護衛の仕方 2-6
「ホイザー、ハリー達の馬車が、大型の獣に襲われてるよ。あれは、イーゴスっぽいけれど」
「なんだと・・・」
「しかし、こっから魔法を打つわけにもいかないし、どうしようもないよな・・」
プヨンの声にホイザーは反射的に反応するが、バランスがとれないのか、うまく立ち上がれず声だけの反応だった。なんとかホイザーが窓にたどり着いたころには、ハリー達の馬車はかなり離れてしまっていた。
そのままなすすべもなく、かといって降りることもできず、中にいたところ、
ガタン
馬車の前部分が地面につき、振動が収まった。そのまま、一角獣の声が遠ざかっていくところを見ると、馬と馬車をつなぐハーネスでもはずれたのか、置き去りにされたように思われた。プヨン達が後ろの窓から見る限りは、ハリー達の姿も他の人の姿もなかった。
「俺が見てくる。お前らは、そこにいろよ。そちらの皆さんも」
すぐそばのプヨンに命じ、奥のお客様3人にも目で一礼したあと、扉の留め金をはずし、ゆっくりとホイザーは馬車を降りていった。剣を抜きながら、後ろ手に扉をそっと押して閉め、そのまま前に歩いていく。
プヨンはホイザーがまわりを注意しながら歩みを進めるのを見ていた。そのまま10歩程進んだそのとき、ホイザーの背後の馬車の降り口の下あたりから、首筋に向かって黒い影がとびかかるのが見えた。
「ホイザー、後ろっ」
「うぉっ」
とっさにプヨンが叫ぶ。同時に、場慣れしているだけあってホイザーも気配を感じて斜め前に飛びのこうとした。しかし、獰猛な犬のような動物の動きは早く、よけきれず押し倒されてしまった。
「ぐっ」
ホイザーがもがいているのを助けるため、プヨンは、あわてて馬車の扉を開き、まわりを警戒しながら下に降りようとしたが、その瞬間、プヨンのすぐ脇を火球が飛んで行った。
「わたしに、まかせて! 」
そう叫んだサラリスが、とっさに火球を放ったがイーゴスはひょいと避け、そのままホイザーから少し離れ、距離をとってこちらを警戒していた。ホイザーはすぐに立ち上がり、
「す、すまねぇ。油断した」
そう言いながら剣を構えなおして身構えていた。革製の厚い服を着こんでいたからか、怪我らしい怪我はないようだ。一方で、イーゴスもまるで予測していたかのようにサラリスが放った火球を避けていた。その後、イーゴスはいったん引いて3人から距離をとり、うなりながら、遠巻きに様子を伺っていた。
プヨン達にはまだ気づかれていないが、プヨン達から100mほど離れた、木が何本か生えているそばに人が2人立っていた。
「ニードネン卿、護衛を引き離したのもあって、こちらは手薄のようですね。今、火魔法を放ったものがおりますが・・・あれも護衛なのでしょうか。どうされますか?」
「そうですね。ゴスイが、あのイーゴスをけしかければ、すぐ方が付くのではありませんか?」
そんなセリフをかわしている。
「承知しました。では」
ゴスイと呼ばれた男は、そういうと、イーゴスを見ながら、手ぶりを交えて何かを念じるような仕草をする。すると、イーゴスは、うろうろと様子見をするのをやめ、威嚇するようにうなり声をあげるのだった。
「お、こいつ。急にうなり声をあげだしたぞ。気をつけろ」
ホイザーが目線をイーゴスから動かさないようにしつつ、横目でプヨン達を見て声をかけた。その瞬間、イーゴスはホイザーにとびかかってきたが、それは予測していたのか、ホイザーは余裕たっぷりで軽やかにかわしていた。
「どりゃー」
かわしつつホイザーが剣で切りかかったが、これも、イーゴスは軽やかにかわしていた。そうした応酬が何度か続いたが、
ズバッ
さすがに剣の使い手のホイザーはたくみにフェイントをいれつつ相手の動きを読んで、数撃目で見事にイーゴスの首を打ち落としていた。首を切られたイーゴスは、切り跡から血を噴出させながら惰性で2歩ほどよろっと歩き、そのまま倒れてしまった。岩場の地面に流れ出た血で、血だまりが広がっていった。
 




