電気の使い方3
プヨンは、このユコナの雷威力を考慮すると、これ以上刺激してさらに怒りゲージをあげた場合、過渡現象により予測しえない威力が出るリスクがあるように思えた。というか、ちょっとびびっていた。やはり、命の個数を考えると、引き際を誤らないことが必要だ。まぁ、びびって震えが止まらないまではいっていなかったけれど。
「すごいね、ユコナ、すぐに使えちゃったね・・・今までずっと使えなかったんだっけ?素質かな」
だから、動けるようになったユコナをほめておくことにした。
「おかげさまで・・・。強い必要性を感じましたので・・・。でも、半年かかってるから素質はどうでしょうね」
怒ってはいるようだが、半年以上使えなかったものが、使えたことにまんざらでもないようで、
「ですので、もう一回してみてもいいですか?」
もう一回したいといってきた。
「え、ムニムニしてほしいの?そりゃ、かまわないけど」
言ってはみたが、予測通りの反応が速攻でかえってきた。
「ちーがーいーまーすー。電気魔法落としたいです」
「げっ。すいません、切り株にしてください。それならいいと思います」
ユコナは、さっきのイメージを再現しようと、同じようにしていたが、なかなかうまくいかないようで、あれあれ、と失敗するたびに呟いている。けっこう疲れてきているからかもしれない。
しばらく、しゃがんで、ユコナのあれあれを黙って聞いていたが、
「なぁ、今日は疲れているんじゃない?またにしたら?」
そう言ったが、ユコナは、何か思いつめたような顔をしている。そして、なにか、決心したようで、こちらにきて、
「プヨン、お願いがあります。さっきのむにむにしてください」
「は?」
こっちからやる分には面白いが、してくれと言われると、戸惑ってしまう、軟弱プヨンだった。
「なんだか、さっきは一連の流れでできたので、感覚を思い出したいんです」
「えっ?いいのかい?」
「はい」
ユコナはそういって、じっとしているが、女の子のほっぺをつまんでひっぱるのは、こっちからするぶんには気にならないが、してくれと頼まれると、妙に気恥ずかしかった。が、こんな機会はもうないかもしれないので、
むにむにむに。
プヨンは、むにむにしてあげた。
バシっ
「いってーー」
そして、背中に、一撃が落ちてきた。思わず、背中をさすってしまう。
「で、できた。あははー」
「あはは、じゃねーよ。俺に落とすなー」
ユコナは喜んでいる。痛いが、まぁ、よしとしよう。
「も、もう1度だけ・・・・」
「むにむに?へんな癖ついたんじゃないの?切り株ならいいけど」
「わ、わかりました。切り株で」
むにむにむに。
バシっ
「い、いたい。俺じゃない」
「は、はい。ごめんなさい」
むにむにむに。
バシィィ
さっきの切り株に直撃した。雷の落ちてくる高さはそう高くはないが、切り株が燃え上がった。さっきより威力がかなり上がっているように見えた。
(お、俺、あんなのくらってたの?身構えてはいたけど、あれで、いてって程度なの?)
そんなことを考えている間にも、切り株はけっこう燃えている。
「あ、やばいなぁ。・・デルカタイ」
プヨンは、とりあえず、消火することにした。空気中の窒素を液体化して、液体窒素にして、雨のように水滴のようにして降らせてみた。思ったより魔法の効率が悪いのか、桶一杯程度の水量というか、液体窒素量しかなかった。降りながらも液体窒素は白煙を上げて気化しているが、量が少なくても、火元を急冷したことと、酸素を遮断したことで、一瞬で火は消えてしまった。
「やばいなぁ。火事になるよ。とりあえず、今日はこのくらいで」
ユコナは、切り株のほうに歩いていって、魔法の威力を確認していた。
「けっこう、すごいですね。何より、一瞬で落ちるのがすごいですね」
「うんうん、こういうのを使える人は少ないんじゃないのかなぁ。本になるくらいだし」
まぁ、あらためて威力を確認すると、速さだけなら、きっとダントツなんだろう。電気を防ぐ手段はある程度考えてあった。保険の意味で念のためかけておいただけだったが、まさか自分に落としてくるとは思っていなかったが、結果的に防御しておいてよかった。さっきの直撃をくらっていたら、けっこうなダメージを受けていたと思えた。ただ、あの発動から落ちるまでの速さを考えると、火や氷が飛んでくるのとはわけが違う。あらかじめ防御していたので、防ぐのは防げたけれど、戦闘中なら常時発動じゃないとやっぱりきつそうに思えた。常時ってなると、どのくらい疲れるんだろうなぁ。そう思案しているうちに、
「プヨン!」
急に、ユコナが怒り出した。
「え?なんか怒ってるの?な、なんで?」
さっきまで、上機嫌だったのに、特に怒る理由はないはずだが・・・、
「なぜ、雨を降らせられるんですか?しかも、ぜんぜん濡れてない、へんな雨。天気魔法ですよね?」
「えっ・・・。火事になるところだったからで、いてっ」
あわてて、舌噛んだ。予想以上の土砂降りのようだ。晴天の霹靂ともいえるかもしれない。
「こ、これは、雨じゃないです。水の粒のようにみえたかもしれないけど」
「じゃあ、なんなんですか?しかも、濡れてないし。白い煙?もでてたし、説明してください」
(ユコナ、なぜにそこにいくんだー。でも、これって説明どうしよう)
「ど、どう説明したらいいんだろ・・・。な、なぁ、俺って、恩人じゃないの?」
「プヨン、おしえて・・・」
潤んだような目で上目遣いで見上げてくる。
「急にかわいく言っても、無理です。でもなー、口でいうの難しいんだよなぁ」
別に隠してるわけでも、説明がいやなわけでもないが、いい言い方がわからなかった。
腕を振り回して、手をぶんぶん降って、風を起こしながら、
「なんていうのかな。ここに、空気があるでしょ。これを冷やして水にした?それでわかる?そんで、冷たいから火が消えた後、もとの空気に戻った」
「よくわかりませんし、濡れない水?そんなの天気魔法の本に書いてなかったです」
プヨン、じりじり後ずさる。ユコナは間合いを詰めている。
「ま、待って。ユコナも雨くらい降らせられるでしょ。きっと」
「私は、やると、水が出るんですが、桶をひっくり返したみたいに、ばしゃっとでてしまいます。雨にはなりません」
(え、そ、そうなんか。ただ、出せば雨になるんじゃにないのか。さっきは、なんで雨粒にできたんだっけ。一気に気体から液体に相転移させて、結露させたからか)
「えっと、なんでですかね?なんででしょう。わかりません。あはははー」
プヨンは、とりあえず、ひきつった笑いでごまかした。確信はないので、わからないのは事実は事実だ。だが、事実に納得してくれる保証もなく、ユコナも、笑い返してくれたが、目線から放たれる凍てつく波動は、あらゆる防御を無効化するに十分だった。
「あはは、そうなんですねー」
(ユコナは怒ってるよ。ごまかせないだろうし、どうすっかなぁ。わかってたら簡単なんだろうけど)
「うーん、今日は雷できたからいいんじゃないのかなぁ。さっきのは、あれはあれで、けっこう危なかったりするし、こ、今度にしようよ」
とりあえず、一度リセットしたい。それに、正直、空気とかは、うかつにやると、酸欠したりもするし、本人に意図しないダメージとして返ってきたりもしそうだった。
「あ、あぶないの?なんで?」
「さっきのは、雨のように見えるけど、水じゃないんだよね」
百聞は一見、一度だしてみることにした。そのほうがわかりやすいだろうし。ユコナの手をつかんで、手のひらを広げさせて、
「サブリメーション」
とりあえず、空気中の二酸化炭素をドライアイスにしてみた。効果範囲を落としたこともあるし、もともと空気中にはそんなにたくさんはないので、手のひらを中心に50㎝くらいの範囲で、ぱらぱらと粉雪のようなものが舞い落ちる程度だった。
「あ、あぁっ」
ユコナは自分の手のひらにうっすらと積もったドライアイスの雪を見ていた。ドライアイスは、手のひらの上で白い煙をだしながら、また、消えていく。手はもちろん濡れたりはしない。
「あんまりやりすぎると、手がこおっちゃうから、このくらいでね」
小さな範囲とは言え、氷とは比較にならない冷たさなので、あんまりやりすぎると凍傷になるだろうし、ちょっと見せてあげるくらいで、すぐ降らせるのをやめた。ユコナは、融けるというか、昇華して消えていくドライアイスを見ていたが、完全になくなってしまったあとも、自分の手のひらを見続けていた。しばし、沈黙が流れたのがいやだったので、
「ふっふっふ。神様から与えられた偉大なるみわざだ」
ちょっと、ふかしてみたら、ユコナは、与えられた返答にぴくっと反応して、
「そ、そうなのですか?神様なんですか?プヨンが毎日お祈りしているからですか?」
何やら、意味不明な反応が返ってきた。真に受けたようだ。
(あ、これはやばいかも。ちょっと自慢してやろうくらいで見せたら、妙に食いついてきた)
目がきらっきらっとしているように見える。自然魔法の本に興味を持っていたせいか、本だけだと半信半疑だったものを目の前で見てしまったこともあって、
「も、もっとわたしに教えてください。本に書いてあってもわからなかったことが、目の前で見れるなんて」
手が、震えている。もう、冷気はほとんどなくなっているはずなんだけど。とりあえず、しゃがんでしまっていたので、手を持って立たせてあげたけど、手が冷たいという事はなかった。
「ま、待って。あれは、ちょっと特殊で、あれ以上は・・もう限界で、なかなか、できたりできなかったりで・・」
とか、なんとか、言い訳してなかったことにしようと思ったが、雷も似たようなことを言って、ちょっとしたことでえらく怒られたばっかりだったことも思い出した。雪に冷気を注がないように注意して、あとあとのことも考えながらで、流暢さのかけらもない怪しい言い訳をしたプヨンだが、ユコナは、ほとんど聞いていないのか、
「わ、わたし、今日からもっとちゃんと神様にお祈りします。家に帰って、もう一度本を読み直してみよう。わからないことをまとめて、プヨン先生にまた聞きにきます」
会話がかみあってない。とりあえず、へんなうわさがたたないように手をうっておこうと、
「あ、き、今日のことは、ここだけの秘密で。他の人には言っちゃダメだよ。そのかわり、ちょっとならアドバイスするから」
「や、やった。私にだけは、なんでも教えてくれるんですね。やったー」
「え、ち、・・・ちょっとだけ・・・だよ」
ユコナは飛び跳ねているので、プヨンが伝えたかったところはかき消され、ユコナは、頭の中、これで自然魔法レベルが大きくあがると考えていた。
(まぁ、自然っていっても、ふつうの火、水と変わらないよね。もともとそのへんにあるものだから、火よりも楽に思うけど)
一通り、ユコナの興奮が落ち着くと、
「とりあえず、今日は帰ります、おうちに帰ったらさっそく本を読むので。さよならー」
元気よく走り去っていくユコナを見送りながら、プヨンは、面倒ごとにならないように祈っていた。




