護衛の仕方2-4
「なるほど、偵察に赴いたついでで仕掛けてみたら、持参した魔力の半分を喪失して、連れて行ったジーワンをすべて失ったというのですね、ゴスイ」
「申し訳ありません、ニードネン卿。事を性急に運びすぎてしまいました」
薄暗い部屋の中に3人の男がいる。そのうちの1人、頭を垂れているのは、昨日ホイザー達を襲い、その後逃走した男のようだった。その向かいにニードネンと呼ばれた男性が立っている。見た目は細身で、まだ若そうだった。
「しかし、相手の人数が把握でき、兵士のみとの情報だったのが、魔法を使う者がいるとわかったことは収穫でした。次は私も含めた3人でいきましょう。マクラン、準備してきた魔力量の残りは、どの程度ありますか?」
「約40デパソンです、ニードネン様」
マクランと呼ばれたのは女性で、薄いローブのようなものを纏っていた。薄緑色の液体の入った大きめの瓶を、布を敷き詰めた木箱に入れて両手で持っている。どうやら不用意に振動を与えないようかなり気を使っているようだ。
「では、2人は、100デパソンずつストレージに収容してください。私は残りを所持します。仕掛ける場所は、昨日の打ち合わせ通りにしましょう。北の帝国領では、うまく事が運んでいるので、足を引っ張るわけにはいきません。私たちの目的を成し遂げるためにも、ここは確実に成功させねばなりません」
そう、ニードネンが言うと、2人は大きく頷きあっていた。
天気もよく、プヨン達一行の馬車は順調にすすんでいた。豪華な馬車がくるからか、たまに追い越す徒歩の者たちの中には、道端に寄って通り過ぎるのを眺めている者たちもいた。いったん休憩をはさんだあと、馬車の中ではレアの演説第二幕が続いていたが、そろそろ終盤のようだった。プヨンは、もうほとんど聞いておらず、左手の指を使って、ちょっとした考え事をしていた。ユコナも、もうあまり聞いていなかったが、適当に相槌だけは打っていた。ふと向かいを見ると、当のメサルは、寝落ちしそうになっている。そうした中、人の命に係わる魔法がレアの話の中で何度も出てくることもあり、気になっていたことがあった。
「ねぇ、ホイザー。その・・・なんていうか、教会の司祭とかって、魔法の研究とかをしたりするの?命を司る魔法ってあるの?やっぱり難しいの?」
レアの演説を聞きながら、ホイザーに小声で聞いて見た。ユコナも興味があったのか、ぴくっと反応していた。
「さぁなぁ。俺は魔法はそんなに詳しくないが、プヨンもたしか治療が得意だったと思うが、教会はふつう治療魔法を使うだろう。生と死を操れる魔法があるか、調べたくなるのはわかる気がするけどな」
「そんなのあるの?調べたくなるってことは、ないのかな?」
「死んだものを生き返らせたりってことだろ?伝説では、神に祈りを捧げたら生き返らせてもらったとか、死んだと思ってた人間が生き返ったとか、聞いたことがないわけじゃないが、まぁ、眉唾ものだろうさ」
「カルカスのような、死体としてではなく、もとの生きた状態ということですよね?生きている間は治療ができても、死んでしまったら、どうしようもないと思います」
ユコナも回復治療ができることもあって、横から加わってきた。
「プヨンは、以前治療AAAを取っただろう。無くなった部分を再生するやつだが。プヨン程度の年で使えることは驚きではあるんだが、あの手の魔法は戦闘も意識した防衛学校ではけっこう研究されている。難易度はとても高いが、できる人もいないわけじゃない」
ホイザーが、以前とった治療資格のことを聞いてきて、そうだとプヨンは頷いた。
「あぁ、でも、実はなぁ、レスルには一応、規定はあるんだよ。AAAAってやつが。誰が作ったのか知らんが、あるということは、どっかでは使えるやつがいるのかもなぁ」
「そうなのですか?ちょっと信じられませんが。でも、じゃぁ、その資格の条件ってなんなのですか?」
ユコナは、興味があるのか、食いついて聞いていた。
「うん?あぁ、まぁ、なんだ。AAAは、完全になくなって時間が経っている部位を復活させたらで、AAAAは、胸がどきどきしているのを知っているだろう。これを心臓というんだが、これか呼吸が止まったあと、もう一度動かして意識が戻ったらだ」
「そんなことができるんですね・・・」
「まぁ、ほんとにできることがあるのかは知らんがな。まぁ、できそうなら言ってくれ。きっと、国からお呼びがかかるだろうよ」
ホイザーは、手を横に振りながら、無理無理の仕草をしていたが、
「ただ、メジロタニアは、後方支援や魔法の勉強にはうってつけだ。そういうことを学ぶなら、実地もあるし、教育も充実してるから、わるくはないだろうよ」
とのことだった。
治療が一段落すると、ユコナは、プヨンの方を向いて、
「そういえば、プヨンはさっきから、左手で何をしているのですか?指を曲げたり伸ばしたり、複雑な動きをして・・・・」
「あぁ、これか。実は、ちょっと、今、試そうとしている魔法があってね。少し確認をしていたんだよ」
プヨンには、左手の3本の指を折り曲げて、確認をしながら、試したい魔法があった。
「ま、魔法ってことは、ギャザリングの類なのですか?なんという、複雑な。いったいどんな魔法を?」
「い、いや。できるかもわからんし、使うかもわからないから・・・秘密だよ」
「え、秘密なんですか?しかし、そんな複雑な動きを。何度もたしかめて・・・」
そういったとき、急に、馬車が激しく揺れた。馬車の外から、一角獣の鳴き声が聞こえている。
「な、なんだ?」「なんですか、いったい」
皆、口々に、驚いたのか、状況を確認しようとしていた。
 




