護衛の仕方 2-7
「すごい」
そうユコナが叫び、ホイザーもやれやれと一息つこうとしたちょうどそのとき、空中からホイザーに向かって火球がとんできた。
「あっ、ホイザー」
プヨンが気づき、とっさに叫んだが、倒したと一息つこうとしたホイザーが油断したのか、「ぐはっ」
、ホイザーの回避が一瞬遅れた。ホイザーは避けきれず、右肩に火球があたってしまった。威力がそこまででなかったからか、幸い服などに火はつかなかったがよけ方もまずく、ホイザーは弾き飛ばされ、打ち所が悪かったのかそのまま気を失ってしまった。
「あ、ホイザーが・・・」
ホイザーが、倒れ伏したのを見て、馬車から出たところで立って様子を見ていたユコナが声をだし、治療をしようと駆け寄ろうとした。
「ユコナ、待った。まだ、相手が見えていない。倒れたけど、致命傷じゃないと思う」
胸の上下があるし、出血もなさそうで、ホイザーは致命傷ではなさそうだ。そう判断して、うかつに傍によると攻撃を受けるかもしれないとユコナを手で制した。まわりを警戒しつつ周囲を見渡していると、
見たところ、他に戦えそうな大人はいないようですし。手荒にして怪我をさせてしまうと、いくら見た目を治したとしても心理的にその後の交渉に差し支えるかもしれません」
どうやら、この2人を中心に、ハリー達護衛と引き離したうえで攻撃をしかけてきたようだった。交渉というからには、身柄と引き換えに何か要求するつもりなのかもしれない。
「わかりました。では、さっそく」
ゴスイはイーゴスになんらかの指示を出すためか、目をつぶって思念を送っているようだ。
それを受けて、遠巻きにプヨン達の様子を探っていたイーゴスが突然うなりだし、威嚇を始めた。
「サラ、イーゴスの感じがかわった。仕掛けてきそうだよ」
「プヨン、わかってる。けど、どうしよう。どうしたらいい?」
「ど、どうしようって、選択肢ってあるの?逃げられないんじゃ?」
「生け捕りにするのかどうかってことよ」
サラリスは特におびえているような様子もなく、心理的にも余裕があるようだ。負けそうとは思っていないらしい。ユコナも、プヨンとサラリスの後ろにいるが、ユコナも大丈夫そうだった。
「生け捕ったところで口も聞けないと思うけれど・・・」
プヨンがそう言うと、サラリスはうなずき、
「昨日と同じ失敗はしないわよ。見てなさいよ。スイカクラーッシュ」
そう声を出すと、ドッジボール大の2発の火球が現れた。うち1発がイーゴスに向けて放たれた。イーゴスがステップを踏んで横に避けたところを狙って2発目が命中し、イーゴスは炎に包まれた。毛皮に包まれていたからか、イーゴスは火がつくと消すことができないようで、のたうち回っている。数秒して火球の炎が完全に消えたころには、イーゴスは死んではいないが動くことはできなくなっていた。
「イーゴスは、あっという間にやられたということですか?ゴスイ」
「も、申し訳ありません。ニードネン卿。まさか、あのように素早く放てるとは予想外でした。次は、わたくしが直接仕掛けようと思いますが、少し距離が離れすぎておりますので、もう少し近づく必要があります」
「そうですね、少し離れているので威力が落ちてしまいますし、逃げられては意味がありません。ただ、馬車に危害を加えないように注意しなさい。捕獲対象は、まだ中にいるはずですから」
「承知しております」
そういうと、ゴスイが前に、その少し後ろをニードネンが縦に並び、馬車の方に向かってゆっくりと歩き出した。
「あ、こちらに近づいてくるつもりじゃない?ユコナ、気を付けて」
(え?俺は気を付けなくていいのか?)
イーゴスがいなくなったためホイザーを治療しようとしたユコナに、サラリスが注意を促した。ユコナは一度視線を前にやり、サラが言う2人が歩いてくるのを確認したが、治療を続けていた。どうしたものか、こちらから仕掛けるのもためらわれ、相手の出方を伺うことにした。
 




