保管魔法の使い方2
フィナは、プヨンが重い石を持ち上げたのをみて、頼み事があると言ってきた。
(いったいなんだろう?)
と、プヨンは不思議に思っていたが、何か聞いてみないことには始まらない。
「できることなら手伝うけど、いったい何を?とりあえず、話を聞こうか?」
そう、フィナに言うと、フィナは、ちょっと考えながら、
「実は、友達の引っ越しを手伝ってほしいの」
「え、フィナの友達?」
思わず、口から出てしまったが、フィナに友達がいるというのが初耳だし、ちょっと想像がつかなかった。フィナが、木の化身というか、精霊というか、実体化した姿だとすると、その友達というのは、なんだろう。
「フィナに友達がいるって、初めて聞いたよ。いったい、誰?引っ越すって?」
思ったままのことを聞いてみた。フィナは続けて、
「うん、ちょっとね、事情があって、今のところに住めなくなりそうなの。でも、現実的には引っ越しってちょっと無理だなって思ってたの。だから、プヨンがこんな重いものを持てるなら、ちょっと相談のってほしい」
「相談って、重いものを運んで欲しいってことなんかな?大きさにもよるけど、俺で持てるんかな?」
「そう。一度、見にきてよ」
「ま、まぁ、見てみないとわからないもんな。いいよ。今すぐ行くの?」
「う、うん。いけるなら。今すぐ」
「わ、わかった。近くなら、行こうか」
そういうと、2人は立ち上がって歩き出した。フィナが前を歩いて、プヨンはあとをついていく。
フィナは、街道を少し歩いてすぐ道からはずれ、そのまま森の方へ向かって歩き出した。そして、森の中に入っていく。フィナは歩きなれてるのか、すたすたと歩いていく。まるで、木がよけていくようにも見えるけど、気のせいなんだろう。
ガサッ
ふいにプヨンの右側で、しげみから音がした。ハッとして見ると、5mほど離れたところに弾丸うさぎが2匹現れた。と、思ったら、そのうちの1匹がプヨン目掛けて飛び込んできた。続けてもう1匹も。
ガスッ
プヨンは反射的に避けようとした。1匹目は避けられたが、避けたところに2匹目が飛んできて、よけきれず、太ももに体当たりされてしまった。
「い、いてっ」
プヨンは、思わず叫んでしまったが特に痛くなかった。最近、関節以外は常に肌を硬質化する癖がついていたので、これといってダメージを受けなかった。ただ、10kg以上はあるうさぎの体重分が、けっこうな勢いでぶつかってきたので、多少よろめいてしまい、1、2歩後ずさってしまった。一方で、ウサギは、全力でぶつかったのが、固いものにぶつかったので、岩に突撃してしまったような感じになっていた。頭を強打したことになるので、脳震盪でも起こしたのか、ちょっとおかしな動きをしていた。直接ぶつからなかったもう一匹は、それを見て逃げようとしているようだ。捕まえるか迷っていると、
「プ、プヨン、大丈夫?」
フィナが慌てて気遣ってくれた。プヨンは、体の表面の炭素分がロンズデーライト化しており、ダイヤモンドよりも固くなっているので、怪我自体はまったくなかった。表面に亀裂すら入っていない。
「いや、大丈夫。一応、体を丈夫にしてたから」
「そ、そう。大丈夫なんだね」
フィナは気遣ってくれたけど、事実、怪我はしてないわけで、特にどうこうすることもなかった。そうこうしているうちに、うさぎは2匹とも逃げてしまったようで、いなくなっていた。気を取り直して、先に進むようフィナを促すと、フィナも、また、歩き始めた。
どのくらい歩いただろう。森の中に入り始めて、たっぷり1時間以上は奥に入ったような気がする。こんな奥に友達がいるんだろうかとプヨンは思い始めていた。フィナとは、とりとめのないことを話しているので、退屈しているわけじゃなかったけど、さすがにどうしたものかと思い始めて、
「なぁ、フィナ、ずいぶんきたけど、まだなのかい?かなり奥だけど?こんなところに友達がいるのかな?」
そう聞くと、フィナは奥のほうを指差しながら、
「ほら、あそこに待ってる人がいるでしょ」
フィナがそういうので指差す方を見ると、女性が一人立っているのが見えた。
「あの女性が、引っ越す人なのか?」
フィナがそう聞くと、フィナは、頭を横に振って、
「違うよ。あの人は引っ越し先かな」
「え、引っ越し先?引っ越す方じゃなくて?」
こんなところに引っ越すって、なんだそれとプヨンがいぶかしがっていると、向こうのほうに立っていた女性がフィナに気づいたようで、こちらに寄ってきた。
「ようこそ、フィナ様。ご無沙汰しております」
もう、初老かなといえる、ちょっとふっくらとした女性が、大きな木のそばに立っていた。
(けっこう年配に見えたけれど、フィナ様って言うの?どんな関係なんだろう)
プヨンがそう考えていると、フィナも、その女性に返事して、
「ご無沙汰してます、バトさん。お願いしていた件ができそうなのできました」
そのあと、フィナとバトさんと呼ばれた女性は、しばらく立ち話していたが、フィナがこちらを向いて、
「プヨン、ここに引っ越してくる友達がいるの。手伝ってくれる?」
「え?この方の引っ越しじゃなくて?わけがわかりませんが?」
フィナの言っている言葉の意味はわかるが、プヨンにはフィナの意図がよくわからなかった。




