かみの子の作り方4
「誰も、戻ってきませんね」
メイサがそうつぶやくと、バザリアも、
「そのようですね。戻ってきそうな雰囲気はありませんが。しかし、いくら何か事情があったにしろ、このような赤子をここにおいて長時間離れたりするでしょうか?」
と、メイサが考えていたことと同じ疑問を口にした。
ときおり、赤ん坊が、「ふぎゃー」などと声を出す以外は何も聞こえない。動物や人が近寄ってもこない。
「赤ん坊が入っている紙箱?のようなものの中に、何か手掛かりとかはないのでしょうか?水も食料も、見たところ置いていないですが」
メイサが思い出したようにバザリアに言い、箱の中身を確かめだした。
赤子は上品そうな乳児用の服の上を布でつつまれている以外は、特に身に着けているものや身元に繋がりそうなものはなかった。
ただ、赤子を紙箱から取り出すと、その下に厚手の布で覆われたものがもう1つ入っていた。
「ふぎゃぎゃー」
箱から出してわきに寝かせておいた赤ん坊が再び泣いたのをみて、メイサは持っていた布袋から水筒をだし、
「喉でもかわいているのでしょうか?飲むかしら?」
といいながら、水筒の水を飲ませてくれた。
(あぁ命の水だ)
喉が乾き切っていたので、この上なく美味しかった。ようやく一息つけた。
バザリアが取り出した布を外から眺めて調べていたが、中身を勝手に取り出すことをためらっていたところ、メイサが開けましょうとばかりにつぶやいた。
「この布地の中身はなんでしょうか」
バザリアが布をあけると、指輪と小さい錫杖のようなものが出てくる。
「メイサ様、指輪と、杖?これは、なんでしょうか。他には何もなさそうですね」
「そ、そうですか。身元がわかるものなどもないのですね。この杖は何か意味があるのでしょうか?」
「・・・さぁ?なんとも。」
しばし、メイサは考える。といっても選択肢は1つしかなかった。
「この子は1度保護して、連れて戻ったほうがよいと思いますが、バザリアはどう思いますか?」
「そうですね。さすがに、このまま置いておくのはまずいと思いますが」
「そうですよね。この子は、1度連れ帰って保護しましょう。その旨を書いて、残しておけばいいと思うのですが、どうしましょうか。」
そう言われたバザリアは、紙と墨のようなものを取り出し、
「この子を預かっている。返してほしければ、この先のユトリナ教会にくるように」
と書いて貼り付けようとした。
メイサは一読して少し笑いながら、あわてて
「・・・こ、これでは、なんだか、誘拐するようにとられませんか?」
バザリアは、えっという顔をして読み直した。
「まぁ大したことではないかもしれませんが、『ここにいた子を保護しております。ユトリナ教会をお訪ねください。』としましょう。紙では少し丈夫さにも欠けますから、そこの木切れがちょうどよいと思います。」
そういうと木切れを手に取り、目をつむって祈るようなしぐさをすると、
「我らを導く偉大なる神よ、我に力を、我が指先に焔よ宿れ」
そうつぶやくと木切れを指先でなぞっていった。
木切れには、なぞったところが焦げており、即席の看板が出来上がる。
「さあ、この木切れをそこの根元においておけば、気づいてすぐにでもきていただけるでしょう」
そう言うと赤子を抱きかかえて歩き出した。
「箱とこの布とかも持っていかれますよね?」
「そうですね。一緒に持っていくので。運べそうですか?」
「わかりました。大丈夫ですよ」
そう言って荷物をまとめると、赤ん坊を抱きかかえ、2人は歩き出した。
そのころ、カタロは、
(た、助かりそうだ。よかった。)
なんとか助かったということで安堵していた。
(さっき、水を飲ませてくれたのはありがたかったが、もしや、間接キスか?よ、よかった。初キスが、こっちのかわいいっぽい子で・・・)
別のことでも安堵していた。