狩りの仕方8
そうこうするうちに、最初の十字路が見えてきた。入口から50mも離れていないから、ゆっくり慎重に歩いても、そう時間はかかっていない。ゴーンは見えないが、なんとなく、気配のようなものは感じる。これ以上奥に行くのは危険が大幅に増えると思われ、レオンは、ここで立ち止まって様子を見るようだ。すると、先ほど出口に行く前に見えていた方向に、動く影が見えた。
ここから、15mくらいだろうか。
「いましたね」
レオンは、つぶやいて、サラリスやユコナもうなづいていた。こっちに気づいているのかはよくわからなかったが、レオンは、外から持ってきたのか、石を持っていて、投げたようだ。
ポスっ。コロコロン。
石は、ゴーンに当たって、地面に落ちる音が聞こえた。ゴーンは気づいていると思ったが、石があたっても、すぐに、こちらに向かってくるでもなく、そのまわりをうろうろしているようだった。
「レオン、どうする?」
サラリスが、レオンに聞いてみた。
「そうですね。なるべく、出口側に誘導して、安全なところでと思いましたけど・・・どうしましょうか。飛び道具もないですし・・・・」
(なるほど、飛び道具で軽く仕掛けて、注意を促すんだね)
「ユコナ、氷でもぶつけてみてよ。ただし、静かにね」
プヨンは、ユコナに頼んでみた。氷だと、あまり音をたてずにぶつけられそうだ。ユコナもレオンに目配せして確認してから、小声でぶつぶつとつぶやいたあと、小石くらいの氷の塊をとばした。氷はまっすぐにゴーンに向かってとんでいったが、
カツーーン
地面にぶつかる音がした。どうやらはずれてしまったらしく、ユコナが謝ってきた。
「すいません、暗いのもあって、はずしてしまったようです」
そうはいっても、すぐそばに落ちたはずなのに、ゴーンはいっこうに気づいていないようだった。
「なぁ、レオン、今のでも反応がないように思うけど、やっぱり、ふつうじゃないのかな?」
プヨンがレオンに確認すると、
「そうですよね。ふつうだと気付きますよね。やっぱり、あれは・」
そうレオンがいったとき、
ゾクッ
急に寒気がした。
ゴーンのほうから、すごい殺気のようなものを感じる。よくわからないけど、今から何かやりそうな、すごくヤバイ感じがする。ゴーンは声をだしてはいないが、何か叫んでいるようにも見えた。ただ、ゴーンは、しばらく殺気を放つと落ち着いたのか、特に何かしてくるようには見えなかった。レオン、ユコナ、サラリスの3人は、動かずじっとしている。サラリスとユコナはちょっと震えているようだ。
「レオン、なんなのこれ・・・なんか・・・すごくいやな雰囲気だよ。どうするの?」
サラリスが聞いてきた。
「そ、そうですね。ちょっと暗いから明るくしたいですけど、松明とかもないですし」
明るくしたいのはわかるので、プヨンは、会話に割って入って、明るくしようと提案した。
「じゃあ、俺、明るくしようか?」
「へ?ど、どうやって」
サラリスが聞いてきたが、レオンの方を向いて、今から明かりをつけると目で合図してから小声で呟いた。
「フォティン」
「ひゃ、ひゃぁ」「うわっ」
ゴーンを注視していたユコナが、思わず悲鳴を上げた。暗闇になれていたからか、目が開けられず、レオンとサラリスも思わず顔を手で覆っている。プヨンも、まぶしくて思わず目をそらしてしまった。
「ごめん、月明り程度に部屋を明るくしようとしたけど、ちょっと明るすぎた」光量をしぼって調節すると、通路全体が薄い紫色につつまれ、奥まで見えるようになった。オーロラと同じように、空中の窒素にマジノ粒子をぶつけて光を取り出し、空間全体を光らせることができた。目が開けられるようになったサラリスから、さっそくお言葉をいただいた。
「ちょっと、何よ。いきなり、まぶしいじゃないの?それに、こんなのあるなら最初から言いなさいよ」
「う、うん。ごめんよ。今、思い出したんだ」
通路は、30m先くらいまでは、はっきりと見えている。そのあたりに扉らしきものがあった。
「あとで、詳しく聞くからね」
とりあえず、目の前に視線を戻すが、あれだけ、明るくしたわりには、ゴーンには特に反応はないようだった。
「なぁ、レオン、やっぱりあいつは目が見えてないよね」
プヨンは、レオンの判断を仰ぐと、ぼーっとプヨンを見ていたレオンは、我にかえったようで、
「そ、そうですね・・・たしかに光や音は反応していないようですが、どうしますかね・・・・。あっ」
レオンは何かに気づいたようで、通路の奥の方を指さしている。通路の脇に荷物らしきものが置かれていたが、そのそばで、何か黒い影が動いている。座っていたのが立ち上がったように見えた。どうやら、2匹目がいたようだ。ユコナが、
「あれ、もしかして、2匹目ですか?やっぱりいたんですね。どうしましょうか。連携はとっていないみたいですけど、やっかいですね。」
レオンに、
「なぁ、レオンって、あれが目の前にいたら、すぐ無力化できそう?」
「え、無力化って、脅威がないように、完全に倒してしまうってことですよね?・・・」
レオンはちょっと考え込んでいたが、
「ふつうなら・・・、1体だけなら、2,3回攻撃が当たってダメージを与えれば大丈夫でしょうけど・・・あれが、ふつうのゴーンでないなら、なんとも・・・。さっき感じた殺気では、思わず、すくんでしまいました」
「あれ、なんだったの?私も動けなかった・・・」
サラリスも、気になっていたようで、レオンに聞いてみた。
「強い剣士と向かいあうと、身がすくんでしまうように、肉食獣などは、そういった気合のようなものを飛ばすことがあるんです。あるいは、恐怖心を引き起こすような衝撃波のようなものです。気持ちをしっかりもっていないと、動けなくなってしまいます」
なるほどね。恐怖に怖気づくという感じなのかと、プヨンも納得していた。
プヨンは思いついたものがあり、
「じゃ、じゃぁ、ちょっと一発試してみるよ。もし、うまくいったら、レオンとどめを刺してね」
「え?何をするつもりですか?」
レオンが聞いてきたので、プヨンは、簡単に説明する。
「小さい雷を落としてみる。動きがとまるかもしれないし」
「え?雷?」
ユコナが、驚いて聞き返してきたが、
「リスワイフ」
と、プヨンは、小さくつぶやいた。
パチィィィィィン
甲高い音と、ゴーンの頭の少し上くらいから、足もとに向かって、閃光が走った。
「うわっ」「ひゃー」
かなり抑えたつもりだったが、予想よりかなり大きな音がして、まぶしさで目を閉じてしまった。落雷というほどではないが、電気が通ったと思われる光の線がはっきりと見えた。また、うっかりしていたのは、室内だと音が予想以上に反響することで、まわりに響き渡り、こだまのように何度も聞こえた。
3人とも、音の大きさにびっくりしている。ユコナも、何やら、すごく怒っている。何か言っているようだが、プヨンも耳がよく聞こえなかった。
直撃を頭から受けたゴーンは、少し、前後にふらふらしていたようだが、
ドスっ
と、地面に倒れてしまったようだった。奥の方にいるもう一体は、あいかわらず、何も感じないのか、めだった動きはなかった。
耳がまだおかしいので、プヨンは口では言わず、レオンの肩をたたいてゴーンを指さし、そばに寄ってみようとそれらしい合図を送って促してみた。レオンも意図を察したのか、剣を抜いて、ゆっくりと近づいていく。ゴーンは、倒れたあとも、なにやら動いていたが、立ち上がろうとしているのではなく、手足がばらばらに動いているようだった。
薄紫の明かりの中を、ゴーンまであと2mくらいまで近づいたところでレオンは1度立ち止まり、もう一匹のほうを見て、動きがないことを確認したあと、倒れている1体に駆け寄り、胸と首に一突きずつ、剣をさした。力いっぱい、押し込んでいる。しかし、首を切った割には、あまり血も出ず、どろっと赤黒いものが出ただけのようだった。
(うわっ、レオン、おとなしそうな顔してるのに、容赦ないな。さすが剣士)
妙なところで、プヨンは感心していた。
しかし、あれだけ急所らしきところを刺したわりに、ゴーンの手足の動きはとまっていないようで、まだ、ばらばらに、バタバタと動かしている。
「すごい生命力だな・・・・」
プヨンは、致命傷と思われる攻撃を受けているのに、いつまでも動いているゴーンを見ていた。レオンは、それを見て、さらに、手足も攻撃を加えていたが、それでも、切られたところが、うねうねと動いている。
「このゴーンのしぶとさは、ふつうじゃないですね。やはり、カルカス化しているようですね。」
レオンは、サラリスとユコナを手招きで呼び寄せた。2人も、倒せたのがわかったのか、すこしびくつきながらではあるが、ゆっくりと近づいてきた。2人は、かなりの攻撃を受けたにもかかわらず、それでも、まだ、動いているゴーンを見て、目が離せないでいた。
しかし、切られたゴーンの手足も徐々に弱まっていった。
「まだ、ぴくぴくしていますが、大きくは動かなくなりましたね」
たっぷり、10分近くたって、ようやく、レオンはつぶやいた。
「レオンは、こういうのがいるって知っていたの?」
プヨンが聞いてみると、レオンは、うなづいて、
「届いていた情報から、おおよそは・・・。まれにあることらしいですが、しかし、見ると聞くとは、まったく違いますね。無我夢中でしたが、なんとか・・」
「レオンさん、お見事です」
ユコナも、レオンを誉めそやし、サラリスもレオンを見つめていた。
 




