教官試験の受け方6
とりあえず、作り笑いでサラリスを出迎えることにして、お愛想で祝辞を言っておいた。
「サラリスさん、合格ですね。おめでとうございます」
「まぁね。受かる自信はあったんだけどね」
サラリスは、さっきまで受かるかどうか不安だらけだったくせに、急に強気になっていた。
「ところで、ホイザーが一緒なのは、何かあるの?」
「なんで、サラリスがさんづけで、俺は呼び捨てなんだよ」
ホイザーがむすっとしながら話す。が、なにか裏があるのか、急に愛想笑いをし始めた。
引きつったような、よくわからない笑顔をしながら、説明を始めた。サラリスも、それを受けてなんともいえない顔をしている。
「実は、プヨンとサラリス様に、ちょっと頼みたい依頼があってな。護衛依頼なんだが・・・。なんといっても、火魔法の教官様だし、プヨンは、回復が得意だったはずだし、まさにうってつけでな」
ホイザーは、レスル関係の依頼をもってきたようだ。
サラリスも、ざっくりと聞いてきたのか、しぶしぶという顔ではあるが、うんうんとは頷いている。
「し、しかし、護衛任務っていったい誰を?しかも、護衛というからには守らないといけないんでしょ。守れって言われても、戦闘経験なんかないよ?ちょっと難しいんじゃないの?」
「そうそう。わたしも、ちょっと護衛というのは引っかかってるの。たしかに、火魔法を使えはするけど、実戦経験とか、何かあっても守れないと思うのよね」
サラリスも、当然といえば、当然の質問をする。話をある程度聞いてきたのかと思ったが、こころよく引き受けたわけではないようだった。しかし、ホイザーは、そこは意に介さず、
「だ、大丈夫だ。戦闘系の護衛は別についている。実は、お前たちに頼みたいのは、戦うのが主な目的の護衛ではないのだ」
「???、そうなの?戦闘向けの護衛がいるのに、さらに護衛がいるの?なにのための護衛?」
サラリスも、よくわからないというように聞き返している。
「あぁ、ちょっと事情があってな。内容は、隣町のバトイシュルからここの町ユトリナまで、護衛するだけの簡単な任務だ。なぁに、まず誰かに襲われることなんかない・・・はずだ」
「な、なんで、そこでいったん間があくの?・・・でも、バトイシュルってこのあたりで一番大きな温泉街よね」
プヨンは、ホイザーのおかしな話し方に、思わず突っ込んでしまった。ついうっかり言葉に怪しさが出てしまったことに、ホイザーは、しまったという顔をしたが、突っ込みにはスルーして話を続けた。
「あぁ、バトイシュルは温泉だ。護衛は7日後なんだが、護衛対象が隣町にくるんだ。俺らはそこに前日に移動。一泊して護衛対象を引き継いで、この町に連れてくるんだ」
「お、温泉町に一泊?仕事で一泊なの?」
「そ、そうだが、何かあるのか?」
すると、サラリスが急に眼を輝かせて、
「なるほど、任務として温泉に一泊して美しくなったあと、元の町に戻るついでに一緒にいればいいのですね?」
「そ、そうだ。その認識で間違いない。もちろん、温泉代は自腹だが。」
「でも、私がきれいになったら、みなの護衛がおろそかになるかもしれませんが・・」
「・・・・今とそんなに変わらないから、たぶん、大丈夫だ・・・」
「まぁ・・・・。それはそうかもしれません。すでに十分ハイレベルですし・・・」
ホイザーは、ハイレベルな認識にちょっと困っていた。見かねた、サラリスが、
「プヨン、ホイザーも困っていますし、重要な依頼です。引き受けましょう」
サラリス、即断である。どう考えてもサラリスの認識はおかしいと思われるが、ホイザーも、そこはあえて訂正しないでサラリスの認識を肯定した。
「え、サラ、ちょっと待って。こんな説明じゃ・・・」
「プヨンの先ほどの罪は、不問にします」
「えっ?つ、罪なの?」
どうやら、サラリスの強権が発動されたようで、プヨンにはなすすべはなかった。
そして、サラリスの回答を受けて、ホイザーは、にんまりとしていた。
ホイザーから、護衛任務の斡旋を受けたプヨンは、どうしたものかと考えていた。
ホイザーは、続けて説明してくれた。
「実はな、今回の護衛対象は、お前らと同じくらいの年の兄妹なんだ。ネタノ聖教って、知ってるだろう?細かくは説明しないが、北方のヒルネリア帝国あたりが本拠地の昔からある教義の組織だが、最近かなり勢力を伸ばしている。そこの副主教の孫の護衛なんだよ。噂では、天性なのか、かなりの回復魔法の使い手らしい。プヨンとサラリスとは気が合うのではないのかな。特に回復については、いい意見交換もできるんじゃないか?」
長い説明だ。口調からも、ホイザーの思いが滲み出ている。
プヨンは、温泉よりは、回復魔法についての意見交換のほうが興味が持てそうだった。
「なるほどね。護衛というよりは、暇つぶしの相手みたいなもんか」
そう、プヨンがホイザーに聞くと、ホイザーもうなづき、
「あぁ、まぁ、そんなところだよ。手伝ってくれよ。危ないことはないし、手当もはずむぞ」
「まぁ、戦闘では役に立たないけど、話し相手で小旅行ができるなら、おいしい依頼なのかな」
ふと、横を見ると、サラリスは、すでに心ここにあらずに見える。
あらためて聞くまでもなく、頭が温泉で満たされたに違いない。今更、拒否はできそうになかった。
(そんな行きたいのか。普段から行けそうだけど)
とプヨンは思ったが口には出さなかった。
「わかったー。やるよー」
「おー助かるよ。よろしくなー。日を間違えるなよ。来週だからな」
そのあと、サラリスは、教官の資格証をもらい、今日は、帰宅することとなった。
 




