護衛の仕方2-5
「おい、ブローセン、あれは、肉食のイーゴスじゃないのか?」
ハリーは、突然、道端の茂みからでてきた3頭のイーゴスを指さして叫んでいた。イーゴスは、yegods系の狼と虎の間のような生き物で、かなり獰猛だ。それを見て、後ろにいたホイザー達の、ヤッパリム神号の一角獣が驚き、急に方向を変えて道からはずれ、岩場の方に向かって草原を走っていく。御者が必死に制御しようとしているが、一角獣がパニックなのもあって、ただ、しがみついているだけだった。
「まさか、食おうとしているのか?こんなところでか?とりあえず、追うんだ」
ハリーの指示で、荷馬車も向きを変え、その後ろを追い始めた。が、すぐに御者をしていたブローセンが、後ろのハリーを振り返って、
「・・・・なんか、へんじゃないっすかね。あれ。一角獣を食うのかと思ったら、なんだか、追い立てるような・・・」
「あ、あぁ、俺も気になってた。昨日のこともある。構えとけよ・・・」
いくらゆっくりの一角獣とはいえ、パニックになって、それなりに頑張って逃げているところで、ハリー達も馬車を止めるわけにいかず、しばし、といっても15秒くらいだが様子を見ていた。
「おい、ビエラ、弓の準備はまだか?」
「できてますよ」
「よし、じゃぁ、はずした時に矢を馬が踏まないように、右端のやつを・・・・狙って」
「なるほど。俺がはずす前提なんですね・・・。ハリーのケツの右端に当たるかもしれませんしね」
ハリー達の中で一番若いビエラは、そう冗談を言いながらも目はまっすぐにイーゴスを見つめていた。
「うっ・・・・。撃てっ」
ハリーは一瞬どもりながらも、タイミングを見て指示を出し、ビエラは矢を放った。
ビュッ。風切り音を立て、矢が飛んでいくが、しかし、イーゴスはステップを踏んで横にかわし、矢はすぐ脇の地面に刺さっていた。
「おいっ。はずしているじゃないか。もう一発だ」
ビュッ。ガスッ。
再び狙われたイーゴスだが、先と同様で、タイミングを合わせたステップかわしていた。
「あ、あのイーゴスは、背中からの攻撃を避けたぞ。どういうことだ」
ビエラが叫び終わると同時に、3頭のイーゴスのうちの2頭が踵を返し、ハリー達の馬車に襲い掛かった。
「う、うわー」
それに驚いたハリー達の馬車の馬が驚いて立ち止まったため、ハリー達は勢いもあり投げ出されていた。なんとか受け身を取ってすぐに立ち上がる。しかし、イーゴス2頭は馬を襲うでもなく、ハリー達を牽制してきた。そのため前を走るホイザー達の馬車を見送る形になってしまった。
「な、なんだこいつらは。馬を狩りたいのじゃないのか。やむを得ない、この2頭を手早く片付けて、前を追うぞ」
ハリーの号令がかかり、それに対応して、みな素早く動いていた。
「な、なんだ。急に、馬車の向きがかわったぞ」
一角獣の鳴き声が聞こえたかと思うと、急にすすむ方向がかわったのがわかり、ホイザーは思わず叫んでいた。
「ひゃ。何ごと?」「いったー」
半分腰を浮かして演説していたレアは、立っていられずひっくり返って床下でもがいているし、サラリスは席の手すりや固定されているテーブルなどをつかみ体を支えていた。馬車が整備された道から外れたようで、揺れがかなり大きく、立って外を見るのもおぼつかない。
「ば、馬車を止めろっ」
ホイザーが外にいる御者に向かって叫んだが、一番後ろからでもあり、走る走行音でかきけされたのか、一向に速度のゆるまる気配はなかった。
影の角度から進む方向が変わったのはわかったが、なまじ窓に薄手のレースのカーテンがかかっているのもあって、外の景色が見えない中馬車はすすんでいく。馬車の前方からは一角獣の悲鳴のような声と、そのわきの方からは別の吠え声が聞こえている。馬車の速度がそこまで速くないからか、皆の叫びもすぐに落ち着いてきた。
「いったい、どうしたんだ」
プヨンはそう言いながらもなんとか、壁伝いに、後ろの窓まで行って外を見た。なんとか外を見ると、ハリー達の馬車の前に2頭の大型の獣が立ちふさがり馬を威嚇しているのが見えた。そのまま、ハリー達の馬車と離れていくのが見えた。
 




