引っ越しの仕方2
プヨンは町に戻った時、ちょっと気になったことがあった。
さっきフィナが蜂が人を襲うと言っていた。ということは実際に襲われた人がいるということだろう。
それについて調べてみようと思った。
情報が得られそうなところとしたら、刺された人が行くであろう教会の治療所か、刺されないよう駆除するためのレスルか、どちらかだと思われた。
(治療所は毎日見てるけど、そんな大勢の蜂治療って聞かなかったかなぁ。やっぱりレスルかな)
そう思ったプヨンはレスルに寄ってみることにした。
レスルに着くと、プヨンは触れ書きと依頼事項を見てまわった。
すぐに町を出てすぐのところで、蜂に襲われた事例があることがわかった。そして蜂の駆除依頼が出ていることも確認する。受付に行って蜂の駆除依頼のことを聞いてみた。
「ね、ねぇ、あの蜂の駆除依頼の件だけど」
「あぁ、あれねぇ。なかなか受けてくれる人もいなかったんだけど、なんとか頼んで、来週に一応行ってくれることになっているの。でもどうなることやら」
受付に座っていたヒルマは、答えてはくれたがもううんざりという感じだ。
「ちょっと厄介なのよねぇ。うまく駆除できるといいんだけど。町から近いからほっとくわけにもいかなくてね」
「そ、そうなのか。それって、たいへんなの?」
ヒルマは受付の机に座っていたが手が空いているのか、頬杖をつきながらめんどくさそうに教えてくれた。
「まぁね。まぁ、それなりに時間もたってるんだけどね。知ってる?大鎧蜂っていうんだけどね、毒がある上に大きくて体も固くてやっかいなのよ。今はあのあたりには近づくなというのが精いっぱいね」
「でも、駆除する人は決まってるんでしょ?」
「頼んだけどね。いやいやだから、いつまでたってもいかないのよ」
(そうなのか。真っ向勝負すると、かなりやばいんだな)
「じゃぁ、もし俺がやるっていったら、できるの?」
ヒルマは、一瞬ぎょっとしたが、やめとけと言わんばかりに、
「はっ。あんたがやるの?どういう生き物かわかって言ってるの?」
「い、いや、まぁ、その。どんなものかと思って。できたらどうなるのかなと」
プヨンはできるかどうかは別にして、フィナが引っ越しを急いでいた理由がわかった。いつ駆除されても不思議でない。
「まぁ、すでに3回行ったものがいるけど、今のところ全部失敗なのよね。報酬は失敗続きで値上がりして、今や1000グランの高額報酬よ。終わるときはすぐ終わるからおすすめよ。もしできたら今度からあんたを害虫駆除で推薦してあげるわ」
「おぉー。ほんと?じゃぁ、ちょっとやってみようかな」
そういうとプヨンはヒルマのいる受付を離れた。後ろから、
「がんばってねー、まぁ、無理だと思うけど。ちゃんと逃げるのよー」
背後から、ヒルマのアドバイスが聞こえてきた。もちろん礼は言わなかった。
次の日、目が覚めると、朝から教会がにぎわっていた。
治療所が繁盛するのはどうなんだろうとも思ったが、様子を見ていると町から街道沿いに少しいったところで、そこそこの人数の旅人が蜂に襲われたらしい。
原因は例の大鎧蜂だろうけれど、おそらく何も知らずに野営したり近づいたりで蜂たちを刺激し続けたのだろう。その結果、蜂の警戒範囲が広がり、何も知らない旅人達がその警戒範囲の中に入って襲われたようだ。
蜂も基本的に近づいた生き物を追い払うだけのようで、執拗に襲い掛かるというわけでもなさそうだったが、言葉では解決しないだけに安心できるわけではない。
(これは、ちょっと急いだほうがいいのかもな。あの依頼を受けたものが他にもいる気がする)
そう思い、とりあえず身支度を整えてすぐに出発した。顔を洗って服を着替えただけだけど。
急ぎフィナのところに移動して合流し、昨日訪ねた蜂の巣の近くまで歩いた。
あいかわらず、蜂はこちらを警戒しているのか、それともフィナを歓迎しているのか、1匹がフィナの少し前を先導するように、一定の間隔をあけてまわりを飛び回っている。
2人はそう時間もかからず蜂の巣の前にきていた。
あらためて巣を前に2人は立って、巣の周りをぐるぐるまわって様子を見る。
巣は両手で抱えられるくらいの太さで、高さが1mくらいの円筒形だ。そして一番上が木の枝につながっていた。それを見上げながら、
「プヨン、どう?できそう?」
フィナが蜂が飛び回る中で不安そうに聞いてくる。今朝の治療所やレスルの討伐依頼の状況からも、そうのんびりしていられるとは思えず、プヨンは自分自身の覚悟を決めた。
「うん、頑張ろうと思う。・・・けど、ちょっと、いくつか聞きたい」
「まぁ、そうだよね。なーに?」
「これって、重いの? ここからあそこまで30分くらいだよなぁ?」
まぁ、当たり前のことを当たり前に聞いたけど、フィナはちょっと考えている。
「木にぶら下がってるから、前に違うところで聞いたことはあるけど、そこまで重くないとは思う」
(まぁ、100kgはないのか?100kg、100kg。同じくらいの重さなら、あの石を持ってみようか。形が形だから、ちょっと持ちにくいけど・・・このあいだの感じだと、持てなくはないはず?)
一度持つとどんなに疲れても放り投げることはできない。気軽に下ろせないということは途中で休めないことになる。
ちょっと離れたところにある同じくらいの大きさの石というか岩を見つけたので、予行として持ち上げてみることにした。地面に落ちているし形状的な持ちにくさの確認もしておく必要があった。軽くても持ちにくいとそれはそれで大変だ。
「やっぱ、落とすとまずいよね?」
「きっとね。中にいっぱい、ちっさい蜂の子がいるはずだし」
フィナに聞くまでもなく、ごめんねですまない可能性が高い。
「あの岩よりは軽いと思うから、あれで、ちょっと確認を・・・」
プヨンはそう言って岩の方に近づいた。フィナもついてくる。岩の前に立つ。
「ハイパトロフィー」
プヨンの体はぼんやりとひかっている。気合が入って普段数倍の力が出るようになった……はずだ。
岩だからどのくらいなんだろう。両手で持てるくらいだとふつうに考えたら1トンくらいか。まともに考えたら持てるはずがない。
「えいっ」
気合を入れて持ち上げる。手を石の下に入れるのにちょっと苦労したくらいで、
グラッ
「おっ。なんていうか、思ったより軽い」
形がいびつだから安定はしないが感覚的には10kgの米袋をもつくらいの感触だ。
「ど、どう?いけそう?」
「岩でこのくらいだといけそうな気がする。きっとこれよりは軽いだろうしなんとかなりそうだよ」
「ほんと?プヨンすごいね。こんな大岩絶対ふつうじゃ持てないと思う」
(まぁ、そうなるよね。俺だってレオンの強化を詳しく教えてもらうまではこんなの無理だと思ってたし)
プヨンは楽天的というよりは慎重なほうだと、自分では思っていた。
「いけると思うよ。30分だし腕をしっかりとのばした状態で持てそうだしね」
プヨンは高らかにできます宣言をした。
しかし失敗できないと思うと、かなりプレッシャーも感じていた。
 




