電気の使い方2
次の日、朝起きて、薬詰めのお祈りに行こうとするのと同時にユコナがきた。
「えっ。ユコナ、こんな朝はやくからなんでいるんだ?王都に戻るんじゃなかったのか?」
「プヨン、おはようございます。ひさしぶりですね。また、会えましたね」
「ひさしぶりって、昨日会ったばかりじゃ・・・」
ユコナは、朝早くからやってきて、やたらにこにこしている。
「次会ったら、電気魔法を教えてくれるんでしたね。ね。ね」
「えっ。確かに、次、会ったらって言ったけど・・・。今日なの?」
「はい。次、会いましたし」
「・・・・・めっちゃ強引やないですか?」
「ふふふ。よろしくお願いします」
いつから計画していたのだろう、今日のユコナはいつも以上に押しが強かった。
「でも、午前中は、教育所の日で、今日は、魔法防御を教えてくれるらしいから行きたいんだ」
そういうと、ユコナも興味をもったのか、
「いいですね。防御は大事ですし、私も一緒にいきますね」
と、一緒に行くことになった。
とりあえず、2人は、教育所の防御講義に参加した。ただ、実技のない無料教育所で、大人なら周知の内容を、初心者向けにかみ砕いただけだ。魔法が使える効果量に応じて、誰でも筋力が強化され、魔法の耐性があがる。そして、より意識を集中することで、さらに効果が高まる。これにより、強敵による殺気の放出のような精神に影響がある攻撃を防ぐことができる。逆にこれを怠たると、強敵に気圧され腰が抜けるなど大変危険なので、常に気を張っておけとのことだった。例えば、危険動物や盗賊に襲われたときだ。
一方で、昨日の回復魔法のチホのように素の状態で魔法防御が高いと、せっかくの回復魔法も阻害されることがある。まぁ、今日の魔法の防御講義は、戦闘などのない日常生活にはあまり関係がなかったが。魔法攻撃などふつうは受けることもなく、回復以外で日常で影響することは少なそうな内容だった。ただ、町の詰所の魔法兵の講義だったため、興味本位で聞きにきている人も多かった。こういった講義は復習のようなもので、無駄になることもないものだ。
2時間ほどで講義も終了した。ユコナに、もう一度、ほんとに雷魔法というか、電気魔法を試してみたいのか聞いてみたが、気持ちは変わらないようだ。下手すると、かなり危険だとも思うけど、たしかに、体験したことがなく、そんなものがありますと言われてもわからないのかもなぁと、プヨンもその気持ちはなんとなくわかった。
「じゃぁ、どうしよう。ドカンと雷を落とすわけじゃないから、危険は少ないと思うんだけど、とりあえず、周りに人がいない安全なところへいこっか」
「はい。いきましょう」
のりのりのユコナと、プヨンは、町はずれの草地に移動した。
「とりあえず、ちょっと一回試すよ。ビオグラフ」
パチン
数mほど離れたところに、2mくらいの高さから地面に小さい放電現象をだした。威力はかなり絞ってみたので、放電時のスパークは見えたが、発生した音もそんな大きな音ではなかった。
「じゃ、じゃあ、とりあえず、やってみよっか。そこの切り株のところにでも座ってみてよ」
「そこに、座るんですか?どうして?」
「あー、電気は、重症だと火傷しちゃうんだけど、軽度でも、マヒしちゃったりして、立ってられなくなることがあるから。立った状態で、足がマヒすると、倒れこんじゃうことがあるから。踏ん張れない状態で倒れると、怪我しちゃうかなって」
「わ、わかりました。これで、どうですか?」
ユコナは、切り株の1つに腰かけた。
「おっけ。じゃぁ、やってみるね。たぶんね、電流をしぼって、1ミリアンペアくらいまでなら、そんな怪我とかもないはずなんだ。じゃぁ、やるよ。ビオグラフ」
ピシッ
出力を絞るだけでいいんだけど、つい、小声になってしまった。
「うっ」
ユコナは、ちょっとビリっと感じたようだが、特にダメージを受けたような様子はなかった。
「ど、どう?痛くなかった?」
「えっと。なんか、腕とか足が一瞬ひきつったような感じです。うまく言えないですけど。一瞬だったので、よくわからないです」
「さすがに、ちょっとしぼりすぎたかな。やりすぎて、大けがとかになるとダメだから、だいぶ絞ってみたんよ」
「そ、そうですか。ちょっとびりっとしたくらいで、あれだと大丈夫ですけど」
「それで、なんか、わかりそう?あの、びりっとしたのが、電気だけど」
ユコナはちょっと考えながら、
「うーん、やっぱり、よくわかりません。もっと威力上げると、やけどしちゃうんですよね」
「そうやなぁ、強くなると、ひきつった感じになるし、動けなくなると思う。最悪は、重度のやけどになったり、死ぬことだってもちろんあるだろうし」
やっぱり、遊びではないだけに、いくら手加減してもリスクはある。ユコナも、そのあたりをちょっと気にしていたが、
「威力をあげてみるのは、あぶないですか?もうちょっと試してみたいけど」
「それは、危ないと思うよ。あれ以上は何とも言えないけど、試したいの?まぁ、死なない限りは治せるけどさ。でも、どのくらいで、どの程度の威力があるのかは、けっこう適当」
「適当ですか。あのびりびりくるのが電気の効果なんですよね」
ユコナは、あの感覚を思い出そうとしていたが、あの感覚は結果であって、魔法として効果を出すのは、ちょっと違うのはわかっていた。
「感覚知りたいだけなら、いくらでもするけどね。でも、あれを繰り返していたら、電気使えるようになるかと言われたら微妙だなぁ」
「で、でも、もう一回お願いします」
「いいけど、へんな癖がついてるんじゃないの?」
あの、びりびりくる感覚は、怖いもの見たさに通じるものがあって、やりたくなるのもわかる気はした。
「じゃあ、やるよ」
「ビオグラフ」
バシッ
「ひゃうっ」
ちょっとやりすぎたか。ユコナは、瞬間痙攣したかと思ったら、へなへなと寝そべってしまった。もともと座っていたから怪我したりはなかったが、完全にマヒしているようだ。
「今度はどう?強すぎた?」
「は、はい。かなりしびれています・・・ちょっと動けません・・・」
「へー、完全にきてるんだね。動けないのか」
ユコナの前にいき、ほっぺを指でつまんで、左右にひっぱったりしてみた。
「プヨン、何してるんですか、やめてください」
「昨日、ハンマーで俺を威嚇したのでお仕置きする。むにーーん」
「ひゃ、ひゃめてください」
ムニムニして遊んでいたが、ユコナは嫌がっているがうまく動けなくてもだえていた。やわらかいほっぺなので、ちょっと面白い。1分ほどで、だいぶ、ユコナが動けるようになってきたので、
「延長しまーす」
バシッ
もう一回、かけてみた
「ひゃうー。ひゃひゃ、ひゃめてー」
かわいく文句言ってきた。ただ、目は怒っているが、行動が伴わないので怖さは感じなかった。何やらぶつぶついっているが、ムニムニして遊んでいると、
ビシィ
「いてっ」
背中に、しびれがはしった。どうやら、ユコナが、電気で反撃してきたようだ。
「えっ、今、もしかして使った?」
驚きながらも、さらにムニムニしてやる。
「じゃ、じゃあ、あの木の切り株に落としてみてよ。むにむに」
「え、あ、むにむにはやめてください」
バシュっ
「げっ」
おもわず、プヨンは声がでてしまった。切り株に小さい雷が落ちて、木の破片がはじけ飛ぶのが見えた。予想外の威力に、思わずむにむにをとめて、切り株を凝視してしまった。
(あ、あの威力は。もう、ユコナにむにむにするのはやめておこう)
プヨンがそんなことを考えている間に、ユコナはだいぶしびれが取れてきたようで、手足も若干動くようになっていた。むにむにで恥ずかしそうにしているのと、怒っているのと、魔法ができたことでうれしそうにしているので、複雑な顔をしていた。
「くくく。このくらいにしといてやろう」
そう言って、ユコナから離れて、切り株のほうを見に行った。雷は小さいといえど、落ちたところは木がはじけとんでいたし、まわりは黒くなっていた。そこそこの威力がありそうだった。




