教官試験の受け方5
サラリスは試験終了の合図からもなかなか立ち上がれなかったが、心配したプヨンがそばに寄ろうとすると同時に、サラリスもなんとか立ち上がった。なんとなく、ふらふらとしているように見える。プヨンは、サラリスの手を取って、とりあえず、控室のほうに連れて行った。
「サラリス、大丈夫かい?」
プヨンが、サラリスに声をかけると、
「う、うん。大丈夫。大丈夫よ」
サラリスも問題ないと返してきた。プヨンも安心して、
「そっか。よかった、ばかちんとか言われたから、ちょっと焦っていた」
そこまで言い切った時、サラリスは、はっと何かを思い出したように、
「全然大丈夫じゃないでしょー、さっきのは何よ」
急に大声で怒られた。
「え?え? 俺、なんかした?」
「したわよ。何よ、あの数は。どうやってあんな数出すのよ。防げないでしょ」
「だ、だって。片手って言っといたけど・・・・」
「あんた、手を広げなさいよ。片手って、ふつう5でしょ。多くても7,8だと思ってたわよ」
サラリスは、そこで一呼吸おいて、はぁはぁと息を整えた後、続けて、
「そもそも、なんで、片手があんな数になるのか、説明しなさいよ」
「い、いや、その・・・以前、サラが、お菓子1つもらうねって言って、10個食ってたから・・・・1本は10でいいのかなと」
「死ねーい」
サラリスに、とても小さいが火球をぶつけられた・・・。キャスティングなしだ。
「あ、あっつーー。ま、待って」
「待たないわよ。何でそんなこと知ってんのよ。全然関係ないでしょー」
当たり前といえば当たり前だが、サラリス激怒モードになってしまった。これは抵抗してはいけない状態だ。
「は、はい。ごもっともです」
サラリスの怒りの理由はもっともとも思えた。たしかにふつうに考えたら火球5だと思うだろう。そこに10倍近い数が出たら焦るはずだ。そのあとも、サラリスはいろいろ文句を言っていたが、プヨンも自覚もあったため、特段の反論はせず、宥め続けていると、なんとかサラリスの怒りも落ち着いてきた。
「でも、試験はどう評価されたのかなぁ。ちょっと心配だな、プヨンどう思う?」
サラリスは、最後の防御が思い通りにいかなかったからか、かなり不安そうだった。しかし、少なくとも防御以外の2つは、その他のメンバーよりは十分よかったと思えるため、
「俺は問題ないと思うけどなぁ。ちゃんと防御できて、体も怪我してないはずだし」
そう、サラリスをフォローすると、
「そ、そういえば、私、防御してて、これ以上無理ってなった時点で、急に残りの火球が消えちゃったのよね」
思い出すように、ゆっくりとサラリスが言ったが、プヨンは、自分で魔法を中断したのはわかっていたが、そこはわざわざ説明する必要もないので、
「へー、でも、サラが防御効果で打ち消したんじゃないの?他にないでしょ」
「え、そ、そんなはずはないと思うんだけど」
サラリスは、あまり納得していないようだった。
「プヨン、大丈夫。わかってるから、ほんとのこと言って」
「え・・・やっぱわかっちゃうか。サラリスがちょっと厳しそうな表情をしていたから、ギブアップかなと思って、火球全部キャンセルしたんよ」
そう説明すると、サラリスは、「えっ」っと小さくつぶやいて、
「やはり、プヨンか。・・・・一度出した魔法をどうやって消すのよ」
「どうやってって、サラリスが防御するのも消してるようなもんじゃない。出す方は意識を切れば、魔力の供給も止まるんだから、自然に消えるんじゃ?」
「射出したら勝手に飛んでいくだけでしょう・・・・・相変わらず、訳の分からないこと言って・・・」
これ以上、墓穴を掘るわけにもいかず、かといって、ずっと黙っているわけにもいかず、どうしようかと思っていると、ちょうど係の人がきた。どうやら結果がでたようだ。
「た、助かった」
「助かってないわよ。あとで、きっちり聞くからね」
サラリスはきつい口調で言われたがプヨンはとりあえず生き延びることができた。とりあえず、サラリスは呼ばれたので、試験官についていった。
10分ほどでサラリスは上機嫌で戻ってきた。一目見るだけで、合格だったんだろうと推測できた。が、すぐ横にレスルのマスターのホイザーがなぜか付いてくる。
(なに、あの雰囲気・・・・)
プヨンは、いやな雰囲気を感じて、すばやく後ろを見ないで歩き出した。少しずつ歩くスピードをあげ、遠ざかろうとする。
スススッ。
なぜかすり足で遠ざかろうとするプヨンに気づいたホイザーが、
「待て、プヨン。待ってくれ。頼みがあるんだ」
「待ちませーん」
走ろうとしたが、
「さっさと戻ってきなさいよ。プヨン」
なぜか、サラリスは、ホイザー側に事前に話を聞いているからか、話を聞かないという方向にはいかないようだ。
「・・・は、はい」
サラリスのさっきの件があったため、プヨンは、ここはおとなしく聞かざるをえなかった。魔王からは逃げることはできないのであった。
 




