回復魔法の使い方8
雷魔法についての話が一段落したあとは、ユコナが戻ってどうするのかとか、サラリスはどんな魔法が使えるのかといった話をしながら、プヨンとユコナは歩いていた。ほどなく、レスルの建物に到着し、2人は中に入って、手元にあった獲物を売る手続きをした。定番の作業なので、すぐ売却は終わり、うさぎと鳥の合計3匹分の代金20グランを受け取ってレスルを出ようとしたところ、ホイザーに待ったをかけられた。
プヨンが、回復魔法が使えることを知っているのは、レスルでは、ホイザーとヒルマくらいだけど、以前に回復のAAA判定を取得してからは、大怪我したり小部位を切断するようなことがあると、急ぎの場合は治療協力を求められることがあった。ホイザーは、資格の漏洩をきちんと守ってくれているようで、基本的に、ホイザー本人か、ヒルマ以外が頼みにくることはなかったし、ある程度重症なのもわかっていたので、プヨンも積極的に依頼を受けることにしていた。もちろん、報酬はもらっていたし、そうおいそれとできる依頼でもなく、また、けが人にとっては自分の一生の生活がかかっているのもあって高額だった。月1、2回治すだけで、1ヶ月遊んで暮らせる程度の収入になっていた。だから、ホイザーが声をかけてくるということは、その手の依頼なんだろうと思われた。
「ホイザー、また、例のやつ?誰か、怪我したの?」
「あぁ、プヨン察しがいいな。ちょっと、試してくれないか?」
と、治療を依頼しにきた。
俺は、ユコナが横にいるのもあって、ユコナに目配せをしながら、
「師匠がそこにいるけど、一緒に行ってもいいよね?」
と、ホイザーとユコナを交互に見ながら言うと、2人は同時に、
「ええっ」
と叫んだ。ユコナは、面食らっているようで、呑み込めていないようだったが、
「プ、プヨン、そっちの子がお前の師匠なのか?」
ホイザーは真に受けたようで、ユコナを見つめながら、驚きまくっていた。
「プ、プヨン、私は、回復Aだけど・・・?」
「それは、機会に恵まれなかっただけでは?今日回復できたら、ランクあげてもらおう」
ユコナに向かってにやにやしながら、ホイザーに聞いてみると、
「お、おう。結果を見届けたら、もちろん、資格認定はさせてもらうよ。とりあえず、こっちにきて、一度見てくれ」
そういうと、ホイザーは、プヨンとユコナの前を歩いて、別室のほうにつれていってくれた。
部屋に入ると、3人の女性がいた。ホイザーが、3人の方を紹介してくれた。
「この3人は、武道大好きメンバーで構成された、トラウベンモストってミドルに所属している。立っているのがトカイで、そこで、横になっているチホだが、足を派手に骨折してな。ミドル内でいなくなるとダメージが大きいらしくて、治せそうなのを探していたんだ」
チホと呼ばれた子は、眠っているのか、気を失っているのか、横たわったままだった。見るからに直接の戦闘系にはみえず、おそらく、魔法を使うのだろう。足がかなり細く見える。そして、ホイザーは、3人の方に向き直り、
「こっちは、プヨンとその師匠のユコナの2人だ」
と 紹介してくれた。ユコナは、えっと小さく声をあげ、抗議の姿勢を示していたが、あからさまな反論はしなかった。その紹介は心地よくないのか、なんともいえない微妙な顔をしていた。
「えっ、ホイザーが、治療できるやつがいるっていってたのは、その2人の子なの?」
トカイと呼ばれた子は、ちょっと失望したように、そう口にした。まぁ、それはそうだろうか。明らかに子供っぽい2人が連れてこられたんだし、成果が期待できそうにないとなると、気持ちはわからなくもない。ただ、プヨンはちょっと気になったことがあった。
「その、チホ・・さんは、僕たちでないと治せないんですか?他の人でも、骨折くらいならなんとかなりそうだけど?」
と聞いてみた。ふつうは、自分たちの仲間で回復する役割がいるだろうと予測した。すると、トカイが、ちょっとムッとしながらも、
「チホは、回復が得意で、うちの回復役なのよ。ただ、足の骨折がかなりひどいらしくてね。痛みはなんとか抑えているんだけど、治療に集中できてないのよ。しかも、折れたのがすねだから、伸ばした状態から動かさないで治すのが難しくてね。自力だと、体勢的にもちょっと厳しくてね。で、結局うまく治せず、かなり疲労してたのもあって、とりあえず、一度、痛みを抑えて、眠らせたのよ」
トカイは、ちょっと一呼吸おいて、チホの顔を見た。痛みがあるのか、寝ているが寝汗をかいている。
「で、知ってるでしょうけど、治療は、相手の魔力の基礎防御を破って回復魔力を注ぐ必要があるでしょ。もともと回復魔法の使い手は基礎的な魔法防御が高いんだけど、特にチホは、あまり回復魔法が効かないのよ。だから、誰かに頼んでも気軽に治療っていうのができないのよ」
(そ、そうなんだ。知らんかった。ふつうにメイサとかも誰彼構わず治療していたし、そういうもんだとばかり)
プヨンは、そのあたりはあまり聞いたことがなかったのもあって、ユコナにそっと耳打ちした。
「ユコナ・・・、知ってた?」
「え?えぇ、もともと、人だけじゃなく、どんな生き物にもある程度の防御はありますよ?」
「そ、そうなのか」
そんな雰囲気が、トカイにも伝わったのか、小声でも聞こえたのか、ややあきれ顔で、
「だから、あんたたちじゃ、難しいんじゃないかなぁ?」
ちょっと、小ばかにされてしまった。しかし、ホイザーは、勝算があると思ったから連れてきたようで、
「ま、まぁ、なおったらもうけだろ。ダメ元でいいからやってみてくれよ。もちろん、うまくいったら、高レベル治療ってことで、追加報酬がもらえるからさ」
追加報酬のところで、ぴくっとトカイの眉が反応し、ちょっとあわてながら、
「ま、まぁ、そうは言っても、この子もしょせん、低レベル回復士だからね。一般市民よ。誰でも治せると思うわ」
追加報酬のところに反応して、急に難易度低いアピールをしてきた。まぁ、内心は無理とは思っていても、反射的に、万が一を考えた保険程度の発言だろうけれど。
まぁ、お互い、かけひきはそのくらいにしておいて、
「じゃぁ、ユコナ師匠お願いします」
プヨンは、ユコナにやってもらうことにした。まぁ、ダメだったら、自分もやってみるけれど、まずは、ユコナの治療を見てみたいのもあったから。
「え、私からですか?うまくできるかな」
「大丈夫じゃないの?いつもできているのならば」
そういうと、チホの前に座って、ユコナは準備をはじめた。トカイも、少し離れた位置に立ち、様子を見ている。
ユコナ、さすがに、頻繁に治療所でがんばっていたのか、動きがとても滑らかに見えた。気負いもなさそうだ。例のつぶやきがはじまり、ぶつぶつと言いながら治療をするユコナの指の動きにあわせて、ゆっくりとだが確実に傷がなおっていく。血の青あざや、おかしな骨の形が徐々に、本来の形にもどっていくのを、トカイは口をあけてぼーぜんとみていた。ホイザーは、やっぱりなって顔と、なんとも言えない複雑な顔を交互にしながらだまって見ていた。そして、滞ることもなく、ちょっと派手な骨折レベルとはいえ、10分とかからず、治療が終わってしまった。
ほっとしているユコナに、
「さすが、師匠ですね。できると思っておりました。おつかれさまでーす」
トカイが、納得いかないような顔をしているなか、とりあえず、プヨンは、ユコナを労っておいた。ホイザーも、終わったのを見て、
「おう、お疲れ様。やっぱ、できると思ってたよ。資格証は預かるよ」
といって、ユコナから、資格証を受け取って、部屋からでていった。ユコナも、笑顔がでて、
「これで、追加報酬がもらえるんですね。ふふふ。でも、見た目だけじゃなく、ちゃんと動くかは確認しないといけませんね」
満足しているようだ。しかし、ユコナ、毎日していただけあって、回復魔法がさらに上達しているように思われた。手順がよどみない感じだ。追加報酬の言葉が出てくるたびにぴくっとしてたトカイも、無事なおったことには安どしているようで、
「あ、ありがとう。動くのはあとで見ておくよ。見た感じまっすぐになっているし、大丈夫だろうけど。報酬分は、チホの小遣いからさっぴくから」
と、了承してくれたようだった。
「チホが意識がないとはいえ、防御を超えて回復できるとは、驚いたね」
ちっさいけど、そんな声も聞こえた。
そのあとしばらくは、トカイと雑談をしていた。聞くと、特に危険な仕事をしていたわけではないが、草原移動の途中で大型のカバのような水棲動物であるルーフの群れがいたため、迂回しようとした際に、背後から襲われてしまったようだ。一番後ろにいたチホが避けようとしてよけきれず、体当たりで飛ばされたとのことだった。そんな話をしていると、ヒルマが戻ってきて、ユコナに更新した資格証を渡してくれた。これで、ユコナは回復AA使いになっている。そして、ヒルマは続けて、
「報酬については、1000グランになりますけど、どうする?」
と、プヨンとユコナを見ながら聞いてきた。
「いつもどおり、スイスイ銀行へ」
「は?何それ?」
ヒルマに聞かれたので、
「いや、ちょっと、言ってみたかっただけ。気にしないで。僕の分はドーテに登録で」
「私も、それでいいです」
ユコナもそう言った。特にお金がすぐにいるわけでもないので、残高だけ、登録しておいてもらうことにした。そして、2人は、帰宅することにした。




