護衛の仕方2-3
「よし、ハリー達は、くるときに乗ってきた馬車に乗ってくれ。何かあるまでは、横になっていてもいいぞ」
必死に2日酔いを隠そうとしているのがわかるハリーにいうと、
「こんな、硬いところで揺られながら寝ろとは、お前は鬼か・・・」
「歩きたいのなら、とめはしねぇが・・・・」
ぶつぶつ言いながらハリーはしぶしぶ、残りは助かると言いながらぼろ馬車に乗り込んでいった。さすがに酒の臭いもするのだろう、いい方の馬車には乗れないのはわかっているようだ。ハリーの目の下のクマを見ると、どうやらナンパにでも失敗して、その後やけ酒でも飲んでいたと容易に想像でき、ホイザーなりの気遣いかもしれなかった。
「プヨン、俺たちは、こっちのヤッパリム神号のほうだ。一角獣車だから、乗り心地はいいぞ」
「やった。私こっちがよかったのよね。これでお尻痛いのから解放されるわ」
サラリスは、それを聞いて、うれしそうだった。
馬車は後ろから乗り込むようで、中に入ると通常の前後ではなく左右で向かいあって座るタイプの馬車になっていた。とても広く、座り心地もよかった。奥の左にメサルとレア、右にユコナとサラリス、プヨンが向かい合って座り、入口にホイザーとペリンが座っていた。
「うふふ、ユコナ、ふかふかだね」
「えぇ、これなら、疲れないで移動できますね」
ユコナとサラリスもご満悦だった。一度、ホイザーは外に出て、いろいろ指示していたが、やがて、
「よし、出発だ」
と、ホイザーの号令で、ヤッパリム神号と荷馬車はのんびりと動き出した。一角獣の馬車はほとんど揺れなかった。なぜなら、牛車のようにゆっくりと進むので。一角獣は、一見、角があり筋肉がっしりだったが、すばやく走ったりは苦手なようで、歩くよりは早い程度の速さで、のんびり優雅に進んでいった。
とりあえず、ホイザーがお客様を前にして、あらためてプヨン達に今回の内容の展開と確認があった。
「さっきも紹介したが、こちらが、メサル様とレア様、そして、修道女副長のペリン様だ。お三方とも、ネタノ聖教の責任あるお立場の皆さんだ。今回は、俺たちのいるユトリナまで護衛として同行することになる。」
そう紹介すると、ペリンは頭を下げて一礼し、メサルもそれに続いた。同様に、ホイザーはプヨン達の紹介もしてくれたが、単に名前と同い年くらいということで呼んだと伝えただけで、万が一の場合の護衛は(2日酔いではあるが)表のハリー達だと説明してくれた。そして、レアの演説が始まった。
「みなさん、本日は、私どもネタノ聖教徒をご支援いただき、ありがとうございます・・・私共の内々の事情ではあるのですが、この度は急遽3名のみで移動となりましたのでお願いすることになった次第です」
(ええっ?レア様、昨日のお兄様好き好きと雰囲気と全然違う。話なれているのか?)
昨日の温泉前での話し方を知っているプヨンには、打って変わって妙に威厳のある話し方に思えた。
「そもそも、ネタノ聖教は、平和と友愛を旨とする・・・」
ネタノ聖教は、プヨン達のユトリナにある教会が属するシンシナ系と大きく二分される。治療などの医療、教育活動などが主なシンシナ系に比べ、貧困対策などの福祉や、心の支えなどを主にしていた。また、死などに対する心の持ちよう、輪廻的な考えも持ち合わせている。レアは、教義を復唱するかのように、こうしたことを懇切丁寧に説明していた。修道女のペリンは、頷きながら聞きほれていたが、メサルは微妙な顔をしていた。
「私たちの属する、ネタノ聖教では、死は終わりではないと考えています・・・」
こうした死が終わりと考えない輪廻的な考えは、どこの宗教でも多少なりともあるはずで、現世の行いが来世に影響するとか、今のことだけを考えていてはいけないと戒めるのはよくあることだった。レアの演説が続く。
「・・・ですので、こちらにいる兄であるメサル司祭は、人の命を司る術を探求しているのです。その功で先日オモテマーの称号を授与され、さらに今後へのステップとして、マルキア王国のメルキナの町にある王立防衛学校に行くことを考え、今回、受験にあたっての下見に行くことになったのです」
「そうなのですか?王立学校というと、メジロタニア防衛学校のことですか?私たちも、入学を検討したりしています。魔法などを学ぼうと思うと、このあたりだと一番いいようですね。しかし、防衛学校でもあるので、宗教活動とは相反するかもしれませんが・・・」
「えぇ、そうなんだ。ユコナ達も、入学するんだ・・・知らなかった」
プヨンは、そういったことは存在も知らなかったので、ユコナ達も学校を受けるというのを聞いてちょっと驚いていた。
「・・たしかに、防衛学校ではあるので、人を殺めることにもつながるのですが、私たち2人だけではなく、各国のそうした学校にそれぞれ若干名派遣され、そうした人の体に係わる魔法の体系を整理していくことになっているのです・・・なぜなら・・・・」
そこから、メサルの優秀さ、いかにして選ばれたのか、身体的な治療はともかくその先にある精神や命を操る方法への探求心が語られた。
「そうなのですね、私たちも幼少の頃から魔法には興味がありました。常日頃からもっと上を目指したいと思っていたのです」
ユコナやサラリスは、目的が似ているからか学校話で盛り上がっている。そして、兄は体が心配なので双子の妹であるレアが同行を申し出た理由が続いた。やがて、いかにレアがメサルを慕っているか、兄を命をかけてでも守るのが自分の使命だと語り始め、口調にも熱がこもり終わる気配がまったくなかった。
ふとメサルを見ると、またかという顔をしながらも、初対面のプヨン達に力説するレアを見ながらちょっと恥ずかしそうにしていた。ホイザーは完全に空気になっていた。プヨンは、ホイザーに小声でこっそりと、
「なぁ、ホイザー。少し聞くけど、ホイザーが、僕たちに頼んだ護衛って、この口撃から、ホイザーを守るためとか?」
聞くと、ホイザーは、ニヤッと笑い返してきた。




