ってたよな」
「あ、あぁ、胸を強打したが、プヨンが言うように呼吸や心臓が停まっているなら死んでいるじゃないか。そ、そんな・・・。なんとかならないのか?」
「え、なんとかって気持ちはわかるけど、なおせということか?それは・・・その」
「死んでいるのに生き返らせるのですか?そんなことできるのですか?なんとか・・・なる可能性があるのですか?」
それまで黙っていたユコナが、急に何か気づいたかのように叫んだ。
「え、いや、それは、その・・・」
プヨンは、なぜか、煮え切らない様子だったが、
「ダメなら、プヨンは最初からできないというでしょう。そんな含むような言い方、可能性があるなら、するべきです」
ユコナがそう断言する。まぁ、まったく可能性がないと思ってないのは確かだけど、事前の体調検査もなく、どの程度の力加減でやったらいいのかの経験もなかったから、プヨンとしても自信があるわけではない。
「プヨン、頼む。なんとかできるなら、してくれ」
「し、しかし、あくまでそういうこともあるだけだし、治る保証はないけど・・・」
「それはしかたない。難しいのか?確かに一度とまった心臓を動かすとか想像もできないが・・・」
メサルが、殺気だってきた。たしかに、時間がないのもある。
「心臓を触るということは、む、胸を直接触らないといけない・・・そして、口から息を吹き込まないといけない」
メサルは一瞬どういうことかと考えていたが、プヨンの言う意味がわかり、
「あ、兄が許可する・・・たのむ」
「メ、メサル様、口移しとは、その、よろしいので?」
「緊急事態だ、やむを得ないだろう」
ペリンは何か含むような言い方をしてメサルに確認したが、メサルは即答していた。メサルにそう言われ、プヨンは、とりあえず心臓マッサージをする。みぞおちの上あたりに手のひらをあてて、押す動作を繰り返す。それを続けながら、首下に転がっていたクッションを入れて気道を浮かせ、息を口から吹き込んでいた。
メサルは、ユコナを見たが、ユコナは、横に首を振りながら、
「わ、私にはどうしたらいいのかわかりません・・・」
「レアが死んでしまうよりはましだろう」
プヨンは、メサルには何か気になることがあることを感じ取ったが、状況が状況だけに聞く余裕はなく人工呼吸と心臓マッサージを続けた。これは、予想以上にハードな動きのため、プヨンでも徐々に息が切れてきていた。
 




