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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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花の持たせ方

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 ゆっくりと下がりながら、思案顔のヘリオンが指南する。


「特殊植物ワサビの群生地が目前にある。ここで環境保護を無視した派手な行動はまずい」


 しかし、ヘリオンの嘆きは天に届かなかったようで、大型の豹が3匹が特に大きな1匹を先頭に前に出てきた。それにあわせるようにヘリオンが前に出る。


「なんということでしょう。ヘリオンの日頃の行いにふさわしい試練が」

「黙れユコナ、ここは俺に任せて先に逝け」

「そんな! ヘリオンを残してなんていけない。陣頭死期」

「え? 俺が先にってこと? 予定変更、死期折々だ」


 お互いを気遣ういつものヘリオンとユコナ。ユコナが目で合図するより先にプヨンとサラリスは同時に後ろに飛び、それを見て満足気にユコナが微笑む。3人の連携ずれはない。


「さすが、不信型」

「あっ、お前ら、なぜ3人同時に後ろに飛ぶ!」

「ヘリオン、後方支援は任せろ」


 プヨン達が土を蹴ったザッという足音に気付き後ろを振り返るヘリオンに向け、豹の口からみかん大の氷塊が大量に飛び出した。知性が高いのか、こちらの動きを見た上での雹弾だ。


「やむを得ない。こいつらはやるから、プヨン達は貴重な薬草群生地を守ってくれ」


 即座にヘリオンの意図に対し、脳内翻訳機能を使用するプヨン。俺は好き勝手打ち込むから、流れ弾の処理などの環境保全をしてくれと聞こえる。プヨンには特に使う当てのない薬草ではあるが、目的の群生地を壊滅させたら、ヘリオンの評価がどうなるかは誰でもわかる。


「そうよ。ヘリオンが1人で立ち向かいましたとアピールしていいわよ!」


 ユコナやサラリスへの目配せから、協力も取り付けているようで、どううまく成果を見せるかを考えているとわかる。


「最初の流れ弾対応は私がやるわ。しかしなんて数なの? 絶対粒子防御、プヨンはウルパーフィルター展開。数が多い、ユコナも手伝って!」

「ウルパー? ウルトラパー? わかったわ。マゾヒットコーティング」


 サラリスの反応が速いが、プヨンの目の前には降り注ぐ大量の雹を、地表到達前にすべて対処するのは骨が折れそうだ。


「全部対処して。お漏らしは禁止で」

「え? これ全部だよなあ。まあ水系は楽だからいいけど」


 しかしあまりに多すぎると思った氷塊だったが、降下し始めるとサラリスが的確に対応し、昇華魔法で消し始めた。


「いいわ、目標全て破壊。これならいけるわ」


 次々に消滅する雹弾。サラリスとユコナで全体の0.2%が対処できそうだ。これならわずかに撃ち漏らした、残り99.8%をプヨンが対応すればいい。水分を気化させすぎて霧が発生したせいで、若干の撃ち漏らしもあるがいい感じだ。奥の湿地の被害は限定的で、ある程度防御対応できている。


「ヘリオン、あとは私達に任せて、見せ場内容を確保して」

「内容がないよう。そうだ。後のことはサラリスとユコナが責任を取る。存分にやるんだ」

「え? プヨン?」


 プヨンの提案に疑問を呈するサラリスの声は、ヘリオンの叫び声にかき消された。今日のヘリオンは敏捷性がやけに高い。


「定番の3匹連携の噛みつき攻撃だ。ビットストレートアタックをよけろ」


 そう叫びながら、ヘリオンは最小限の動きでかわしていく。豹の1匹が咬み損ね、歯がぶつかるガチンという音とヘリオンのよくわからない解説が響く。


「うわー、ぎっりぎりだ。ここでギリギリ古い角質層だけ食われる」


 ガオーン


「あ、来月交換のボロい官給服が破れた! ピンポイント見せ場に相応しい破れ方だ」


ガチンガチン


「こいつ幻覚魔法を使うぞ。ワサビさんきてくれたんですね、元気100倍だ」


 少し行動が怪しくなってきたヘリオンだが、サポートしていたプヨンには、その様子に既視感があった。似た行動パターンが繰り返されている。


 最初はわざとかと思ったが、避けて叫んで何かしら反撃するが、終わりが見えてこない。プヨンも漏れた氷弾処理を続けるが、すでに3分は過ぎている。3分ダッシュはかなりきつい。避け続けるヘリオンの敏捷性が落ち始め、はあはあと息が切れている。


「これは、まさかのブレスカットか? あいつら大気魔法を使うとは」


 予想外のヘリオンの様子にプヨンは慌てたが、少し考え過ぎだったようだ。


「待たせたな。これは準備に時間がかかるのが難点だ」


 ヘリオンの呼吸をサポートすべく、プヨンも高酸素発生で対応するが、ヘリオンもただ繰り返していたわけではなく、どうやら考えがあったようだ。


「できたって、何をやっているんだ? 逃げていたわけじゃないのか?」

「もちろんだ。ヘリウムーン! こいつは冷たいぞー。ユコナの視線も冷たいことがあるがこいつは特別だ。あれに耐えた成果を見ろ!」


 そう言うと同時に手のひらから液体が降りかかる。桶一杯くらいだが、豹の口に飛び散ると豹の口から白煙が上がり、口中の水分が一瞬で凍りついている。


「お。口が凍りついて、おまけに口が重いのか倒れ込んだぞ」

「くくく。もっと詳しく表現していいぞ。これが口封じだ!」

「さすが、ヘリオンだ。ヘリオンのおかげで相手を圧倒しているぞ」


 プヨンが用意していたヘリオン持ち上げのセリフを言う。これで成果はヘリオンに帰属することが確定し、満足そうにしている。


「待て。気をよくしても氷雨を降らすな。大型動物には大した効果がないし、薬草や植物はダメージを受けるぞ」

「大丈夫よ。ヘリオン。戦闘記録はちゃんと取っているから、報告はバッチリよ」


 声のする方向を見ると、ユコナ達はモードが変わっている。状況観察を兼ねた後方支援のメモードだ。


「わかった。もっとデカくする。くらえ大粒化」

「ち、違う。もっと数を絞れ、狙うんだ」


 調子に乗ったヘリオンが氷量を増やし、降り注ぐ氷からの防御に追われるプヨン。撃つのは簡単だが回収は大変だ。それでも湿地帯を跳ね回っていた豹は、3頭とも口の周りが白く凍りつき、噛みつき攻撃が鈍っている。


「今だ。マッドアンクラー!」


 バシャン


 狙っていたのか、大きなぬかるみに3頭そろって入り込んだ。ぬかるみに足が沈んだタイミングで発動させる。さっきの低温液体攻撃の応用だ。かろうじて飛び上がって回避した豹だが、足に大きな泥の塊がついている。水を含んだ泥を凍らせたのだろう。かなりのエネルギー量だが、ヘリオンにできたのか。


「そうよ。最高のタイミングよ。ヘリオンの最高のタイミングで魔法発動」

「おう。練習の成果だ。次の着地で成長」


 足につけるウェイトアンクルのような泥の塊が、豹達の着地のたびに成長していく。やがて足の膝から下が氷の塊になり、豹は3頭とも捕捉された。


「このようにしてヘリオンは、無傷で害獣を捕えたのでした。めでたしめでたし」


 ヘリオンは無事湿地帯を守り、被害はほぼなくユコナの報告書も完成だ。


「プヨンは流れ弾の処理をしましたでいいの?」

「おう。サラリス、流れ弾による環境被害はなしで頼む」

「なしではないわ。被害、流れ弾による薬草被害2本。なんていう理想的な展開。これはどうするの?」


「やはり、とどめをさしておくほうがいいな。かわいそうだが、超流動ヘリウムーン」

 

 超冷たい液体ヘリウムーンが豹の表面を覆う。口から体の中に入り込めば、肺まで覆われカチコチに凍ってしまうだろう。


 その時おとなしかったフィナツーの声が聞こえた。


「もうこいつらには戦意はないわ。この霊草を密猟者から守っていたそうよ。助けてくれたら言うことを聞くと言っているわ」

「そうなのか? これは霊草なんだ。あっちも守っていたと?」

「そう。腐敗防止の霊草。不浄避けにも効果あるそう」

 

 この豹達にも事情はあるのかもしれない。確かに相手の闘い方は食糧のためというよりは、縄張りから追い出すようにも見えた。プヨンがそう伝えると、ヘリオンやユコナも思うところがあったようだ。


「このあとどうするかは町の警備、途中で逃げた男達に任せてもいいんじゃないか?」

「じゃあ、このまま連れ帰るのね」

「そうしよう。もしかしたら地域の守護者かもしれない。調べてみよう」


 ヘリオン達も合意し、プヨン達は引き上げることになった。


 


 プヨン達は豹を現地に残して街に戻った。 この豹が原因で近づけなかったわけだが、フィナツーが言うように、薬草地帯を荒らしていたわけではないらしく、下手に倒すと取り返しのつかないことになったかもしれない。守護者まではいかないが、草を食べる生き物を捕食するから益獣で、結果、薬草地帯が無事だったとわかった。もちろんフィナツーを介して、手当たり次第に人に危害を加えないよう言い含めておいた。


「ヘリオン、あのとき生け捕りにしてよかったな」

「うん。美味そうだったけどな。新たな経験を得られるチャンスだったが。あー、今の俺の口はサラリスの胸よりも軽いぞ」


 普段なら言えないようなこともさらっと口にする。もちろん本人に聞かれたら自業自得な目に遭うことになるが、秘かな目的が達成さるなら浮かれるのも致し方ない。


「よし、冗談はこのくらいにして、一旦駐屯地に戻るようリスターさんに提案しよう。そろそろ交代の時期だし学校に戻ったら、ワサビさんに報告しなければ」


 確かにヘリオンの言うように、長期での見回りの区切りをつけるには、町の問題解決がいいきっかけになりそうに思えた。

 


 それからも薬草地帯の開放についてヘリオンとリスターがうまく立ち回り、思った以上に町の支持をとりつけている。先日までの統治者の制服政策が疾病で弱体化したこともあり、ヘリオンが使った『下ノビロ』の効果が最大限に発揮された。9cm伸びた舌先を巧みに使い、いつの間にか解放者を宣言し、元の統治に戻ろうとの流れになっていた。



 プヨンはノビターンと学校への定期報告のため、ある星に向かってまっすぐ進む。夜間に高高度を移動していたが。明かりを漏らさなければ地上からはまず気付かれない。歩くと何日もかかる距離でも空を高速移動すればほんの1時間ほどだ。


 高度のせいで空気が薄いこともあり、水筒に入れた水を分解しながら呼吸をしていると、ふと横を飛んでいる存在に気づいた。


「うぉー、残業には手当を。週に一度は休みをよこせ!」


 大声で何やら喚き散らしている。手を抜いていたわけではないが、あっと思ったときには追いつかれていた。自分が遅いとは思わないが、こんなに短時間で追いつかれたことはない。相手が相当の肺気量なのがわかる。


「プヨンどのー」


 この高度、この速度で飛ぶものは何者かと思ったら、親しげに話しかけられた。速度を合わせて近づくと、すぐにノミだとわかる。


「うぉー、やはり。ここで会うとは、やはり私は天に選ばれた存在。これも日頃の行いか。そうだ、俺は天の御使。選ばれし勇者に違いない」


 よほど嬉しいのか、それとも違う理由なのか。1人で感極まっている。


「遊者?」

「これぞ天の助け。強力な御支援を手に入れられるなら、すべてをお話ししましょう」

「御私怨てなんだ? 聞くは聞くけど」

「ありがとうございます。実は私は今邪悪を打ち倒した英雄罪で逃亡中なのです!」

「へ? 邪悪を打倒した栄養剤? 毒薬かなんかかな。それはまぁ、逃亡するようなことになるのか?」


 何かすごいことをしたのか。英雄なのに逃亡というのが噛み合わない。


「常々、無理難題を押し付け24時間働かせる、邪悪な有機の印、闇の黒黄を消滅させたのです」

「誰を打ち倒したの? やみのこくおう?」

「そう。黄色と黒の要注意有機化合物、暗黒奇行の主、その名はノビターン! しかし私が手に入れた聖技を駆使して浄化した。我こそ正義の御使ノミ!」

「声技? それともまさかの性技?」


 発音の癖から裏がありそうにも思う。ただノミの言葉は意味は理解できるが、言葉通りでいいのかは考える。たしか、ノビターンも逃避中で、現在は校長に匿われて学校の小部屋にいるはずだ。プヨンもいろいろとお願いされている。


「詳しく聞こうか? どういうこと?」


 プヨンの言葉に、暗闇の中でノミの目が赤く光る。どうやら寝不足のようで、かなり充血しているようだ。


「暗黒の御使、ノビターンの罪は重い。その手下アサーネ。この血の涙の理由、聞いてください」


 そう言ってノミが口を開くと、大きく息を吸い込んだ。


「いいよ。聞こう。それでその罪とその者の体重とどっちが重そう?」

「うっ!」


 ノミは吸った息をそのまま吐き出した。



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