護衛の仕方 2-8
「なんか、仕掛けてくるつもりかしら?味方じゃないから、何もないとは思わないけど」
サラリスは警戒しながらそう言った。50mくらいまでためらうことなく近づいてきたところで2人が立ち止まった。何をしているのかと見ていると、そのうちの1人から大きさはソフトボールくらいだが数発の火球が放たれたのが見えた。1、2、・・・全部で4発だ。
「あっ」
サラリスもすぐに気づき、声を出した。
「きたわね。昨日の失敗を挽回するわよ。見てなさいよ・・・女神アイギスの咆哮!」
サラリスがそう叫ぶと、サラリスの手のひらの先から8発の火球が放たれた。そのまま、相手の放った火球目掛けて飛んでいくように見えた。
「おぉ、すごいな。アイギスの咆哮ってなんだ?」
放たれたサラリスの火球を見ながらサラリスに聞くと、
「ふふ。狙った獲物を確実に打ち落とす防御魔法よ。同時に128以上把握できるのよ」
(そうか。でも、それなら命中確実なのに、なぜ相手の倍の8?)
サラリスが何か考えたものらしい。プヨンには少し疑問があったが、ここはあえて大人な対応として、突っ込まないことにした。
「サラ、何か考えたのですね?すごいですね。確実に落とせるとは」
ホイザーの治療をとりあえず終えたユコナも、こちらに寄りつつ会話に加わってきた。ホイザーはとりあえず寝かされたままだが、呼吸が落ち着いているようだった。
ちょうどプヨンが確実を発言すると同時くらいに、相手の4発とサラの8発が互いの距離の真ん中あたりですれ違う。3発が命中し、残りはお互いにすれ違った。
「うち漏らした?」
「あれ、1つはあたりませんでしたね」
「なるほど。看板に偽りありと思います」
プヨンとユコナは、当然ではあるが、打ち漏らしたことから、「確実」でないことを指摘していた。サラリス達と相手が直線状に並んでいるため、うち漏らしはまっすぐに相手のところに向かって飛んでいくのが見えた。
「ふふふ、見なさい。戦いとは常に2手、3手先を読んで行うものヨ。たとえ打ち漏らしても、相手への攻撃につながるのよ」
命中こそしなかったが、相手が驚き、慌てているのが見て取れた。また、落とし損ねた1発がプヨン達に向かって飛んでくるが、
「では、ここは、私が・・・。高さの氷壁よ出でよ。10mの高さまでそびえよ。アルパインルート」
最近はユコナも、得意な魔法であれば、あまり複雑な準備をすることなく使うことが増えていた。高さ10mの巨大な氷壁をイメージしながらユコナが唱えると、1m程度の四角の氷の板が現れ、火球に向かって飛んでいき、見事に命中する。厚みが薄いからか氷壁は砕けたが、火球も打ち落とされていた。氷壁の勢いが残っているのか、砕けた氷の破片がそのまま前方に向かって降り注いでいくのが見えた。
「ふふふ、確実に落とすという事は、こういうことです」
「やるわね、ユコナ」
(頭の上では、氷で打ち落とすのは危ないなぁ)
サラリスとユコナがお互いを見ながら、さわやなか笑顔を振り向き、プヨンは、こっちに氷が落ちてこないかとひやひやしていた。さすがのユコナの氷魔法、多方面に氷魔法の効果がおよんでいた。
「ど、どういうことですか?ゴスイ。すべて落とされてしまったではないですか?相手に魔法が使えるものがいるという情報はなかったはずですが」
「も、申し訳ありません、ニードネン卿。こ、こんなはずが・・・」
サラリスとユコナに放った火球4発をすべて落とされたゴスイは、少し慌てていた。目的が相手の身柄の確保であり、怪我を与えない程度の全力でないとはいえ、防がれるとは。あまつさえ、サラリスの残り4発が飛んでくるのが見える。この距離まで相手の攻撃が届くのも予想外だった。
「くっ。こちらが避けることになるとは」
ニードネンが慌てて左手に避けていくのに、自分も倣う。
「申し訳ありません、次は、手加減はいたしません」
そういうと、ゴスイは、腰の位置に手をやり、自分のストレージを解放した。つながった経路を介して、中に収納していた魔力瓶の中からの魔力を引き出しつつ魔法のキャスティングをする。先ほどより時間をかけ、ゆっくりエネルギーを集め、多くのものを集めていく。
その間も、ホイザーは地面に横たわったままだった。
 




