引っ越しの仕方4
とりあえず、目先のメシャドウが追い払うことができて一段落したようだった。
「おぉ、フィナすごいね。おっぱらったんだ」
「う、うん。なんとかね。倒すのはちょっと難しいけど、追い払うっ・・・」
一息ついて振り返ったフィナは、さっきまで重そうに運んでいたプヨンが、右手の手のひらの上に蜂の巣をのっけて運んでいるのを見てギョッとした。一目見た瞬間かたまったようで、言葉がでてこないようだ。プヨンも何をしたのかちょっと補足する必要を感じて、
「実はね、以前、フィナが石を投げつける魔法を使っているのを思い出して、ちょっと考えていたんだ。応用で、巣を上に向かって投げるというか、持ち上げるというか・・・」
「え、えぇ?そうなの?持ち上げるって、今もずっと持ち上げてるの?」
フィナが、巣にそっと手を添えてくる。ちょっと手を押すだけで、ふわふわと揺れ動いていた。
「へー。なんか、不思議だね。難しいの?」
「そうだなぁ、難しくはないよ。一瞬じゃなくて、ずっと飛ばし続けるから、気が抜けないのがちょっとしんどいかなって程度だよ。小さい石から練習したら、すぐできるようになると思う」
プヨンは、さきほどぶっつけでできるようになったが、そこは黙っておいた。おそらく、ものを投げるタイプの魔法を使う者なら、程度の差こそあれ誰にでもできそうに思えた。もちろん、プヨンは、フィナにもすぐにできそうだと考えていた。
とりあえず、目の上の危険は去ったので、後ろに追いつかれる前に、上手に迂回することにした。蜂の巣は、意識さえし続ける限りは、手のひらで軽く誘導するだけで、ふわふわとついてくるので、さっきまでに比べるとずっと楽で、プヨンは、片方の手は完全に自由になっていた。そのまま、坂の上まで登り切り、道を変えて、そのまま目的地の方に歩いて行った。その後は、特にこれといったトラブルもなく、そう時間もかからず、目的地にたどり着いた。昨日と一緒で、バトさんが、立って待っていてくれた。
「バトさん、きましたよー。ありがとうございます」
フィナが元気よく挨拶すると、バトさんも、笑顔で会釈してくれた。
「ねぇ、プヨン、その巣を魔法で浮かせるのが使えるなら、手の届かない高いところに持ち上げることもできるの?」
「え、そりゃ、できるけど?持ち上げるってどこに?」
「えっとね、せめて動物が届かないところまで。前のところは低すぎたのよね。低いと、さっきのメシャドウもだし、人や他の動物にも襲われたりもするし、他にもいろいろと危ないからね・・・」
そういいながら、バトさんの木の本体の上の方を指さしながら、
「あの辺かな。あの4mくらいの高さの太い木の枝の根元とか・・・」
フィナの指さすほうを見ながら、
「いけると思うよ。でも、どうやってくっつけるの?」
「大丈夫。あそこで、5分ほど動かさないでいてくれたら、蜂が、巣の上のところを溶かして、くっつけてくれるはずだよ」
「わかった。じゃぁ、やってみるね、あそこだね」
プヨンは、巣にかける力を徐々に上げていった。やがて、巣が完全に手のひらの上から離れ、ゆっくりと上にあがっていく。ゆっくり上げていくが、重心が安定しなかった。なかなかまっすぐには上昇せず、横にそれたり、回転してしまったりする。手のひらの上だったときは、ちょっと手のひらの力加減を変えることですぐに位置を補正できたが、今度は、手などで物理的な修正ができない。そのため、魔法で、下から上に押し上げる力を維持しつつ、巣を外周部から押して倒れないようにして、バランスを取る必要があった。単純な魔法でも、それなりに集中を要するため、通常は1度に1つしか発動させない。しかし、この場合は、バランスのため、同じ種類の魔法ではあるが、同時に複数を精度よく使う必要があることがわかってきた。それも、いろんな方向に微調整しながらだ。それを失敗は許されない中でする必要があるため、慎重に慎重を期していた。そうして、それなりに時間がかかったが、なんとか枝の付け根近くまで運ぶことができた。すると、フィナは、何やら蜂に手で合図のようなものを送り、それを受けて、一斉にその場所に蜂が群がっていった。
「プヨン、もうちょっとだからね。がんばって」
プヨンは、重さを支えるということ自体は問題なかったが、バランス取りという精度出しのため、巣から目が離せず、うなづくのが精いっぱいだった。
10分ほど経って、蜂達が木の枝の付け根から離れ始めた。プヨンは魔法というか体力的にはそこまで疲労していなかったが、微妙な力加減をし続けたことでかなり疲れていた。
(これは、ちょっと経験したことない疲れ方だ。まるで、中腰でじっとしているみたいな・・・さらに、上を見ているから、首がいたい・・・)
「プヨン、ゆっくり力抜いてみて・・・・」
フィナから、最終検査の指示がきた。プヨンは、それを聞いて気持ち的にはほっとしたが、
ここで油断すると落としてしまうこともわかっていたので、少しずつ少しずつ力というか、持ち上げている魔法の強度を下げていった。その分、木の枝と蜂の巣をつないでいるところに力が加わって支えていき、太い枝だが、木の枝もわずかにしなっていく。
「枝、折れるなよ」
プヨンは祈りながら作業を続けていたが、滞りなく、くっつけることができたようだ。
「どう?フィナ、いいんじゃない?うまくくっついてそうだけど」
「うんうん。ばっちりよ。お疲れ様」
バトさんも、横に立って、にこにこしている。
(バトさんは、これ、ずっと支えるんだろうけど、重くないのかなぁ?)
プヨンは、そんなことを考えていたが、どかっと腰を下ろして、一休みすることにした。
「フィナ、さすがに、気を使って、かなり疲れたよ」
プヨンは、筋力というより精神的に疲れて、ひと眠りしたいくらいだった。
「フィナ、そろそろ帰ろうかと思うけど」
ある程度やすんで精神面以外については疲れも取れて、戻ろうと提案した。すると、
「そうだね。で、プヨン、ちょっと待ってね。なんかね、お礼してくれるんだって」
「え?お礼?お礼って誰が?」
そういうと同時に、蜂が10匹ほど、プヨンの頭上を飛び回っていた。何やら、霧のようなものを出しているが、匂いもない。なんだろうと思っていると、
「仲間の匂いだって。お風呂に入ったくらいじゃ取れないよ」
クンクンと、袖とかの匂いを嗅いでみたけど、特に何も感じなかった。全身に降りかかったのなら、鼻がマヒしているのかもしれないけれど。
「え?取れないの?特にいやな匂いはしないからいいけど」
「当分はね。この子たちが、仲間を区別する匂いだよ。襲われないし、助けてくれるかも。それにね、今度、蜂蜜も用意してくれるって。すっごい美味しいよ」
「おぉぉ。それは、すっごいいい」
あまり甘いものを口にすることもないので、かなり嬉しかった。
バトさんに挨拶をして、フィナとプヨンは、蜂の巣を後にした。
「今日はありがとう。おかげで、安全なところに連れていけたよ」
「いえいえー。フィナが喜んでくれてよかった」
しばらくは、今日あったことをいろいろ話していたが、さっきのフィナの「お礼」の言葉を思い出して、
「そういえば、あの蜂達を退治すると、レスルで報奨金が出るんだった。フィナ、はんぶんこしようよ」
「え?退治?退治されるの?」
フィナは、報奨金のことより、すでに蜂の巣が駆除対象になっていたことに驚いていた。プヨンは、蜂に人が襲われて通行人の怪我人がそれなりにでていたこと、さらに駆除しようとして返り討ちになった人もいたと淡々と伝えておいた。一方で、今日引っ越しをしたから、もう大丈夫だろうし、自分たちが駆除したと言えば、駆除しにくる人もいなくなると言ってあげるとフィナも安心したようだった。
蜂の巣を移動させた場所から街道まで森を歩いたが特にトラブルもなく、そのまま2人街道に出た。フィナは報奨金自体にはあまり興味がなさそうだったが、蜂の被害がどんな状況だったのか確認しておきたかったらしく、一緒にレスルに行くと言ってきた。
レスルにつくと、フィナは大鎧蜂駆除の貼り紙を見に行き、どんなことがあったのか、このレスルではどの程度深刻に受け止めていたのかを理解していた。一方で、プヨンは、受付に行き、ヒルマにフィナと2人で依頼を達成し、無事退治できたことを報告した。ヒルマは相当驚いてはいたが、事務上の対応をしてくれた。ただ、行く前に約束してくれた、報奨金の1000グランと、害虫駆除の資格=経験者の取得については、事実確認が必要とのことで、今日は、報告受領のみとのことだった。近場なのもあり、近日中にレスルの職員が現地に確認に行き、調査後に報酬の支払いと資格証の更新をするとのことで、フィナとプヨンは了承した。プヨンは、フィナの好感度を上げることができ、報酬までもらえて上機嫌だった。




