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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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空中補給の仕方

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 ユコナは一つ大きなことを成し遂げたような、不思議な達成感を感じていた。


「見たかしら、この威力。さぁ、どのくらいへばっているかしら。無傷のはずがないでしょう」


 予想以上に視界が悪いが、強い風が吹き荒れた程度ですんでいた。もうもうと立ち込めた煙はおそらく水蒸気。先ほど打ち込んだ火球により大量の水が一気に蒸発したが、爆発というほどの熱量がないことは自分がよくわかっている。それでも高湿度の空気に、それなりのダメージを与えた手ごたえを感じて満足できていた。


 だが、徐々に視界がよくなっていくにつれ、目の前にあるはずのものが見つからないことに気づいた。その辺で仰向けにひっくり返っているはずのものがない。


「え?え?え? サ、サラがさらっと消えた? やり過ぎた? そんなはずは……ないんだけど……ないよね?」


 自爆攻撃に近い形で放った熱球だが、自分が無傷なのにサラリスを跡形もなく溶かしてしまうほどの威力があったのか。確かにあれは強力で、大きな熱傷を負うことがあるが、さすがに常識的な考えて姿かたちが消え去るほどの威力はない。


 恐る恐る確認し続けているが、サラは見つからない。徐々にダメージを負わせる範囲ではすまなかったかと震えが始まる、ユコナの目の前に地面から突き出している金属檻が見えた。よく見ると四方にある。


「あら? 何、この金属棒は?」


 ユコナは状況が飲み込めずにいるとサラリスの声がした。サラリスがいた方向とは異なる方向だ。


「や、やった。成功だわ、これは完璧に決まった。ヴァクスト、この材料は完璧よ」

「え? なんでそっちからサラが? さっきからサラはそこにいたの?」

「あれは愛すべき身代わりアイス。あんなに溶かすなんて本気すぎるわ。なんだか許せなくなってきた」

「え?」


 ユコナが新たに放った火球は相当な威力があったが、溶けたものはサラリス似のアイスドールだったようで、ユコナが金属の檻の中で慌てている。


「ふふふ、どう? 変態の檻の中に入った感想は?」

「何よ。これはどういうこと?」

「ヴァクストが作った、特殊金属マルデテンサイトよ。形状を記憶する特殊金属で、熱に反応して元の形に戻るの。変態専用なのよ」

「サラがしている変態とはこれ?」

「そうよ。使い勝手が悪いから、この上に誘導するのに骨が折れたわ。プヨンにはかわされたけど、代わりにユコナが引っかかってくれて嬉しい。すっごく嬉しい」


 ガチャガチャと揺すると、檻の代わりになっている金属が太くないせいか、それなりに変形する。しかし、ユコナが注意を逸らしつつ、もうちょっとというところで元に戻ってしまった。


「あーあ、惜しかったわね。 あと少し細いと出られたのにね。熱すると元に戻るって言ったでしょ。逃げようとしても無駄。あ、金属の間に挟まれると細くなれるかも?」

「そ、そんなー。出してくれる?」

「今逃げようとしたから、いやー。身代金がアップしました」


 厳しい顔のサラリスだったが、そんなーとうめくユコナを一通り楽しむと、にこやかな顔になった。


「もちろん、出してあげるわよ。ちょっとした身代依頼と引き換えにね」

「身代依頼? この依頼を引き受けたら解放してやるとか?」

「そう、話が早いわね。

「なーに、一個だけよ。サラリス、ヴァクスト宛の雑用は全てユコナが代わりにします。それだけ。簡単でしょ」


 むぐぐっと唸るユコナだったが、サインするまで1時間とかからなかった。




 翌日、プヨンはユコナから難解な相談を受け、頑張って理解しようとしていた。


「ユコナが地元の近くを調査するために行くことはわかった。でも、なぜ俺がいかないといけないのだろう」

「プヨン、そこよ。この長い付き合いが、次の調査課題を協力して一緒にやることを求めているの。ほら、見て、このカード占いの結果を。身近なものがあなたを助けると出ているわ。調査場所はここ。国境付近だけど、そう遠くないのよ」

「何その腰くねくねモードは?」

「え? この誘惑の踊りが効かないの? でね、行き方はやっぱり、プヨンとの編隊飛行で……」

「防御スキルで余裕で無効化したんだよ。頼み事のようだけど、他をあたれないの?」

「なんという防御スキル。さすがプヨン! それで、メサルが言うには、プヨンに頼めとの神様のお告げがあったらしいわ」

「なぜ、メサルは自分でやらないんだろ。自分も外に行きたいって言っていたのに」

「レアが入学準備でくるから無理だって。ほら、プヨンとやりますって署名もして学校に提出したの。これが写し。ひゃ、なにっ?」


 怪しげな書類をユコナが取り出すと同時にピンときたプヨンは、即座に対抗措置をとる。手にしたものは薄い金属板の辞令書のようだが、研磨すれば表面の記述は見えなくなる。


「ほーら、鏡面研磨だよ。RZ0.05の威力を見ろ、この輝きこそ、我ら自慢の生技の証。これで表示は無効化した。あはは」

「あーどうするのよ。もう字が読めないじゃないの。しかーし、ふふふ。熱すると……復活。どう?」

「おぉ、これは。形状記憶の応用か……」

「あれ? あれれっ」


 ユコナが慣れない火あぶりで金属を熱すると、再び金属板に文字が現れるが、そこにプヨンがさらに過熱すると金属は溶け落ち、ユコナの表情も堕ちていった。


 だが同時にプヨンには消える文字の中に「ナイゲン」の文字が見えた。今までの調査地域とは違うが国境付近、ノビターンに行ってほしいと言われていた地名だ。たしか放置の接着剤鉱床を封印したがっていたが、ここも最後に手付かずで残っている例の場所だ。ここは渡りに船。イヤイヤ行くふりをしながら、密かに目的を果たすいい展開だ。


「くっ。わかった。ユコナの頼みとあれば、仕方ないな。付き合うよ」

「え? ふっふっふ、そう、行きたいのね。もう、もったいつけて、最初からそう言えばいいのに。本来無料のところ特別にお昼をご馳走するね」

「タダほど高いものはないとも言うけどね」

「お昼でOK」

「回数制限なしですね。無期限永久ランチパスですね。ありがとうございます」


 えっというユコナの声はあったものの、にこやかな笑顔で交渉はまとまった。




 ユコナとの同行交渉が長引いたこともあり、ユコナとの約束の出発時間までわずかしか残っていなかった。言い換えるとユコナにかけられた行動速度アップに抵抗できず、プヨンにとっては脳天の辟易だったが、アゲイン効果による行動力アップを掛けられ、休憩なしで直ちに目的地に移動が可能になったことになる。


 まぁだらだら回避ができたと思うことにして、プヨンは必要物資の確保を始める。磁気を応用した微浮揚の高速であちらこちらを回り始めてすぐにカバンでごそごそと動く気配に気付いた。


「思い立ったが基地の外、ユコナの裏技、祈念植樹の発動回避を確認。よかったよかった」

「何かと思えばフィナツーか。記念植樹? なんだそれ? 祈念? もしや忌念」

「ふふふ、よく聞いて! フィナツーの今後のご活躍をお祈りすると言って地面に埋められてお留守番させられたことがあるの。だから、祈念植樹回避成功! 私の回避能力が1ランク上がったわ」

「なるほどなぁ、しばらくフィナツーを見ないと思った時は、安全のため、ユコナに地面に埋められていたんだな。意外に過保護だな」

「やさしくなーい。ユコナは過激よ! いい香りのする樹液をあげたというのに」

「あのユコナの先を考えない即断即決魔法か。あの速度強度で行動強制されたら、俺もちょっと相殺できないな」


 最近勝手にどこかに行っていると思っていたフィナツーだが、どうやらユコナに置いてけぼりでどこかに植えられていたようだ。今日はサイドカバンにいるため、久しぶりに声を聞いた。フッと思わず笑みが出てしまったプヨンに、フィナツーはちょっとむっとしたが、周囲を警戒しつつ話し続ける。今後は部外者扱いの居残り植樹にならないよう、24時間態勢の常駐宣言をした。


「でも、今回はプヨンに潜り込んでいたから大丈夫」

「火山の上で落としたりすると心配にならないの?」

「大丈夫。プヨンは連れて行かないとフィナに言いつけられるから。む、フィナツー特殊レーダーが邪悪な気配を察知! では、落葉して冬季モード! 着いたら起こしてね」 


 黙ってしまったフィナツーを気にせず、そのまま待ち合わせ場所に向かうと、フィナツーが言うようにすでにユコナが立っていた。


「遅いと言いたいところだけど、お詫びにプヨンに牽引してもらうからよしとしましょう。さぁ、引っ張ってね」

「どうだろう。毎回聞いているような気がするけど、僕の力で持ち上がりますかね」

「ほほほ、問題ありませんわよ。私のこの穢れなきボディは、羽のように軽いので」

「なるほど、おつむもお胸も羽のように軽そうですしね。わかりました。では、反論がなければ行こうか」

「む、むむ。25勝231引き分け、いいわ。行きましょう。さあ軽いんだから浮かべてね」


 いつもの決まった合言葉を交わしたあと、優しいプヨンはユコナと共に浮き上がる。そのまま高度を上げて移動し始めた。



 澄み渡った上空は一定高度ごとに気温が下がり、陽が当たる青空でも気温は地上から−20℃。そんな中を時速150kmで進む。それでもユコナは元気そうだった。


突然、すぐ近くからぐーっと音がした。


「ふーん、ハラッツリピーター、ちょっと早くないか? それより意外と寒くないのかな?」

「汗にも負けず風にも負けず、プヨン、出発して5分でそろそろ燃料切れです。作戦ミッション食う中補給訓練。特別に私の体重を増やすことを許可します」

「まさか身体強化で耐寒スーツを身につけているからか? 雪にも腹の厚さにも負けず丈夫な身体を持っておられるようで」


 直接消費するわけではないが、飛行は陸上移動と横移動については同じだが、常に全体重を浮かせるため10倍以上負荷が大きい。空腹はまぁ仕方のないところだった。もっとも平均よりはかなり燃費が悪いが、どこで浪費されたかは気になるところだ。


「通常の短距離移動では出ないけど、特別機内食の用意があるよ。ご注文はウナギですか」

「ふーん、まあ私は好き嫌いがないから大丈夫。食う中はゆっくりよく噛みますよ」

「おぉ、では空腹軽減魔法でうなぎのタレだけご飯! 口の中に上手に出して吐き出さないようにな」

「もしかして、タレだけ?」

「タレではない、タレのついたごはんだよ、ごはん! ストレージから口の中に出す物は1つにしないと危険だ。焦って取り出したものに刃物とか混ざると即棄権だから、人生が」


 ムムっと唸るが効果的な言い返しができないユコナ。食う中補給は指の代わりに舌を使い、ストレージから口の中にものを取り出す超高難度補給方法だ。間違って刃物とかが出ると死亡リスクがあり、食べ物の量を適切にしないと口から吐き出してしまう。降りてから食べれば確実に食べられるところを、わずかな時間の節約のわりに危険なハイリスク小リターン魔法だ。おまけになかなか会話しながらの補給は難しい。プヨンが危惧した通りユコナの補給は失敗した。


「あぁー突風が! 私のお昼を奪っていくーー」

「待った、待ってユコナ! 気合いだ。出すな。最悪、風下に移動してから!」

「むぅーん、これは重度の独占法違反。意地悪には喰らえ! 今だけ使える私の秘術、腑凶和音」


 ブワッと空気が広がったように感じた。続いてグーグーと不快な集中力低下音が一定周期で四方から響くと、なぜだか自分の分をわけてあげないといけないと感じ出す。背徳感を増幅して精神面に回復できない効果を出す反復音響攻撃が始まるが、もちろんプヨンは何度も経験済みで十分なユコナ耐性が伴っていた。


 この腑凶和音は空腹を利用したものだ。すでにプヨンは事前に食っていないユコナが悪いと思えば、精神的ダメージ軽減ができ、放置する無効化方法を見つけており特に問題はない。それ以降も予想された範囲内の空腹アピール攻撃が続くが、遮音に加えて普段より強気で対応する防飲防食魔法でしのいでいると、予定通りに目的地が見えてきた。


「ほら、ユコナ、地平線に見えてきたあのあたりの丘が目的地のはずだから、そこで休憩するといいよ。本来、近距離飛行に機内食はないんだよ。目的地まであと30秒! 我慢我慢だ」

「え? もう? さすがプヨン。10分程度で軽々と着くなんて私の体重やプヨンのおつむと同じくらいね。もっとも食べ物のことは忘れないわよ」

「うっ。高高度でも普通に会話できてきてるなぁ。さすがユコナ、腕を上げたな」

「むぅ。プヨンと同レベルじゃ満足できないけど、もっと褒める機会を与えましょう」


 ユコナが笑みと不満を合わせたような表情をしているが、長引かせるつもりがないプヨンは、会話を打ち切り着陸体制に入ることにする。ここからだと目標も見え、迷うはずがない。気持ちが固まる。


「ユコナ、すまない、あれが目標だ!」

「え? 目標はわかったけど、なぜ謝るの?」

「着陸時にそばにいるのは危険だから。歯を食いしばって! バランサー投下!!」

「え? なんで? バランサーって私? 待って、準備が! お、落ちる。ふぇぇー!」

「よし、自由時間だ。30分後にあそこで!」

「け、牽引、トーイングナイセンス!」


 ユコナの最後の呼びかけを振り切り、お互いの自由時間を尊重する。自由落下中は気兼ねなくユコナの自由にしていただき、高度を下げながら2人、特にユコナには強制着陸モードに移行していただいた。




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