引っ越しの仕方
フィナの引っ越しの説明を聞いたプヨンだが、フィナの意図がうまくわからない。
「フィナの言っている意味はわかる。わかるんだけど、矛盾している・・・気がする。もちろん、手伝うけどさ」
そして、プヨンは、まわりを一回りみて、フィナはここに引っ越すと言っているが、木しかないのを確認して、1つ疑問が湧いてきた。
「バトさんは、どこに住んでいるんですか?」
そう聞くと、フィナは、バトの横の木を叩いて、
「バトさんは、ここだよ」
と、笑いながら言った。
(そうか、バトさんも木関係なんだ、フィナの仲間なんだな。ちょっと納得した)
バトさんは、それを聞いて、
「私も、もう、そこそこの年でしてね。1000歳なるのをきっかけに、あっちこっち動き回ることはやめようと思うのです。私のところに引っ越しを受け入れると、私はもう自由に動けまわれないことになりますが、もう、それでいいんですよ」
バトと呼ばれた女性は、年齢のせいもあって、もうここに定住する。だから、引っ越してきても、ちゃんと引き受けられるということのようだ。
(せ、千歳か。しかし、バトさんは、年配なのに、フィナは若作りなのか?)
「・・・・」
プヨンが考え込んでいると、
「あっ。なにか?」
フィナがじっと、プヨンの目を見ているのに気づいた。
「悪いこと考えているでしょ?」
「い、いや。フィナのほうがなんで若い姿なのかなんて考えてないよ」
バシッ
(プヨンめ、そんなの気にしなくてもいいのに。私はまだ若木なのよ)
フィナは、年齢としては、バトより上だけど、種族としては、まだ、子供の年齢らしい。木も種類によっては、寿命は違うようだ。そして、プヨンは、フィナに怒られてしまったが、なぜかはよくわかっていなかった。もちろん、怒られたということはわかるので、話題を変えておくことにした。
「フィナ。で、その引っ越す人って誰?」
そう、フィナに聞くと、
「ごめんね、最初に引っ越し先を見てもらいたかったの。今から、引っ越し元のほうに案内するね。街道のほうに戻らないと」
フィナは、そういうと、バトに、
「ちょっと戻ってきます。2時間後くらいに、また戻ってきますね」
と言って、来た道を引き返していった。ずっと、同じ道を戻っていったけど、もうすぐで街道というところまできて、フィナは行くときに歩いた道をはずれて違う方向に進みだした。森の中を街道に沿って歩いているような感じだ。そうするうちにこぶし大くらいの大型の蜂が、まわりにちらほらあらわれだした。
「プヨン、この蜂は、大鎧蜂っていうんだよ。知ってる?毒もあるんだけど、体がとっても固いから、鎧着ているみたいに頑丈なんだよ」
よく見ると、体は、鉄のような金属色をしている。文字通り、金属の鎧をまとっているみたいだ。
「え、毒?毒って、きついの?」
「うん、まぁね。プヨンなら、一匹でも、かなり効くよ。死ぬことはないけど、悪さして、集団で襲われるとね」
蜂は、一匹がフィナに近づいたところを飛んでいるが、残りの数匹は、遠巻きに飛んでいた。なんとなく、プヨンは、フィナからちょっと距離をおいて歩いていた。蜂は特に襲ってくるような様子はなさそうだった。そうはいっても、手のひらサイズの蜂で、刺されたらとっても痛そうだ。
「フィナ、フィナ、こ、怖くないの?大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、プヨン。こっちから襲ったりしない限りは、だいたい大丈夫だよ」
「え、だいたいってダメやん。絶対じゃないの?」
「え、うん。まぁ大丈夫だけど、プヨンは大丈夫じゃないかも・・・」
「えーー?なんでよ」
そんなことを言い合っている間に、フィナのいう目的地、引っ越し元に着いたようだ。
「プヨン、着いたよ。ここだよ」
フィナはそう言って立ち止まった。
フィナにここだよと言われて、指差された方を見た。大きな木があるが、特に誰もいなかった。木の根っこのまわりや、裏側も見てみたが特に何も見当たらない。ただ、蜂がいっぱい飛んでいる。
「ちょ、ちょっと蜂多くない?怖いんだけど」
「大丈夫よ。悪いことしなければ」
フィナはまったく怖がっていないけれど、大きな蜂がいっぱい飛んでて、ちょっと怖かった。プヨンは、いろいろ見渡していたが、
「ここには木の人はいないの?友達は?」
特に誰もいなかったし、何もないように見えたが、
「上よ上、もうちょっと上を見てよ」
「げっ」
フィナにそう言われて頭の上を見上げると、ちょうど手を伸ばしたところくらいの位置に、大きな丸い球体があった。球体は、木の枝の根本から、ぶらさがっていた。蜂だらけで気がつかなかったが、どうやら、蜂の巣のようだった。
「も、もしかして、友達って、この蜂?この巣を運ぶのか」
「そうそう。お願い。手伝ってよ」
フィナはそういって、頭を下げてきた。
「ま、待った。ど、どうやって、引っ越すんだい?巣を取ったら襲われるんじゃ?」
「それは、大丈夫。ちゃんと言ってあるから」
フィナはそう言った。言ってあるということは、フィナは、蜂と会話できるんだろうか。
「どうやって?蜂の言ってることがわかるのかい?」
「え、う、うん。まぁね」
プヨンは、蜂と会話できるということがにわかには信じられなかったが、フィナがそういうのなら、きっとそうなんだろうと納得することにした。ただ、引っ越しというからには、蜂が集まっている巣を持って運ぶということを意味する。
フィナは、ちょっと考えているようだったが、
「実はね、ここはちょっと道に近すぎてね・・・。道を歩く人たちは何も知らないから、知らずに近づいちゃって、警戒した蜂に襲われちゃう人がいるのよ。そうすると、その、人から見ると、蜂がいきなり襲い掛かってくると思うのよ」
(なるほどなぁ。まぁ、ここだと、ちょっと向こうに道が見えているし、何かで森に入って近づいてしまうと危ないよな)
ただ、蜂と会話ができると言われても、運ぶとなると、気が進まなかった。
「し、しかし、心の準備が・・・・これ、この巣って重い?」
「重いと・・・・思う。でも、プヨンは、あんなに重いのを持ち上げたんだから・・・、だいじょうぶだいじょうぶ」
フィナ、ちょっと軽すぎ、そう思っていたプヨンだったが、
「でも、ちょっと暗くなってきてるかな。今日やるのはちょっと難しいかも。明日お願いしていい?」
「う、うん。ありがとう。助かる。ちょっと心の準備が・・・」
「じゃあ、明日、もう一回私のところにきてね」
「うん、わかった。じゃぁ」
プヨンは、そういうと、フィナと一緒に森を出て、町に戻った。




