教官試験の受け方
先日の蜂の巣の引っ越し(駆除)から数日経って、プヨンがそろそろ報酬を取りに行こうかなと思っていると、サラリスが訪ねてきた。なにやら、頼み事があるらしい。とりあえず外に出て静かな場所を探した。教会の裏で、石に腰かけて話を聞き始めると、
「実はね、半年に1回あるレスルの教官試験なんだけど、私、受けようと思っててね」
「えっ、サラが教官になるのかい?」
「一定以上の実力証明のための資格試験だから教官になるわけじゃないんだけど、前から一度腕試しに受けてみようと思っててね・・・」
教官試験は、以前にアデルが剣士で保有しているの見せてくれたことがあった。レスルとして、一定以上の技術、実力があるとみなされると取得することができ、AAAで示されるものだった。取得したからといって教官になる必要はないが、仕事を受けるにしても、実力自慢にしても、一人前以上の実力があると示す一番てっとり早い方法だ。教官になるにはまた別の試験があるらしいが、最低限の実力はありますよと示すものだ。一方で、レスルで教官として仕事をしている者は、2年に1度、この手の試験を受けて、資格の更新をする必要もあった。まずは、素朴な疑問として、
「へー、なんで教官試験を受けるの?」
聞くと、サラリスはなぜか胸を張って、
「決まってるでしょ。このサラリス様の実力を見せびらかすためよ」
えっへんとでも言わんばかりで、ちょっと吹き出しそうになる。一瞬、プヨンは双丘のなだらかさも気になったがそこは触れないで、
「でも、難しいんじゃないの?そう簡単ではないと思うけど」
そう聞くと、サラリスは、
「わたし、けっこうできるのよ。今じゃ、うちの領軍で1番火魔法が得意なんだから・・・火魔法使えるといえるのは3人しかいないけど・・・」
とのことだった。本人がすごいのか、まわりがほとんど力を入れていないからなのかにもよるけれど、それでも、大人もいる中で1番得意というのは、まったくの高望みというわけでもないのだろう。よくよく聞くと、魔法をそれなりに使える兵士というのは貴重だそうで、あわよくば、サラリス経由で周りにも教えて少しでも実力アップを図るきっかけにしたいようだった。
「ところで、試験を受けるのはわかったけど、それをわざわざ言いにきたの?応援とか見に来てほしいとか?」
聞いてみたけど、そんなことをわざわざ言いに来るとは思えなかった。
「実はね、ちょっと応援をお願いしたいの」
まさか、がんばれと応援してほしいだけできたとも思えなかったプヨンは、応援してほしいといわれて、えっと思わず呆けてしまった。かまわず、サラリスは続けて、
「応援っていうのは、試験の相手をしてほしいのよ。試験日が明日なのよ。」
なるほど、相手がいる試験なんだなとプヨンが納得できた。サラリスが言うには、試験には大きく、魔法の威力、防御、そして、精度の3つの確認があるらしい。自分が放出する魔法の威力と精度の確認は一人でできるが、防御については、誰かに打ち込んでもらった魔法を防御するしかなく、要するに試験の時に、自分に向かって適当な火魔法を打ちこんでほしいとのことだった。
「プヨンも、一応、火魔法は打てるでしょ。初めて会った時も見せてもらったし、威力も十分あると思うのよ」
「得意じゃないけど、一応できると思います。でも、なんで、俺に?」
「実はね、私に魔法を教えてくれてた教官がしてくれる予定だったんだけど急病でね。ユコナに頼もうかとも思ったんだけど、なんか、最近おかしくてダメそうなのよ。ずっとぶつぶつ言ってるし」
サラリスも試験まで時間がないからなのか切羽つまっているようで、けっこう真剣に頼んできていた。
「プヨン、できるでしょ?前に見せてくれたやつ」
「あぁ、あのアキラクン?」
サラリスがそういうので、指の爪くらいの小さい炎の魔法と氷の魔法を5個ずつだし、それぞれらせん状に回転させながら上昇させ、頭の上でぶつけて相殺させた。暇つぶしの練習魔法、自称「アキラクン」だ。つい、暇なときに癖でやってしまうのを見ていたようだ。
「そうそう。それそれ。すでに5個出せるでしょ。いい感じよ。何個くらい出せるの?」
どうやら、同時に出せるっていうのが重要らしい。
「うーん、どうだろう。片手くらいかなぁ。それ以上はやったことないかなぁ」
片手を広げて、5本の指を見せた。
「なるほどね。ちょっと少ないんだけど、打ち損じもダメらしいから丁度いいわ。私が打ってもだいたいそのくらいだと思うし。小さいのでいいの。そして、それを私が防げればいいの。ただ、火魔法は使える人が多いんだけど、それでも、私ほど使える人が少なくて・・・・プヨンなら、まぁ、ちょうどいいかなと・・」
「ほめてんのか、けなしてんのか、どっちなんだよ。別にいいんだけどね」
アキラクンを続けながら、サラリスの批評を聞いていたが、特に頼みを拒否する理由もないので、
「わかった。いいよー。でも、俺も得意じゃないから失敗しても知らないよ」
「大丈夫大丈夫。この小さい火なら、私も余裕で防御できるよ」
サラリスが問題ないと言うのもあって、次の日決められた時間に行くと約束すると、サラリスは帰っていった。
次の日、プヨンはサラリスとの約束よりかなり前にレスルにきていた。昨日、サラリスと話したあと、まわりに教官試験のことを聞いてみた。どんな試験か興味があったからだが、いろいろな武器と魔法について定期的に教官試験が行われると聞いて見てみたくなったからだった。ついでに、アデルが教官試験の更新を受けるということも聞けて、それもついでに見に行こうと思ったからだったが。午前中は物理系武器の試験がなされるらしく、弓、槍などの試験があった。試験を受ける人数は各武器せいぜい数人で、現在の教官と思しき人と受験者が試合をしているような内容だった。弓は、複数の距離の異なる的に向けて10本の矢を放ち、命中精度と距離で一定点数以上だと合格らしいが、高得点の的の距離はかなりあり、点数と精度のかけひきもあり難しそうだった。槍では筋力強化を使って、刃先をつぶしたような槍を使って教官か仲間と2人で試合をしていた。かわったところでは盾なんてのもあるようだ。同時に3人がかりで打ち込みをして、どの程度防御できるかを見ているようだ。試験者はひたすら防御か盾だけを使った攻撃に徹していた。
 




