狩りの仕方10
サラリスの重さも、プヨンの筋力効果の確認も今度にして、そろそろ町に戻ることになった。ゴーンは薄い紫の光に照らされたままだった。あれから、まったく動く様子はない。とりあえず、そのままにしておいて、4人は立ち上がり、来た時と同じようにレオンを先頭に出口へと向かうことにした。ずっと、プヨンが光を出し続けていたので、レオンは明かりを使わなくなっていた。
プヨンも、一度明かりをつけてしまうと、あとは、明かりが欲しいと思っていることもあるのか、ほぼ無意識で明かりをつけ続けることができていた。まわりは、薄紫の明かりで照らし出されていた。
出口から出ると、陽はかなり傾いていた。
「そろそろ夕方ですね、早めに戻りましょう」
レオンの掛け声で、町に向かって戻り始めた。特に、難敵に出会うこともなく、途中で小遣い稼ぎ代わりに、出会ったうさぎのような小動物を三匹ほど、プヨンとサラリスが魔法で仕留めた程度で、町に戻ることができた。町に入る手続きを終えたあと、レオンは報告に行くからついてきてほしいというので、3人はレオンの後についていった。レオンは、簡単に、報告のあったことは正しく、洞窟内に入ったときにゴーン2匹と遭遇したことを伝えた。その2匹は、なんらかの理由で一度大けがか死んだあと、カルカス化しているように見えたこと、うち1匹はレオンがとどめをさし、もう一匹はユコナが倒したことも、多少武勇伝も入れながら報告していた。レオンとユコナの2人が中心となって、4人で倒したことは大いに称賛されていたが、死体の見分と、他にもいないかの確認のため、後程、追討隊がでるということだった。
そこまで聞いて、プヨンはさっきとった動物を売りにレスルに戻ると3人に伝えた。レオンは、まだ報告が残っているらしく準備をしている。その横で、サラリスとユコナも状況を聞かれていた。プヨンはかまってもらえず手持無沙汰だったので一人で移動しようとすると、ユコナが呼び止めてきた。
「プヨン、レスルにいくんでしょ?私も行くので、ちょっと待ってください」
「え?別にいいけど、なんか用事あるん?待ってるよ」
と言うと、ユコナは、ちょっと奥に行って、
「すいません、このハンマー借りていいですか?」
と言って、なぜか、ハンマーを借りてきて、
「おまたせー、行きましょう」
と、そばにきたので、話ながら、移動することにした。
特にこれといった話題がないので、今日のゴーンとの戦いっぷりをおさらいして、ユコナをほめたたえておいた。あの氷魔法の威力はなかなかだったし。あれを食らったら、きつそうだった。
「そういえば、なんで、ハンマーなんか借りてたの?」
そう、プヨンが聞いた瞬間、ユコナの目が怪しく光った。ような気がした。
(あ、地雷踏んだか・・・)
「・・・聞きたいですか?」
プヨン、なぜか急に寒気がしてきた。寒冷前線が通過したようだ。なんか、やばい気がしていた。
「い、いや、特に聞きたくはないです」
「ダメです。聞いてください」
「拒否権は・・・・?」
「ないと思います」
どうやら、拒否権はないらしい。プヨン、何をやったんだろうか。
「・・・・。で、では、どうぞ」
プヨンが促すと、ユコナはゆっくりと語り始めた。
「今日、行くときに、私が、自然魔法の本を読んでることを話しましたけど、そのあと、プヨンが雷を見せてくれましたよね。覚えていますか?」
(そういえば、そんな話をしたけど、これって、はいっていうと、罪になるやつ?)
念のため、知らないふりをすることにした。
「え、そうだったっけか。あんまりよく覚えてないけど」
「そうなんですか?私、自然魔法、特に雷に興味があって、がんばっているんです。ほんとに覚えてませんか??」
ユコナ、プヨンの目をじっと見てくる。あわてて、プヨンは目をそらせた。
「そ、そんな気もしますが、うろ覚えでして。どうだったかな・・・」
そうすると、ユコナは、鞄から、ハンマーを出しながら、
「物忘れは、ショックを与えると、思い出すそうですが・・・ためしますか?」
(げっ、そのために、わざわざかりてきたんかい?)
思わず、吹きだしそうになってしまったが、ユコナがあまりにまじめな顔をしているので、ここは、いのちだいじに、で、
「あ、たった今思い出しました。大丈夫です」
そう、プヨンは、返事をしておいた。ユコナはそれに満足したのか、続けて、
「そうですか。よかったです。で、ここで確認なのですが・・・、1匹目のゴーンを倒したのはどうやったのですか?」
「あ、あれは、レオンが・・・剣でさっくりととどめを・・・」
「ちっがーう。その前です。よく思い出してください。雷を落とした人がいますよね?」
「そ、そうですね。いたと思います」
ユコナが何を言いたいかわかったプヨン、全面降伏モードになりそうだ。
「私には限界っていったのに、はるかに強力に見えました・・・。なぜでしょう?」
「な、なぜでしょうか。非常に説明深いです。難しい質問ですね」
(か、考えろ。何か理由があるはずだ・・・そうだ)
プヨンとユコナは歩くスピードが遅くなっている。まわりの人も、何か危険を察知しているのか、よけていくように思えた。
「あ、あれは、違う魔法です。そうです。ほんとです。リスワイフと、ビオグラフです。ぜんぜん違います」
ユコナ、ちょっとこの返事に、驚いたようだった。もちろん、中身はほぼ一緒だけど、ここはそれでいくしかない。
「え、そうなのですか?同じように見えましたけど、違うんですね。何が違うのですか?」
「そりゃーもうぜんぜん違いますよ。リスワイフとビオグラフは、稲妻と電気ぐらい違います」
よし、これで乗り切れそうだ。そう、プヨンが考えていると、
「じゃぁ、リスワイフを教えてください」
「えっ。教えるの?教えるっていってもなぁ、どうやったらいいんだろう」
「だめなんですか?プヨンは、どうやって覚えたのですか?」
「え、どうやってって。どうやってだろう。なんでか、使えてたな」
ここは、事実だ。どんなに言われても間違っていないはずだが、
「えーー、そんなぁ。私頑張ってもぜんぜんできないのに・・・」
ユコナ、ショックを受けてしまったようだった。
「だ、だいじょうぶだよ。すぐできるよ・・・。たぶん」
「気休めはやめてください。悩んでるんですよ」
「ひえっ」
(で、でも、電気ってどうやったらいいんだろう。教えて覚えられるのかなぁ)
「で、電気は、空中にもとの物質がいっぱいあるんだよ。それを、うまく魔法で動かしてあげると、いなづまになるんだよ。わかる?」
ユコナはいろいろ自分なりに考えている様子だったが、こんな説明でわかったら、それこそおかしい気がした。案の定、
「わ、わかりません。空中に浮いているのですか?この辺とかに?そんなこと、本には、どこにも書いてなかったです」
ユコナは、手の平で空気を集めるような仕草をして、この辺というのを確認していた。
「へ、へぇ。本を書いたその人はどうやって使ったんだろうね。難しいんだな」
プヨンは歩きながら考えていた。この世界って電気って稲妻くらいしかないだろうに、作者はどこで知ったんだろう。そんなことを考えていると、
「難しいんだなじゃないですよ。プヨン、もう一度、使ってみてほしいんですけど。どんなふうになるんですか?」
「えっ、ここでか?さすがに街中は厳しいでしょ・・・」
「そ、それは、そうですよね。では、どうしましょうか」
ユコナ、いつになく押しが強い。引いてくれそうな感じではなかった」
「そ、そうだね。とりあえず、口でいうと、体は、なんだかんだ言っても電気信号で動いているから、電気系の魔法をくらうと、びりびりってしびれたり、少しの間マヒして、動けなくなったりするんだよ」
「えっ、そうなんですか?そんなこと、初めて聞きましたが」
「そして、威力が大きくなると、電気が通ったところが、焦げたり、燃えたり。雷が落ちると、木とかだって燃えるみたいな・・・」
たぶん、落雷跡とかはあるだろうし、落雷で死んだり大けがしたりもあるだろうから、これは、たぶん、通じるだろうとプヨンが思っていると、
「そうですね。落雷でどうなるかは本にも書いてありました。・・・でも、プヨンは、なぜそんなに知っているのですか?」
覗き込むようにして聞いてくる。興味半分、残りは脅しのようにも感じたが、嘘はつきたくないので、素直にほんとのことを言うことにした。
「学校で教えてくれたよ。そう習ったし」
(よし、どもってないぞ、ちゃんと言えてるはずだ)
たしかに、習ったはず。間違いではない。最近ではないだけで。プヨンは、即答できたので嘘っぽさもなかったはずだと、安堵した。
「え、学校って、どこの学校ですか?それで、どうやってその魔法が使えるようになったのですか?」
まぁ、そうくるだろうと予測していたプヨンは、どう答えるか悩んでいた。はやくレスルについてほしいが、まだ、半分以上の距離が残っているので、言い逃れもできそうにない。なんか、歩く動きがぎこちなく、ユコナにはすでにばればれと思えたが、
「え。その辺の学校だよ。ほら。簡単な火魔法や魔法防御とかも教えてくれるじゃない。あとは、ちょっと努力と工夫で、ひらめいたんだ・・。はは」
「そ、そうなのですか。努力したんですね。プヨン、すごいな」
ユコナがどこまで信じているかはわからないが、否定するネタもない以上、否定されることもなく、プヨンは乗り切ったと思っていた。すると、
「プヨン・・・、ちょっとお願いなのですが、一度、私にかけてみるってことはできませんか?もちろん、大けがとか、死んだりしないようにですけど・・・」
「えっ」
プヨンは、意外なユコナの発言にちょっと戸惑っていた。たしかに、死なない程度って威力がどのくらいか知っているが、じゃぁ、そううまくコントロールできるかは別問題だ。
「威力をどのくらいにすればいいかは、わからないわけじゃないけど、だからといって、危険がないわけでもないからなぁ。無傷ってわけにもいかないだろうし」
「そ、そうですか。やっぱり、難しいですかね」
気が付くと、ユコナが取り出したハンマーを直そうとしていた。
(こわい。でも、まぁ、それだけ、興味が強いんだろうなぁ)
「わ、わかった。でも、ユコナ、一旦、町を離れるんでしょ?今日、怪我するわけにはいかないから、今度会ったら、一度かけてあげるよ。」
(よし、これで、セーフだ。乗り切ったよ)
ちょっと、プヨンがにやっとした。ユコナもそこは納得したようで、頷いたが、
「そうですね。次会った時ですね。約束ですよ。・・・でも、できないとは言わないんですね」
(しまった。できないって言えばよかった)
でも、一応、今は乗り切れたからいいか。プヨンはそう考えていた。
 




