引っ越しの仕方3
フィナは、プヨンのやれます宣言を聞いてとてもうれしそうだった。
「じゃぁ、こっちで、巣を持ってみてね」
プヨンは、言われたとおり、木にぶら下がっている巣を持ってみた。巣を持つと、木の枝への負担が軽くなったのか、木の枝がしなっていたのが上に戻る。
「おっ。持てるのは持てるが・・・、けっこう重いかも・・・。さっきの岩よりは軽いけど、そこまで変わらない・・・・ですね」
力を入れているので、声がやたら低くなり、おかしな口調になってしまった。おなかにも力が入っているから、息が吸いにくい。
「そ、そうなの?私も持ったことはないけど。まぁ、鎧蜂は体の一部が金属鎧だからね」
「えっ。この蜂の・・背中の銀色・・・部分って・・・金属なの?」
一気にしゃべると力が緩んでしまいそうで、それなりに踏ん張りもいりそうだった。
プヨンは、不思議な生態にちょっと驚いたけれど、まぁ、いろいろいるだろうなと納得した。そもそも、たいがいの生き物は初めて見るんだし、いるものを疑っても仕方ないと考えていた。
「じゃあ、プヨンしっかり持っててね。切り離してもらうから」
「う、うん。でも、どうやって?」
そう聞き返すが、フィナがすでに蜂達に伝えたのか、接続部分を、蜂のあごでくいちぎっているところだった。けっこう丈夫そうだったが、蜂のあごも強力で、この蜂は、毒針もそうだけど、あごでもかなり強力な攻撃ができそうだった。
バリバリ、バリッ。
そんな音がして、木の枝から取れ、プヨンの手の中に落ちてきた。
「ぐっ」
予想以上に、腕にズシッときたが、なんとかよろけることもなく、立ち上がることができた。
「バ、バントビーネ」
プヨンは、追加で、さらに独自の肉体強化を施した。さらに、マジノ粒子を使い、気を集中することで、
(こ、これで、なんとかなりそうだ)
フィナが心配そうに顔をのぞきながら、
「どう?いけそう?」
そう聞かれた。延ばすメリットはまったくなく、早く終わらせた方がいいと思った。
「お、おう。さっさと出発しよう。長くはもたないかも・・・」
とりあえず、2人は出発した。一歩ずつ躓かないように歩いていく。フィナは前を進んでいって先導してくれるので、そのあとをゆっくりと歩いていく。最初は、そうつらくもなかったが、形が形なのもあって、いくら筋力強化しているとはいえ、10分もすると腕が痛くなってきた。
「フィナ、やばいよ。予想以上にダメージが・・・。ちょっともたないかも・・・」
「えー、ちょっと早くない?まだまだだよ。がんばって」
(こ、これは、ちょっと甘くみていたかも・・・)
そんなことを、何回か繰り返していた。2、3回は、とりあえず言ってみただけだったが、
「すいませーん、そろそろほんとに厳しいですがー?」
「だめでーす」
また、フィナに笑いながら断られたが、木々の間の細い下り坂に入って少し進んだところで、フィナが急に立ち止まったようだ。
「プヨン、前を見て」
「巣が見えますが、なにか?」
大きな巣を抱えているのに見えるかと聞くフィナに毒づいていると、フィナが後ろに走っていくのが見えた。フィナが叫びながら、坂の一本道を駆け上がっていく。
「お、おい、フィナ―、どこいくんだよ」
「もどってー。迂回しまーす」
と言いながら、フィナは立ち止まらずに走っていく。
「なんでだよー、何があるんだよー」
戻るのはどう考えてもいやなので、フィナの指示に抵抗しようとしたが、フィナが気にする何かがあるのもわかるので、体を横にして横目にフィナが走り去るのを見た。すると、反対の眼下に背丈より大きな茶色い球体が見えた。
(なんだ、あれ?)
「大型のフンコロガシよー。下敷きにならないでねー」
坂の上から、フィナの声が聞こえた。
「な、なにー」
(こ、これは、道が細いだけに、脇によけるところがない。ここで遭うには最恐の生物だ。せめて、荷物がなければなんとかなったが)
「了解です。司令官殿。すみやかに撤収します」
プヨンは、あわてて引き返し、全力でフィナの行った方向に戻ることにした。といっても、さっきのスピードと大して変わらないが。
(神様、ありがとうございます。今日から今まで以上にお祈りします)
プヨンは、あれが上からこなかったことを感謝していた。
坂を一歩一歩戻っていく。プヨンは、腕がつりそうだったが、なんとかもう少しで坂の上というところまできた。しかし、フィナがまた立ち止まっている。
「こ、こんどはなに?」
プヨンは、フィナに聞くと、フィナが、
「し、しずかに。あっちに、メシャドウがいるわ。あいつ、蜂が大好物なのよね。匂いを嗅ぎつけたのかも」
(メシャドウは、雑食の大型のクマのような生き物だったはずだ。眼上にクマか。難しいな)
「は、挟まれたのかな?そろそろ、ほんとに限界だよ」
「メシャドウがいるから、うかつに動けないね」
プヨンは、蜂の巣をなんとか持ち直したかった。同じ体勢でずっといるのはきつい。
(そういえば、以前、ユコナは氷をとばしていたし、フィナは石を飛ばしていたな。じゃぁ、この巣も飛ばせるのか)
そのとき、ふと、以前、ものを持ち上げるイメージの魔法を考えたことがあったのを思いだした。ユコナの氷やフィナの石を飛ばすのは、放物線を描いて横に飛ばしていた。同じ方法で、それを上向きにすれば、ものを空中に浮かせることができるはずだった。そう考えて、手のなかの蜂の巣を、ゆっくりと上に飛ばす、すなわち、空中に浮かせてみようとした。小声で、呟いてみる。
「バ、バターアップ」
ただ、バランスを取って浮かせるのだから、いきなり強くすると、とんでもないところに飛んでしまいそうだった。少しずつ、少しずつ。
「お、おぉ。できた」
ちょっとずつ浮かせる力を強め、そのぶん手の力を抜くことを繰り返し、少し時間がかかったが、巣が横に倒れない程度に手を添えているだけで、ほとんど手のひらに重さを感じないレベルで浮かせることができるようになった。横にも力を入れてバランスを取れるようにして、ほとんど手のひらの上にのっているだけになっている。おかげで、攣りそうだった腕を、左右に交互に伸ばして、疲れをとることができた。
(た、助かった。腕を伸ばせて、なんとか、最悪は回避できた。ただ、巣の重さも軽くはないし、ずっと連続で持ち上げ続けるのもきつそうだな。今は大丈夫だけど、限度があるだろうし)
プヨンは回復魔法以外で魔法を連続で出し続けていることに慣れてないこともあり、突然魔力切れにならないように気を付けようと思っていた。
一息ついて、あらためて、フィナの方を見ると、フィナは、どうやら、地面の草を使ってメシャドウの足止めをしていた。さらに、何かをつぶやいていたが、メシャドウのそばの太めの木の枝がしなり、元に戻る反動で顔に一撃を加えたようだ。メシャドウは、致命傷こそなさそうだったが、予想外の顔への一撃だったからなのか、驚いてどこかに逃げていくのが見えた。




