保管魔法の使い方
10年ひと昔とは、よく言ったもので、以前、手紙を運ぶ兵士が密かな方法でものを保存して、取り出すのを見てから長い時間、10年が経とうとしていた。しかし、とうとう、この日がやってきた。プヨンは、テーブルの上に卵を置いていた。そこに指を置く。そして、少し斜め上、そう、角度でいうと、43度でそっと押し上げてみた。すると、ゆで卵が薄く透明になっていき、消えてしまった。違う次元に移動させることができたようだ。ゆで卵には、マジノを使って、魔力の糸が結び付けてある。糸を引っ張るイメージで手繰り寄せると、無事卵がでてきた。とうとう、保管、すなわち、ストレージが使えるようになったようだ。
「おぉぉ」
プヨン喜びに震えて、ここまでの数々の失敗を振り返っていた。どうやら、次元の壁を乗り越えるには、適切な角度があるようだ。もしかしたら、その壁を超える魔力を使う条件は人によって異なるのかもしれないが、プヨンがこの43度を見つけるには、かなりの時間と犠牲を必要とした。
(この情報を得るために、多くの小瓶が失われた・・・)
プヨンは、多くの犠牲となった小瓶を思い出していた。
ただ、プヨンは、以前に目の前で封書のストレージをした兵士のことを思い出していたが、なぜかその記憶していた保管場所とは違う気がした。プヨンが保管場所の空間をイメージしやすいのが、以前いったマジノの空間で、これが兵士と違うのだろう。おそらく、多少なりとも体験したことのある場所の方がイメージしやすいからだろう。それからも、卵を出したり入れたりしていたが、これといって、卵自体には何の変化もないようだ。少なくとも、見た目はかわったようにみえなかった。ただ、けっこうリスクがあるようで、一度、うっかりマジノの糸を結び付けないで入れてしまったときは、そのまま取り出せなくなってしまった。行方不明になったようだ。
(行方不明になるのは、リスクがあるなぁ。常に意識して、この魔法糸を保持しておかないとな。寝たり気を失ったりで無意識になった場合になくなってしまうな)
その後もストレージで、保管品の出し入れをいろいろ練習していた。いろいろと条件もあるようで、10日ほどひたすら試していると、どうやら、以前、兵士がストレージで入れていた次元空間と、それとは異なる2つの場所があることが漠然とわかってきた。この兵士側の次元も、一度は見たわけで、多少の記憶があるからかもしれない。なぜ気が付いたかというと、入れたものの保管後の様子が違ように見えるからだった。もしかしたら、このストレージで保管する次元は多数あり、人によって異なるのかもしれない。ただ、プヨンにとっては、入った場所の区別がつくのは2つだけだった。
今日は、このストレージをフィナに見せて自慢しようと思い、フィナのところにやってきていた。
「フィナ見ててね。ほら、こうやって入れるんだ」
プヨンは、フィナの前で、何度も小石を出し入れした。そのあと、そのあたりのものをいろいろ入れてみた。
「ふーんとしか言えないけど、不思議だね、どんな感じなの?どこに入ってるの?」
「入れてるのは、どうも2か所あるみたい。感じとしては、石に糸をつけて、壁の向こうに放りなげている感じ?壁を乗り越えると、壁の向こう側に保管できていて、その間は、様子はわからないし、重さとかも感じなくなるね。そして、糸を引っ張ると、入れたものが取り出せるんよね」
入れている感じをイメージできるようにはなったけど、それを人に説明しようとすると、うまく表現できなかった。あのとき、兵士も見せてくれたけど、細かい説明をしてくれなかたったのは、そんな理由もあったのかなと思えた。
フィナもわかったような、わかってないような顔をしているが、いろいろ疑問はあるみたいで、いろいろ質問はしてくる。
「じゃあ、その2つの違いってなんなの?」
「なんだろう。大きくは、超える壁の高さ?たぶん俺にとってよりイメージしやすいのは、普通の人から見て壁が高いほうなんよね、そして、他の人は壁の低い方なんだと思う。この壁の低い方は、こことあんまり変わらないと思う。ただ、なんていうか、入れたものは時間の流れが速い気がする。パンや肉を入れたら2日くらいで腐ったし。もう一方は、なぜかわからないけど、まだ腐ってない。時間の流れが違うみたいだね」
マジノ側は、時間の流れがゆるやかなのか、熱いお湯とかを入れても、ほとんど変化がなかった。ただ、入れるのにかなり抵抗があるようで、入れるものの大きさや数はたくさん入らないように感じられた。一方で、兵士が入れていた空間に入れると、室内に置いているような感じで、だんだん、こっちの世界と同じような温度になっていくし、ものの傷み方などを見ると、時間の流れが数倍速いように感じられた。ただ、大きなものを入れたり、数を入れても、維持するための魔力はそんなに大きくなさそうで、この1週間試した範囲であれば、疲労を感じてしまうものではなかった。ただ、常に意識するだけだ。ただ、常時意識し続けるという意味での疲労はあった。
「ところで、プヨンは、どのくらいの量を入れられたり、長時間保持できるの?」
フィナが聞いてきた。世間一般には入れられる人はいるものの、入れられる荷物はそう多くはないという認識があるため、フィナなりに興味があるのだろう。
「え、限界?どうなんだろう。この、魔力の糸を把握できる限りじゃないのかなぁ?」
「何本までいけるの?」
プヨンは、そのへんの石を順番に掴んでは入れていった。とりあえず20くらいまでは特に問題なく入った。そして、糸をひっぱって、全部取り出せた。
そのあとも、フィナが興味本位に示したものを出し入れして、遊んでいた。やがて、手ごろな大きさのものを入れつくしたからか、フィナがふざけたのか、
「じゃぁ、最後に、あの大きな石入れてみようよ」
「え、えぇ、あれ?でかっ」
フィナが、示した石は、どう小さく見積もっても、縦横高さ1m程度はある。おそらく、数トンはありそうな石に思われた。
「こ、これか。・・・・。これは、さすがに・・・ここに、入るかな?」
ストレージに入れてみようと思ったが、ふと、数日前にあったレオンが筋力強化をしていたことを思い出した。
「そういえば、この石って持ち上げられるのかな?」
筋力強化は、なんとなくやり方も聞いたし、体の反応から、できているとは言われたけど、本当に重いもので試したことはなかった。プヨンは、なぜか、筋力を試してみたくなった。
歩いて、石のそばまで移動して、石をべたべたさわったりして、感触を確認する。
「えいっ」
とりあえず、手のかかりそうなところに手をかけて、力いっぱい持ち上げてみたが、びくともしなかった。指先がちょっと痛かった。
「あたりまえだけど、素だと、持ちあがらんよね」
「こんな大きな石、持ちあがらないんじゃないの?」
フィナも、無理でしょと、ちょっと呆れたような感じで言ってきたが、あえて無視して、
「ハイパトロフィー」
筋力増強を強く意識してみた。前に、レオンに見てもらったように、体がうっすらと輝いているように見える。マジノの粒子が発動しているのが、まわりからもわかる。
「プヨン、何したの?ちょっと光ってるね。なにか、体から、何かを放っているね」
フィナが、不思議そうに聞いてきたが、でも、何かを感じ取っているようだった。
「よし、やってみるね」
プヨンは、しっかりと持てそうなところにしっかりと手をかけて、片側を持ち上げるようにしてみた。ゆっくりと手探りで力を入れていくと、まだ、けっこう余裕があると思われる段階で、
グラッ
片側は地面についたままだけど、手で持った方は、ゆっくりと持ち上がった。
「あっ」「おっ」
フィナは、びっくりして声をだした。プヨンも、筋力強化の程度がわからないため、ダメ元でやってみたというところだったが、
「も、持ち上がったよ」
(しかも、全力の半分もいってないと思うけど)
プヨンが、そうつぶやくと、フィナも、目を丸くしたような感じで、
「こ、これって重いんじゃないの?持ち上がるものなの?」
「さ、さぁ?まぁ、持ち上がったし。しかし、あいつら、こんな魔法を使ってるとは、そりゃ金属鎧で飛び回れるわけだな」
プヨンは、アデルやレオンが、派手に飛び回っていたのを思い出していると、急に、フィナが、神妙な顔をして、プヨンに話かけてきた。
「プヨン、プヨンは、この石を持ち上げるのって、長い時間できるの?」
「え、これ?長い時間ってどのくらい?でも、まだ、全力ってわけじゃないから、しっかりと手で持っていられたら、5分や10分はできそうだけど」
「お、お願いがあるの。30分できる?」
「えっ?30分?さすがに30分は、ちょっと約束できないけど。なんで?」
フィナはいったい何を頼みたいのか、重いものを運んでもらいたいのか、まったく想像できなかった。
 




