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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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盗み聞きの仕方

402

 扉をそっと開け、確認した小屋は予想通り無人だった。さすがに道行く人に強引に聞くのは目立ちすぎる。もっともこれだけ部外者に厳しい街なら、すでにこの辺りでは不審者の情報が回っていても不思議ではない。


「もう会場の方に行こう。街の入り口そばにある面会棟の3階だそうだ。街の受付がそこだから当たり前だけど」

「そうなんだ。もうちょっと見たいから、私も一緒に行くね」


 ヘリオンが会う場所は、確か街の入口のそばの入街審査所の中だと聞いている。


 街の中をかろうじて一回りしたプヨンは、休みもそこそこにヘリオンの面会が見通せる場所に移動することにした。


 日は傾き、もうすぐ地平線に触れそうだ。順番最後の平穏な面談になるだろう。


「中に入らないの?」

「そうだなあ。壁にエアー弁があるから、こっそり扉を開けても、気圧変化が起こると弁位置が動く。塵埃防止用ではあるが、気づかれる可能性が高い。様子見だな」


 色々と対策された部屋、わずかな気圧変化でもわかってしまう仕掛けがある。外から観察することにした。




 考え事をしているとフィナが裾を引っ張ってきた。空襲警報が発令されたようだ。


「プヨン気をつけて、そろそろ定時爆撃の時間よ」

「大丈夫。ここでも同じようだな。そろそろ約束の時間か」

 

 夕暮れでかなり薄暗くなってきた。飛ぶ鳥が頭上を通過していく。一斉に落とす糞爆撃をやり過ごした後、屋根上に立って周りを見ると街の入り口の定番の荷受け場が見えた。本日分はすでに大半が持ち運ばれているのか、単なる砂地にまばらに草が生えているだけ。遠くには今まで歩いてきた砂地が見える。


 夕暮れでかなり薄暗い屋根上に立って周りを見ると、街の入り口の定番の荷受け場がある。本日分はすでに大半が持ち運ばれているのか、単なる砂地にまばらに草が生えているだけ。遠くには今まで歩いてきた砂地が見えている。


「うっがー。いったいいつまで待たせるのだー」


 リスターの叫び声が聞こえるところから、ヘリオンの待つ部屋はすぐわかり、そこからヘリオンの声も聞こえた。


「いつまでって16:30からと言われたんだから16:30まで待ちますよ」

「むぅ、これは仕組まれていたに違いない。こんな街制圧してしまおう」


 ヘリオンが珍しく、冷静で抑えに回っているが、リスターの息遣いがあらく、体温も高い。ステータス異常だ。


「ここはまずいぞ。みんな同じ服ばっかり。もっとセンスのある服はないのか! 礼服がたるんでる。ディスターシャにしろ!」

「あ、この臭い。もしかしてお酒飲みましたか?」

「うん? 飲んでないぞ。待合室に置いてあったぶどう酒を自由にお飲みくださいと言われただけだ」

「あいつらはまずいぞ。全部飲んで確かめたからな!」

「全部?」

「よーし。寝てまとう。時間は寝てまてと言うからな」


 リスターは隅の椅子に座るとすぐに寝そうな勢いだ。一方でユコナとサラリスも会話も聞こえる。


「ユコナ、なんか疲れてない? それに妙に汗臭い気がする」

「それは……走り回っていたから。ぐっ。洗い流さないと、気化だけじゃ臭いがとれないのか」


 くんくんと臭い確かめるユコナだが、話題を変えるためか急に語気が強くなった。


「ねぇ! この町はよそ者にすごく厳しいわ。超排他的よ!」

「え? そう? 私は歓待されたけどなぁ。もっとも不満だらけの愚痴込みだったけど」

「そうなの? 奥の方では異物混入許すまじって感じたわよ? あんなのでストレスないのかしら」

「どこに行っていたのよ? こっちも挨拶対応してると、不満はちらほら聞いたけど」

「なんとか聞き出せたのは、この半年ほど統治方針が変わったことね。それからお互いを監視する様に」


 ひそひそと話すユコナ達。ヘリオン達もそれなりに大変だったのかもしれない。サラリス達も見張られていたのだろうか。


 3階の部屋の外壁に張り付いているプヨンには、壁越しに音を拾うしかできないが、4人いるところからヘリオン達だけのようだ。


 護身のせいか、周囲には何もない。地上からも非常に見えにくいため見つかることはないだろう。フィナは横で口を開け歯を広げて光合成をしている。


 そう思うとバタンと扉が開く音がした。


「遅くなった。待たせたな。私がゲイルだ」


 続けてドクンと音がした。この音は心臓が大きく脈打った音だ。白い砂漠の衣服に身を包んだゲイル達が入ってくる。


「い、いっぇー、待っておりませーん」

「そうかー。すまなかったな」

「そんな。今きたところです」

「そうか。では、書類は確かに受け取った。また機会があれば会おう。面会終了」

「え?」


ヘリオンの驚く声が聞こえた。さすがに説明もなく終わるのはプヨンにも予想外だが、どうするのか見守るしかない。


 だがもっとも強く反応したのはリスターとわかった。面談相手が入った瞬間の心臓の音に続き、裏返ったおかしな声を出す。うやうやしく書類を差し出し、それをゲイルが受け取るまでは笑顔のリスターだったが、一瞬で表情が変わる。


「キエーエー!」


 突然の奇声に、出て行こうとしたゲイルと付き添い2名が振り返る。


「まだ、何か用があるのか? 用件は手渡しだけと聞いたが……お前酔っているのか?」

「あぁ。将軍、たまにいるんですよ。無料だからって飲み過ぎるのが」


 鼻で笑うゲイルに向かってリスターが指差す。


「お前に死の宣告がくだされた。お前は二度死ぬ。気をつけろー」


 沈黙が訪れる。動きが読めない。


「いったいどういうことですか? リスターさん、友好的に交渉するのでは?」

「わたしーは友好てーきー。だって危険を教えてるんだからー。ユコナが友好。はははー」


 リスターの足元はふらついているようにも見える。何かがきっかけで壊れたのか、取り憑かれているようにも見える。声だけを聞くと、ヘリオンはもっと慌てているようだ。


「ふっ。白と言えば死を前にした服だ。この3名には天命がくだされた」


 ちょっと噛みながらで呂律が回っていない。ドスっと音がした。私はこけてないぞーというリスターの声と同時に、ユコナ達の心拍も跳ね上がったようだ。


「え? どういうこと?」

「もしかして酔ってます?」


 そんなユコナ達のひそひそ声がプヨンにも聞こえる。水魔法の高等技術、水面反射を使いそっと中の様子を見ると、嘲笑いながらゲイルが戻ってくるところだった。


「ほう。それはありがたい。気をつけよう。偉大なる預言者殿のお告げだ。して、私はどうなるのか? 間違ってた時はどうするのか?」


 リスターの顔はにやけきっていたが、急にカッと目を見開いた。


「今日は自信がある。間違いない」


 再びの沈黙。ヘリオンやユコナは心配そうに、ゲイル達もにやけ顔のまま立ち尽くしている。水鏡では小さく、様子が十分に見えないプヨンは、ガラス越しに直接覗いてみようと体勢を変えた。


 ドンッ


 あっという声と共にフィナがバランスを崩して落ちていく。フィナも様子のおかしさから、興味を持ったようで、同時に体を動かして押し退ける


 外壁の梁を利用してプヨンはフィナを支えていた、バランスを崩した。慌てて手を伸ばすが、フィナはこう見えても大木。咄嗟の動きで支持が乱れて2人の力が反発し、かえって突き飛ばすような形になった。


 さすがもともと口数が少ないフィナだ。落ちていくが無言で落ちていく。プヨンもかろうじて、小声であっと言うと一瞬頭が真っ白になってしまった。


 フィナの口の動きを読み取ると、手伝って。慌てて支えようとしたが、時すでに遅し。


 この建物は少し高く、プヨンのいる18mから落ちると地面まで約2秒。墜落防止でならしたとはいえ、掴み損ねた。


 ドスッ


 残念ながら大きな音、続けて地面が揺れた。



「地震だ」


 ぼそっとつぶやいたのはヘリオンか。ユコナの声もきた気がする。


「偶然だ、偶然」

「ふ、わたし、じ、自信がある。言っただろう」


 リスターの声が聞こえる。様子を直接見てみたいがフィナが心配だ。植物の治療は動物より成長に時間がかかる分、エネルギーもかかる。


「なんならもう一回見せてやろうかー私の自信のほどを」

「み、見せてみろ」


 ゲイルの声がするが、プヨンは屋根から飛び降りフィナの救助に向かった。フィナは頭から激突したようだ。滅多に見せない全体重を乗せた、フィナ流、通棍撃に地面が大打撃を受けている。


 その時フィナに向かって急降下するプヨンの背中の棍の留め金が弾けた。同時にプヨンの棍が違う方向に飛んでいく。


「し、しまった。留金が外れるとは」


 慌てて止めようとしたが、棍棒の重さはフィナと同じ2000トン。さらにフィナの自由落下と違い、プヨンが地面でもだえるフィナを助けようとして意識的に動いたため、勢いで加速している。加速のついた棍はそのまま地面に向かう。


「あ、まずっ。フィナ動くな!」


 フィナの反応が鈍い。動けないのか動かないのかわからないが、棍の先にいるフィナに回避させる。


 ガスッ、ドスッ


 棍が地面に刺さり、突飛ばしたフィナは建物の柱にぶつかった。


「フィナ、大丈夫か? 大丈夫、だよな?」

「あぅ。まずいわ。樹皮がはげて、芯にひびが入ったわ。大丈夫かしら?」


 プヨンは慌てて状態を確かめる。確かに建物の柱が5㎝はへこみ、外壁が削れている。フィナは時間をかければ治せるが、生命活動のない外壁の治療はできない。


「ほんとだ、まずい。建物にダメージを与えてしまった! 治せないぞ」

「え? そっちが先?」


 プヨンの反応は早い。振り返る前にとりあえず治療を始め、そして最大限、自然に笑顔を出す。精神制御で自己暗示魔法をかけてはみたが、焦る中、大した効果は見込めなかった。


「も、もちろん、フィナが先だよ。ほら、もう治療中だよ」

「そうよねー。あー、砂漠もここも暑いわ。喉が渇くな―」


 ダメだ。目が笑っていない。当たり前だが、治療中は急速に傷部分の細胞が成長して回復していく。どちらが先かは、気付くものだ。


「あ、水なら、ちょっとお待ちを。この辺りは、地下水もあるし、水路もありますから」

 樹木は1年で数㎜程度しか成長せず、フィナのような大木になると、なおさら成長しにくく、回復にも時間がかかる。それでもプヨンは大急ぎで治療を続けた。


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