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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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孤独の癒し方(追加)

263話までのいただいた感想などを踏まえ、21/03/03に追加させていただきました。

 今日も何も起こらない。今日というのがいつからいつまでかもよくわからないが。

もちろん、動くことも寝ることもない。


 私はこのあたりを漂うとある粒子の集まり。名前はまだない。


 誰も私を呼ぼうとしないからだ。マジノ粒子などと呼ばれていることを知ったのは、ごく最近のことだ。


 このマジノ粒子というやつは意思と物質のエネルギーのやり取りを仲介する物質のようだが、これがぎゅっと集まったところに自分というものがある。


 私が私を認識したのはいつのことだろうか。


 それからは何も起こらず、何かを感じることもなく。ただ考え続けた。考えるということが何かを考える。そんな時間が過ぎていった。


 あるとき、今までにない感覚を味わった。これはなんだ。やがてわかった。自分のすぐそばを、たまたま何かのかけらが飛んできたのだ。


 このとき物というものがあることがわかった。それからは、意外に多くの物に気付くようになった。近いもの遠いもの大きいものに小さいもの。


 そして自我あるいは意思をもってからは、ものに働きかけることができるようになっていた。


 例えば、あそこの小石にこちらにこいと強い意志をもって念じると小石がこちらに近寄ってきたり、明るくなれと思うと輝いたりする。意思がエネルギーを移動させ、物質に働きかけたからだ。


 こっちこいと念じると岩は寄ってくる。あっちいけというと遠くに行ってしまう。



 水素が集まって恒星に、岩が集まって惑星になるように、マジノ粒子が集まってわたしができた、ということも理解できるようになった。確かめる方法などもちろんないが。



「あかるくなーれー」


 近くにものがあると、距離に応じてだが少しずつエネルギーをもらえ、それらを物質にぶつけることで、さらに多くの色々な現象を起こせることに気が付いた。


 岩を割ったりくっつけたり。熱くしたり冷たくしたり。



 物質が含んでいるエネルギーを、私の意思である程度自由に移動させることができた。 周りは宇宙空間だ。基本的に何もない。とても温度が低い。熱を生み出すには多くの意識を集中する必要があった。


遠くにあるものほど、エネルギーは伝わりにくく、もらいにくくなる。ある距離を境に急激に威力が高まることもわかった。


 様々なルールがあることもわかっていく。このルールは偶然とかバラツキというものはない。あるとしたら、自分の力の入れ加減や気まぐれといったものだ。



「どっかーーん」


 一度、岩の持つエネルギーをすべて集め、すべてのエネルギーを取り出してみた。これは反則に近いエネルギーを生み出した。まさに大爆発。あやうく自分自身のマジノ粒子の集まりも吹き飛ばされそうになった。


 まばゆい光と高熱、そして膨大な電子線が放出された。


 想像を絶する巨大なエネルギーが吹き荒れ、中心にあった物質は消滅してしまった。ばらばらになったのではない。存在そのものが消滅したのだ。


 物質そのものをエネルギーに変化させてしまったらしいと気付いたのはずっとあとのことだ。対消滅で重さに応じたエネルギーが発生したとみる。


 おかげで周りの物質は吹き飛んでしまった。岩も、遠くのマジノも、こちらに近寄ってきたその他すべての物質も。



 遊び道具がなくなってしまった。周りの物質が何もないので、そこからエネルギーを取り出すこともできない。じゃあ物質を作れるのかと挑戦したが、対生成でものを作り出すこともできなかった。エネルギー源がないからだ。



 長い時が過ぎた。何度も遠くのものを呼び込もうとしたが、距離に応じて著しく減ってしまう私の能力では、なかなか物質を呼び寄せることができなかった。



 あの遠くに見える小さな星が光りはじめたのを見た記憶がある。距離が遠すぎて鑑賞できないが、米粒程度にしか見えない星。新しい恒星だ。恐らく直径は数万キロはあるはずだ。巨大な星であれば、多くの物質を引き付ける。


 私が近くの物質を吹き飛ばしてしまったのとは逆に、あの星は、もしかしたらあそこにいるマジノ粒子の自我が近くの物質を引き寄せたのだろうか。


 少しうらやましかった。あーいうやり方もあったんだ。



 徐々にまわりの物質を引き込んで巨大な星ができていく。やがて、自我をもつ他の何かができたら意思の疎通ができたりするのだろうか。そんなことを考えながら、日々変わっていく星を見る楽しみができた。


 さらに長い時間が過ぎた。どれくらいの時が経ったのかわからない


 最初はほのかな明かり程度だったが、今は青白くなっている。直視できないくらい明るい。



 「おーい、お前もしゃべれるなら、なんか返事よこせよ」


 

 自分の意思を最大出力で送った。それも何度も。しかしそれでも意思が届かないのか、時間がかかっているのか、それとも自我そのものがないのか、返事は返ってこなかった。 




 「……お助けください。……雨を降らせてください」


 どこからだろう。初めて違う意思が届いた。


 衝撃的な現象だ。そもそも意思が届くという感覚がわからないが、自分以外の何かを感じる。その意思の声の方を見るが何も見えない。すぐ近くではないようで、ずっと先に小さな明かりが見えた。その点からほんの少しだけずれている。


「雨っていうのは水か? 水なぁ。加減がわからんけど。ほれ、『ミミズ水見ず耳に水入り』」


 密かに使っていた水を作る方法。これで近くなら大きな水の球体が作りだせた。


 声の方角に水を出してみたつもりだが、希望に添えたのかはわからない。それっきり返事がなかった。



 あの方向に何かいることは間違いない。遠くに星が見えているが、あそこには強い自我を持つものがいるのだろうか。


 またしばらく声は聞こえなかった。


 しかし、それからも時々何かのお願いが聞こえてくるようになった。会話ではない。一方通行の呟きのようなものだ。


 非常にまれにではあるが、何かの報告やお礼のようなもの、何かの言葉の羅列のような意味のない呼びかけ、祈りと呼ばれるものも聞こえるときがあった。

 

 気まぐれに願いをかなえたり、また時にはいたずらをすることもある。特にその意思が途切れる瞬間の祈りはよく聞こえた。それが死というものであることを知った頃、意思が何かから解き放たれる瞬間、そして新しい自我が生まれる瞬間には大きな波動を発することもわかった。


 

 自分の自我の届く距離が増えたのだろうか、それともそうした意思を送れるものが増えてきたのだろうか。


 そのうち意識は届かないが見える方法もわかってきた。


 重力を利用したレンズを応用し、光と意思を集める。さらに自分の意識を集中することで、ごく狭い範囲であれば拡大して見えるようになっていた。


 巨大な顕微鏡のようなものだ。


 遠くを見て楽しむ、いろいろな生き物がいろいろなことをしていることがわかるようになってきた。


 それには、岩、気体、星、そんなものもある。自我をもつ多様な者たちがいることがわかってきた。



 そして、ある日。


 遠いところで強烈な光が発生するのを見た。星が爆発するのは何度か見たことがあるが、それ以上の強烈な光。何が起こったのかわからない。


 しばらくすると、強烈なマジノ粒子の流れを感じた。慌てて自分の身を引き留める。



 そして、自分の意識の強さと同じ、あるいはそれ以上の自我がすぐ近くにあることに気づいた。ただ返事はない。そのまますごい勢いで通り過ぎていこうとしている。本当に意思の結晶のようだが、意思の存在感の大きさに反して、とてつもなく小さかった。


 まるで大きな星が、チリ粒になったようなものだ。


「おい、ちょっと待てよ」


 捕まえた。なんだこいつは。



 返事があった。


「何か、目の前が光ったような気がしたら、意識がなくなったような・・・」


 独り言なのか。その自我が自分の意思を伝えてくる。こんなすぐ近くで意識を感じたことはこれまでなかった。


「おや、意識があるのね・・・って、これ、伝わってる?」

「え? えぇ、わかりますけど?」


 か、返ってきた。返事がすぐに、こんな近くで。こんなことは初めてだ。


 改めて目の前を見る。どうやらマジノ粒子の集まり、自我のある意識体のようだが、しかし、その密度が尋常じゃないほど濃く、何かを放っているのが私にもわかった。


 この目の前の自我はただふつうにマジノ粒子が集まったのではない。何か得体の知らない力で凝縮されているように感じる。


 そのためか、ブラックホールに星が飲み込まれるように、私自身が引き寄せられ、飲み込まれそうにすら感じた。


 しばらく会話というものを楽しんだ。


 どうやらこの者は私のことを神か偉大なる霊体のように思っているようだ。


 たしかに以前の呼びかけでもそんなふうに呼びかけてくるものがいた。


 まぁ、いい。そう思うなら、そう思わせても問題ない。好きに呼ばせればいい。違うといっても何が違うのか説明しようがないのだから。



「女神マジノって呼んでいいよ」



 会話、楽しすぎる。こんな楽しいものとは。しかも目の前の者はいろいろと知識を持っているようだ。私が経験で知ったわずかなルールを超越している。私を神と呼んでいるが、こちらからしたらあいつのほうが神レベルだ。


 私のように熱するか冷やすか原子同士をやみくもにぶつけるか程度しかしらないものとは違う。


 しばらくこいつで遊んでみよう。どうなるかはわからないが、この者がどうしたいのか、好きにさせて、それを影から支えてやろう。きっと面白いことになるに違いない。

 私自身もルールを学び、より偉大な存在になれそうな気がする。


 そうだ、以前からよく声が聞こえる星に向かってこいつを送り込んでみよう。こいつなら、きっと私と連絡を取りながら何かしてくれるかもしれない。


 よし、こいつに目印をつけて、見失わないようにして。


「あ、あそこで、意識が途切れた人間がいるわ。あそこにあなたをくっつけてあげるね」


 そういうと、彼がマジノ神と呼んだ私は、カタロという自我を遠くの生き物にくっつけてやった。生まれたばかりで自我が失われてしまったようだ。


 さぁ、面白いものを見せてくれ。そして、いつかまた語ろう。


 わたしはこれから起こるいろいろなことに期待してわくわくしていた。


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