教官試験の受け方4
「サラリス、けっこうやるなー。いきなり20mだね」
プヨンは叫んでみたが、サラリスには声が届いてないのか、こちらを振り返りはしなかった。
その後、30、35、40mと続いたが、このあたりから軌道がぶれはじめていた。サラリスもそれがわかったのか、40mからは2mごとにしたようで、最終的に48mではずしてしまい、判定官がその結果を書き留めていた。
(よし、まぁ、50m超えたかったけど、まぁまぁかな。やっぱり打つ数が増えると疲れて精度が落ちちゃうな。開始の距離を20mじゃなく、もうちょっと遠くからやればよかったかな)
精度の試験が終わった後、サラリスは、自分の作戦を自己批評していたが、
(ふー、あとは、プヨンの火魔法を防御したらいけるか。今の感じだときっと合格できるよね?)
現時点で前の試験者と比較しても十分な結果がでているし、サラリスとしても、気分的に少し余裕がでてきていた。
「プヨン、ちょっとだけ休憩するよ。そのあと、お願い」
そう言われたプヨンは、頷き、サラリスが回復するのを待っていた。
10分ほど待って、サラリスが一息つくと、サラリスとその後ろにプヨンが続いて、試験場の中央に進んだ。10mくらいの距離を離れてお互い向かい合うと、
「プヨン、いいよー。でも、ちょっと離れすぎじゃない?威力落ちるけど大丈夫?」
サラリスが声をかけてきた。威力が落ちたほうが都合がいいんじゃないかと思いながらも、プヨンは、それに対して、
「威力は関係ないんでしょ?大丈夫だよ。じゃぁ、いくよー」
返事を返した。返事は返したが、プヨンは、どうするか悩んでいた。
(おそらく、サラリスはなるべくたくさんと言っていたが、サラリスが受け止められる範囲の威力でなるべくたくさんだよな。さっき話したときも、片手放ってと言っていたし、数の合意もあるからあんまり変えないほうがいいし。1個の威力は、さっき試験した人たちくらいが相場なんだろうな)
事前相談はある程度しているが、反芻しながら、再度確認しなおしていた。
よし、じゃぁ、やるか。プヨンは気合を入れた。発動する火球の個数と威力をもう一度考える。
(そういえば、先日、サラリスは1つもらうねといって、10個お菓子を食っていたな・・・・よし、片手くらいいけるでしょ・・・・)
余計なことを思い出しながらも、サラリスを見つめ、サラリスを中心にして作り出す火球の位置を想定し、頭の中で意識を高めていく。数は多い方が見せ場になるだろうし、ちゃんと伝えてあるんだし、なんとかなるよね。
一方、サラリスの方も、ほぼ準備はできていた。防御はキャスティングで威力を高める時間もないため、ギャザリングで貯めておいたものを使うだけになる。対応方法も、十分頭のなかでシミュ―レーションできていた。
「プヨン、準備できたわよ。いつでもいいよ」
(でも、プヨンって一発の威力はあるから、もうちょっと数も打てるのかと思ってたな。最近の練習じゃ、3人に同時に10は出してもらってたし、余裕よね)
サラリスは準備ができたことプヨンに向かって叫びながら、頭の中で、プヨンからの魔法の対応方法を考えていた。何度か話し合っているから、おおよそ予想がついていた。片手と言っていたから、5、6発の火球が飛んでくるはずだ。それも放出速度を、違和感のない範囲でなるべく遅めにしてもらっていた。
プヨンがこちらに向けて構えなおし、いつものように特にギャザリングなどの特段の高める動作もなく、集中し始めたのが見えた。
「いくよー・・・。アサップマイステン」
プヨンの叫びが聞こえた。すると、プヨンのまわりに、こぶしかそれより小さめくらいの火球が現れていく。
(うんうん。手ごろな大きさね、約束通りだわ。じゃぁ、こっちも防御の準備に入らないとね。迎撃のリズムが大事よね)
「ビヨンドザファイヤー」
サラリスも、乗ってきたのか、節をつけながら対応魔法を準備した。
プヨンの周りに、火球が現れ、すでに3個現れている。4、5、6、7、
(プヨン、なかなかやるわね。まぁ、10個くらいはいくか・・・私の限界は小さい火球なら20個くらいまでは打ち消せるのよ)
サラリスは、ぐっと体に力を入れて身構えた。プヨンが出す火球の増える勢いが急速に増えだした。あっと思う間に20を超え、まだ増えている。
「え、え、え・・・ちょっと」
40を超えたあたりで、サラリスは自分の予想と大きく違う状況を把握できず、固まってしまっていた。
プヨンは、火球を準備し終わり、サラリスの方に念のため声をかけた。こぶし大の火球がプヨンの前方1mくらいで、一定間隔できれいに7x7で整列している。
「よーし、サラリスいくよー」
(サラリスは、打ち落としやすいように、火球はゆっくりにしてって言ってたしな。でも、面と向かって防御されるのは初めてかも。どうなるのかなぁ。しかし反応もないとは余裕だな)
サラリスも余裕ありそうに見え、力比べがちょっと楽しくなってにやっと笑みを浮かべ、プヨンは速度を調節しながら、全部で49個の火球を一斉にサラリス目掛けて解き放った。
遅めとはいっても、石を投げつける程度の速度はでているので、急速にサラリスに向かって飛んでいく。サラリスは、集中しているのか、微動だにしなかったが、もともと体の表面に当たるときに分解、霧散化させると言っていたので、それほど心配はしていなかった。
それでも、大量の火球が急速に近づいてくるのに、ピクリともサラリスが動く気配がないので、プヨンが心配し始めたとき、
「ば・・・」
「ば?」
サラリスが、何か叫びだし、何事とプヨンが聞き返すと、
「ばかちーーん」
「何が片手よー。話がちがうー。何よ、この数は」
あわてているのか、まくしたてるようにサラリスが叫んだ。よくわからないが、プヨンから見ると、サラリスは慌てているように見えた。
しかし、一度放たれているので、火球は予定通り、すべてサラリス命中コースを突き進む。サラリスも慌ててはいるが、そこで動きを止めることなく、防御はしているようだ。最初の火球がサラリスに触れたと同時にわずがに輝いたかと思うと、すっと消えてしまった。
次々に火球が着弾すると同時に消えていき、サラリスはダメージがまったくなかった。プヨンは、さすがとサラリスを見ていると、
「ちょ、ちょっと。プヨン、こんなには無理よー」
ひきつったような表情のサラリスが、防御を続けながらも、そう叫んできた。
(え?無理なのか?片手の50個いけるっていっていたけど、調子悪いのか?)
プヨンは、サラリスが思ったほどうまく防御できていないと判断し、マジノを介しての火球に対する集中を解いた。プヨンの火球は28個目まではサラリスに防御されたが、サラリスに命中していなかった残りはサラリスの目前ですべて消滅してしまった。
サラリスがこれ以上の防御はできずダメージを受けてしまうと覚悟を決めた瞬間、残っていた20個以上の火球がすっと消えてしまった。
「えっ?」
サラリスは、原因はわからないが、とにかく目の前の火球が消えたことは理解できた。
「き、消えた? ははっ」
ほっとして、サラリスはへたりこんでしまった。まわりから見ていると、プヨンが火球を停止させたことは誰からもわからないため、サラリスが自力で残りの火球を一気に消し去ったように見えていた。
試験の判定官からの試験終了の合図を受けて、サラリスの試験は無事に終了した。
 




