狩りの仕方9
通路を照らしている明かりは、同じ明るさのまま照らし続けていられた。効率がいいのか、全体を明るくしている割には、あまり疲れも感じないようだった。
プヨンは、もう一体も気にしながら見ていたが、こちらに関心がないのか、ずっと同じところをうろうろとしているようだった。近づいてくる気配はないし、そもそも、気づいてもいないようだった。
「ユコナ、あっちは、ユコナが氷ぶつけてみてよ」
プヨンが、そういうと、3人も、もう一体いることを思い出して、注意を向けた。
「わかりました。今度こそ、命中させます。全力でやります」
ユコナが決意もあらたに、気合を入れている。
(全力?今までは、全力じゃなかったのか?ユコナ得意の氷魔法の全力って、どのくらいだろう?)
プヨンがそんなことを考えている間に、ユコナの氷魔法のキャスティングが進むにつれ、ユコナの前に、40cmくらいの氷の塊ができつつあった。
「でかっ」
プヨンは思わず声をだしてしまった。地下だからか、湿気が高いのもあってか、ユコナの集めた氷の大きさ、水分量は、かなりの量に思われた。このあたり中の空気からかき集めたようだ。
「ヤーーッ」
ユコナは、キャスティング終了と同時に、氷の塊を射出した。
ドヒュ
風切り音がして、氷の塊は、かなりの勢いでとんでいく。レオンもサラリスも、ユコナの魔法に見入っていた。氷の速さは目で追うのがいっぱいで、一瞬後にはゴーンに命中していた。
ガツン。
氷の塊は、ゴーンの左胸から腰あたりに命中した。しかし、氷の大きさが大きさだけに、それだけでは大して勢いが落ちず、そのまま壁際までゴーンを突き飛ばして、
ブチッ。
ゴーンは、壁と氷に挟まれて、押しつぶされてしまった。氷は、岩壁にぶつかって砕け散っている。岩壁も、氷があたったところは、表面が砕けてしまったようだった。
「ユ、ユコナさん。ブチって音がしましたけど・・・。いつも、あんな威力で?」
レオンは、おそるおそるユコナに確認していた。ユコナは、ゴーンに命中させて満足したのか、うっすらと笑みを浮かべている。氷の微笑だ。見るからに満足気だが、また、その恍惚とした笑みが、なんとも言えない雰囲気をだしていた。レオンは、なんとも言えない顔をしている。いっそ、猛獣を見る目に近いともいえた。プヨンも、予想外の威力に驚いたが、意外にもサラリスは、当然よねみたいな顔をしていた。ユコナは、レオンの質問は無視して、
「フフフ、上出来です。では、レオン、確認に参りましょう」
意気揚々と、ユコナは、宣言した。
(確認に参りましょうじゃねーよ。大砲並みの威力だよ。ブチって音がしてるんだから、ぺちゃんこじゃないの?)
ユコナの満足気な顔を横目に見ながら、プヨンは、初めて、他人の魔法の威力を目の当たりにして、ちょっとびびっていた。いつか、あれが自分にむかって飛んでくる気がして、ぶるっと震えてしまった。
(早急に防御の方法を考えねば・・・)
ユコナを先頭に、奥側のゴーンに向かって歩いていく。プヨンは、通路の光量を加減しながら、ついていった。氷は砕けていくつかの破片になっていた。すでに融けだしてもいたので、氷の直撃をくらったゴーンは、氷と壁に挟まれていたが、様子はしっかりと確認できた。ぺちゃんこである。レオンとサラリスもあらためて、ゴーンを見ている。まぁ、予測はできたが、ユコナの魔法威力の結果を間近に見た。プヨンは、ゴーンだけを見ながら、ユコナを見ないようにして、
「ユコナさん、素晴らしい威力ですね・・・」
ぼそっとつぶやいた。ユコナは、やりすぎを察したようで、あわてたように、
「プ、プヨン、なんで、いきなりさん付けなのよ・・・・やめてよ・・・」
違うと言いたいようで、手を振りながら、怪しい動きをしていた。そもそも目の前に事実があるのだから、違うもなにもないんだろうけれど。
「い、いえ。ユコナ魔法の威力が、予想外でしたので」
「ま、まぁ、ちょっと加減はしたんだけど、いい感じに決まっちゃったので・・・」
「えっ・・・」
プヨンとユコナが会話している中で、ユコナのまだ余裕あります発言を聞いて、レオンが固まっていた。サラリスは、特に魔法自体に驚いたふうではないが、ゴーンのなれの果ての姿から、目が離せないようだった。
「えぐっ」
最後に、サラリスがつぶやき、
「サ、サラまで・・・」
ユコナはふてくされてしまった。プヨンは、それを見て、話題を変えようと、
「レオン、ユコナの一撃で撃破されたゴーンの検分をお願い」
と、固まっているレオンを蘇生させた。
「えーっと。これは、生きてはいないでしょうね・・・」
と言いながら、念のため、しゃがんで確認しようとしたところ、
ガサッ
ゴーンが急に動いて、つぶれていない手で、レオンの足を掴もうとした。まだ、死んでいなかったようだ。大ダメージをくらっているのと、レオンが反射的に避けようとしたため、被害はなかったが、
「いてっ」
レオンが飛びのいた拍子に、足をくじいてしまったようだ。いててと言いながら立ち上がってはいるが、足をひきずっていた。ゴーンは、手を動かしたあとは、ほとんど動かなくなってしまったので、レオンは、足を引きずりつつも、慎重に近寄り、剣でゴーンにとどめを刺していた。
「すいません、足をひねってしまいました」
ゴーンにとどめをさしたレオンは、剣を引き抜きつつそう言うと、ユコナがそばに寄っていって、
「そこに座ってください、治しますから」
と言って、小声でぶつぶつと言いながら治療を始め、5分もしないうちに、終わりましたといって、治療を完了した。レオンは、痛みがなくなったことを確認するためか、床を踏みつけながらユコナに礼をいっていた。
「ユコナ様、ありがとうございます。しかし、氷魔法の威力も相当なものなのに、回復魔法も使えるのですか?」
レオンは、ユコナの魔法に驚きながらも、ゴーンのほうもチラチラ見ながら警戒をしている。1分ほど様子を見ながら歩いていたが、
「もう、まったく痛くありません。すごいですね」
と、何度も、ユコナの魔法効果を誉めていた。
4人は、一度、十字路まで戻り、ゴーンの様子を見るのも兼ねて、休憩を取っていた。ゴーンはあれからも時折ぴくっと手足が動いたりはしていたが、痙攣程度で、さっきのように動く気配ははなかった。サラリスとユコナは、簡単な小動物とは違い、戦闘と呼べるような大型生物との闘いは経験がなかったのか、かなり興奮していたが、ようやく落ち着いてきていた。そうして、しばらくすると、サラリスが、
「レオン、やっぱりさっきのって、ふつうのゴーンじゃないの?」
「そうですね。たぶんですけど、ゴーンは、ふつうは、あんなに遅くないです。もっとすばやい動きですね・・・」
レオンはサラリスの質問に返事をしたが、思い出して考えるようにしながらだった。
「・・・でも、逆に、ふつうのゴーンなら、あそこまで生命力も強くはないと思います。やっぱり、例のカルカス化というのは本当なのかもしれません」
「そうなんだ・・・。この後はどうするの?」
「さすがに、倒したゴーンを持っていくわけにはいきませんから、とりあえず、このままで。結果は、町に戻ってから報告したいと思います。どちらにしろ、このまま置いておくわけにもいきませんので、倒したゴーンの後始末のためにも、もう一度くると思います」
そのあとも、レオンは、ユコナの魔法についての賞賛を中心に、さっきの戦いの感想を話し、サラリスはそれを聞いていた。ユコナは相槌を打ちつつ、照れたり、謙遜したりと忙しそうだった。
サラリスもレオンの剣の使い方などをほめたりしていた。実際、間近で剣で戦うのは、3人ともはじめてだったのもあって、生き物を襲う怖さの反面、その姿にみとれてもいた。
「なぁ、ちょっとレオンに聞いてみたかったんだけど、筋力強化って、どうやってるの?」
ちょっと、話も一段落したころ、プヨンは、聞きたかったことを聞いてみた。たびたび、今までも話には聞いたことがあったけど、アデルも含めて、ゆっくり聞いたことがなかった。同年代なら、おそらく、使い方とか覚えたきっかけとかも教えてくれそうだ。
「あ、私も、それ聞きたい。習ってるから、ある程度はできるんだけどね。レオンは本職だから、ちゃんとやれるんでしょ?なんか、コツがよくわからないんよねー。プヨンって、けっこうすばやいと思ってたけど、あれで使ってないの?」
サラリスも、そんなことを言ってきた。
(え、そうなのか?みんな、使ってるの?俺は使ってるつもりはなかったけど、使えてるのかな?コツがよくわからんのよね)
プヨンがそう思っていると、レオンが、ざっくりと教えてくれた。教えるというよりは、レオンの感覚なのだろうけれど、
「もともと、魔法が使える人は、使える範囲に応じて、自然にある程度の筋力も強化されてるんですよ。無意識に。もともと、魔法の流れは自分の体の中にも流れるので。ただ、無意識で発動されているといっても、その効果はそんなに大きくはないですよ」
「え、そうなの?じゃぁ、そこそこ、ふつうの人より強いんだ?」
プヨンは、あんまり意識してなかった。
「で、それを、さらに魔法で強化してやるのが、筋力強化ですよ。こんなふうに」
そういうと、レオンは、何やら力んでいるように見えた。見た目はほとんどかわらないが、うっすらと体が光っているように見えた。
「どのくらい違うもんなの?」
「威力ですか?もともと、魔法のない状態でも、まったく魔法使えない人と、うちの師団長くらいだと、鍛えてるって差もありますけど、かなり違いますよ」
「違うってどのくらい?」
実際、どのくらい違うんだろう。プヨンが見たアデルだって、相当な高さまで飛び上がってたし、程度はよくわからなかった。
「そうですね。素の状態でも、倍以上違いますし。素早さはあんまりかわらないですけど、筋力だけだったら、10倍以上違いますよ」
「じゅ、10倍?そんな違うんだ。じゃぁ、ふつうの人が30kg持てるとしたら、300kgくらいは持っちゃうんだ?すげぇな」
プヨンは、正直驚いていた。ただ、まわりを見ているとそんなもんなのかなとも思えた。兵士にしても、魔法が使える使えないで、全然威力がちがうんだなぁと
「すばやさは、そこまで違わないですけどね。いいとこ、倍までいかないですし。うちの団長は3階くらいまで飛び上がりますよ。自分もがんばると2階まで飛び上がれますし」
(アデルもそんくらいは飛び上がってたな。アデルの本気は見てないけど、みんなそんなもんなんか?)
「こ、こんなもんか?」
筋力強くなれと意識しながら、ちょっと力んでみたが、あまり変わってないように見える。そう思っていたが、レオンから、
「あ、そんな感じですよ。ちょっと体がぼーっと光っていますよ」
と、できていると言ってくれた。だからといって、今ここで、何か持つものがあるわけでもなく、力試しはできなかったが。
「じゃ、じゃぁ、あとで、なんか試してみるよ」
そう言いながら、プヨンは、さっき、レオンがサラリスを助けてたのを思い出していた。
「じゃぁ俺はどのくらい持てるんだろう。レオンも200kgくらい持てちゃうのかぁ。その金属鎧着て、サラリス抱えてたもんな。レオンには重くなかったんだな。じゃぁ・・・・いてっ」
バシっ
プヨンは舌を噛んでしまった。サラリスに、頭をはたかれたようだ。
「いってー。レオンには重くないって言ってるんだからいいやんか」
バシっ
「わたしは、普通の人でも重くないです」
サラリスが怒っているようだ。まぁ、お年頃だから、当然と言えば当然だろうけど、ちょっと
「大丈夫ですよ。サラリス様。思ったより、軽かったですよ」
「レ、レオン・・・・フォローになってないわ。どのくらいと思ったのよ」
「うっ・・・・」
やった。レオンが自爆した。レオンは、火に油を注いでしまった。ターゲットは、プヨンから、レオンに移ったようだ。サラリスは火魔法得意なんだから、レオンに爆発しませんように。
 




