護衛の仕方3
プヨンはあらためて相手の兵士達を見ていた。さっきは気のせいかと思った光の帯が、より強く見えていた。その光の帯は奥の方の森に向かっている。
(何かあの先にある?もしかしたら、操られている?)
プヨンはそれが気になっていて、わきにいたユコナに聞いてみた。
「ユコナは、あの兵士たちから光の糸のようなものが奥の森の方に向かっているのが見える?」
「え、光の糸ですか?・・・・いえ、よくわかりませんが」
「そっか。見えないんだな。といって、さすがにそばにいって確認しようがないし」
(80mくらいか?うまくいくかわからないけど、ちょっと試してみるか)
「ドームフー」
ちょうど光の帯が森の中に入っていくところを中心に、空気の気圧差を作ってみた。
気圧差のある建物の扉で強い風がでるように、プヨンが作った空気の圧力差により木々の間に突風が吹き、小さい木の枝がしなっているのが見えた。
すると、木の間から、1人、転げ出てきた。すぐに立ちあがり、特に逃げもせず、なにやら、魔法でもかけるのか複雑な手の動きをさせている。
「ホイザー・・・・」
ホイザーに話しかけると、ホイザーも気づいたようで、
「あいつがおおもとか。ハリー、行けるか?」
ホイザーがハリーに言う前から、すでにハリーも走り始めていた。
「1人ついてこい」
仲間に声をかけつつ、転げ出てきた男に向かって駆け寄っていった。
一方で、プヨンは、サラリスの方を向いて、
「サラリス、あれを狙える?」
「えっ。あ、あれね。まかして。私、この夏に海にいったときに、ちょっと特訓したのよ。一度狙った獲物なら、今なら目隠しをしていても命中させられるわ」
サラリスがそう言うと、火球放出の準備のため構えて、
「スイカクラーッシュ」
サラリスの叫びと同時に、スイカ大の火球が2発打ち出された。火球はツバメが飛ぶような速さで相手に向かってゆるやかな放物線を描きながら飛んでいく。サラリスは命中を確信しているのか、すでに満足気な顔をしていた。
「炎天下のあの特訓はつらかったわ・・・・」
「・・・そうなんか、厳しい特訓だったんか?」
何かを思い出すかのようなサラリスを見ながら、プヨンは適当に相槌を打ち、火球の行く先を見ていた。火球に追い越されたハリーも気づき、走る速度を落として火球の飛んでいく先を気にしているのが見えた。
サラリスの放った2発の火球は、空の雲の切れ間から光が差す中を、かなりの勢いで狙った男に向かって飛んで行っていた。それを確認しながら、プヨンは気になっていた、相手の兵士からの光の帯の切断を試してみることにした。
「リフトゥ」
プヨンは、RとLの発音に注意しながら、見えている魔力の糸を断ち切ろうと意識を集中してみた。通常の魔法だと、発動までの魔力のつながりは一瞬だからか、こんな光の帯は見えないが、今は、相手の兵士と、遠くに見える男との間で常に繋がっているように見え、あちらの男から何かしらの影響が目の前の兵士につけられているように思われた。
プヨンが仕掛けると、光の糸は切り取られたようになり、4人とも光の帯は断ち切られた。
ドサ、ドサリ。
「な、なんだ?」「え、なに?」
目の前のゆっくりと立ち上がっていた兵士たちが4人とも、その場に崩れ落ちた。
ホイザー達も、サラリスも、目の前の兵士たちが崩れ落ちたのを見て、とっさに事態が呑み込めず、驚いていた。ユコナも、油断せず、兵士たちを見つめている。が、兵士たちは倒れたまま、動き出そうとはしなかった。
一方、火球に狙われた相手は、走ってくるハリーを迎え撃とうとしていたが、光の帯が断ち切られたことに気づき、さらに予想外の距離からの火球にあわてふためいているように見えた。こちらまでは聞こえてこないが、何かしら叫んでいたようだが、すぐに再び森の中に走って戻ろうとした。それに気が付いたサラリスは、兵士から前方に目を向け、
「ま、待ちなさいよ。動いちゃダメでしょ」
逃げ出した男を見て、サラリスがあわてて意味不明なことを言う。
「何言ってんだ、サラ?聞こえてないと思うし、ふつう、よけるだろ?」
「避けたら、あたらないでしょー」
「サラの気持ちもわかるけど、あたってやる義理もないでしょ?」
ユコナも、ごくあたりまえのコメントを返していた。
男は森に向かって走って逃げているようだが、間もなく、サラリスの火球は、2発とも、男が元いた位置に着弾した。
炎だけで、弾頭としての実態がないが、それなりの砂埃が舞っていて、一時的に男は砂埃で見えにくくなってしまう。ハリー達もそう当たるとは思っていなかったのか、走り続けている。
「クッ。あの男、私のスイカ弾をかわすとは。やるわね。」
「はずれましたね」「はずれたな。目隠ししててもあたるんじゃないのかな?」
「スイカは動きませんしね」
「なるほど。そういうことか」
ユコナが追い打ちをかけつつ、ニヤニヤしていた。サラリスは、ぶーたれながらも、2発目を打とうとしていたが、砂埃が舞っているからか狙いがつけられず、見通しがよくなったときには、馬にまたがった男が駈け去っていくのが見えるだけだった。さすがに、走る速度が違うのか、ハリー達も追うのをあきらめ、駆け足で戻ってきた。
「さっきの火球を打ったのはお嬢さんかい?すげー距離だな」
「あぁ、あの距離を届くって、見たことないよ」
サラリスは、火球を打ったが命中しなかったことをいじられて不貞腐れていたが、ハリー達にまっさきに到達距離を誉められたことで、機嫌が急回復したようだ。一人でにこにこしだした。サラリスを一通りほめた後は、ハリーはホイザーのほうに向きなおり、
「す、すまねぇ。もともと逃げる準備もしてたようだな。ということは、狙って襲ってきたのか?」
完全に息が戻っていないハリーだが、状況を考えながらホイザーに向かって話しかけた。
「あぁ、考えにくいが俺たちを狙ってたのか?まぁ、こいつらに聞くか・・・・」
ホイザーは、倒れている4人の兵士たちに目を向けて、あごで示した。
そのとき、ユコナの叫びが聞こえた。
「みなさん、そこから離れてください」
プヨンも、天気がよく温かい昼間なのに、何か背筋がぞくっとして、一瞬だが寒気のようなものを感じた。ホイザーやハリーも同じなのか、ユコナが叫ぶのと同時かそれよりはやいくらいで、後ろに飛び下がっていた。
 




