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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
422/441

お誘いの仕方 1

396

「こ、こいゆが主犯です。私は命令されただけ」

「黙れ、たらこユコナ。たーらこが私たちを危険な目に合わせたはず。物資を喪失させたのはお前だな?」

「サラリス、幸い奪った物資だし、怪我人もなかったし、このくらいでいいんじゃないか?」

「もう一個、もう一種類だけ。この強力炎熱魔法『タバスコーナー』を」


 ヘリオンが仲裁に入るくらい、サラリス特製自白魔法の副作用はきつい。ユコナがあっさり自白した後もお詫びと称した追加検証とユコナの叫びが何度か響いた。もちろんユコナの成果を横取りしたりはしない。どちらかというと押し付けるほうが好きだ。リスターとヘリオンはユコナの声が小さくなるまで、黙ってじゃれ愛を観察していた。


 

「プヨン、やはり相手の行方はわからないのか?」


 ようやくヘリオンが本題を振ってきた。


「この近くではなさそうだなぁ。徒歩圏にいくつか街や給水所があるらしいけど、これ以上の深追いはどうかな。命令も領内の哨戒だし、一度引き返そうか?」

「ふふふ。これを見ろ。こんなこともあろうかと、『国外諜報許可証』! 自己責任だが、許可証はある」

「そうなのか? さすが官僚主義者、手続きが早い。本物なのか?」

「もちろんだ。頓所にて依頼してバグナーの承認印もある。保険と言ったらすんなり出た」


 きっちり手順を踏んでいるヘリオン。こういうところは抜かりない。リスターも笑顔だ。


「これは! バグナーも同意か。こんなものまで手を回しているとは。し、仕方ない。ここまで準備しているなら行かざるをえないな」


 リスターが意外にも冷静のようで、紙に施された透かしや、指紋、魔力を利用した魔判を確認していく。


「むぅ。これは本物だな。間違いない」


 さすがにでっち上げは困るだろう。内容に対する疑義もあるようだが、後ろ盾がある状態で見て回れるという好奇心が上回ったようだ。明らかに目が輝いている。


「よし、ユコナ、報告書をしたためろ。今から緩衝地帯の警備にあたると駐屯所連絡だ。見回り期間は、そうだな10日ほどにしよう。配送は強く念じて、保険として直送しよう」

「承知しました。念じるだけではだいたい届かないので、私が書いてからプヨンが配送します」


 わかったとうなずく。ユコナが急いでしたためた封書は、プヨンが取り出した筒に格納する。


「どうやるのよ?」

「密封してから、ここから駐屯所まで全力で投げたら大丈夫だよ。いつもしてるし」

「え? それでちゃんと届くの? どれだけ距離あるのよ?」


 ユコナが書いた報告書を、プヨン手製の氷玉型宅配ボックスに入れた。


「それ、そのあとどうするの? いくらプヨンが正確に計算して打ち込んでもずれるでしょ。おまけにその速度で落ちたら危ないし」

「大丈夫。ほら、ドライアイス玉にフィナツーと結びつけた手紙を入れるだろ。ギリギリ溶け切るドライアイス、中から出た手紙はフィナツーとともに狙ったところに落ちる」


 ユコナが目を向ける先に白い球がある。そして飛行服姿のフィナツーが敬礼している。


「伝令フィナツー準備できました。弾道任務に挑戦します」

「フィナツー検討を祈る。落下地点で池や溶岩に落ちないように」

「あーこれめっちゃ楽しみ。着いた頃に迎えにきてよ?」


 呆れるユコナに、説明を付け加える。


「ちょうど溶けて中から出てきたフィナツーは目標ポストに配達する。2、3回放ったフィナツーを追尾したが、ちゃんと目的地に着いていた」

「ほんと? 信じられない。何が信じられないかって、投げた後についていくプヨンのおばかさに」

「でもついていかないと、何度も寄り道されるんだよな」

「そうじゃない。それ自分で運ぶのと何が違うの?」

「おっ。それは秘密です」


 痛いところをついてくる。もちろん、弾道計算を確かめる実験の一種だが、ユコナの問いはもっともだ。フィナツーに合図したあと、プヨンは準備ができた封書を入れた氷球を発射した。


「プヨンが怪我をしたら、野戦病院に向かって弾き飛ばすのはありなの?」


 ユコナがそう言っている間に、通信用ドライアイス玉はあっという間に見えなくなった。




 フィナツーが出立してすぐ、図ったかのようにヘリオンがやってきた。


「定時連絡は終わったのか? じゃあ俺ヘリオンが考案のヘリオン作戦案でいくこう。大丈夫か?」

「あまり大丈夫じゃない気がする」

「ほら、お前も見て回りたいだろ? 侵攻を企てたり、不穏な動きがあるかもしれないぞ」


プヨンの様子を伺いながら寄ってきたヘリオンは、明らかに賛同を期待している顔だ。確かに国の影響のない地域を自由に見て回るのは、ずっと以前からヘリオンがプヨンにしつこく相談している。


「リスターさんも同意済みだ。隊長も同レベル以上に同意している」

「え? リスターさんが? どうやって?」

「ほら、これを見ろ。極秘ルートから手に入れた」


 ヘリオンの手には、公費での観光許可証などと言われる、国外偵察許可証だ。


「わかったわかった。付き合うよ。俺も行ってみたい」

「よし、探索期間は1ヵ月間あるから、目的地はなるべく遠くの街にしよう。さぁ、早く何かイベントが発生しないかな」

「1ヶ月? そんなに長いのか? 俺だけ帰ろうかな」

「いいぞ。夜の点呼と朝の点呼の間は自由だ」


 メサルやエクレアがどうなるのか少し気がかりだ。もっとも国の内側にいるのならそこまで危険はないだろう。




 翌朝、早速進むことになった。予定変更の知らせは既に昨日送ってある。ヘリオンは朝から上機嫌だ。


「国外を大義名分を持ちつつ自由に移動できることなんてなかなかないぞ。なるべく、そう、最低でも砂漠の反対まで行こう。もちろん極秘行動だから一般人のふりをするのが奥ゆかしい」

「砂漠はまっすぐ歩いているつもりでも、いつのまにか同じところを回ったりするよ?」

「大丈夫だ。プヨン、さぁ、あの星に向かって歩こう」

「昼間は見えないだろ」


 急がず止まらず一定の速度で歩く。サラリスやユコナ達も少し離れて付いてきている。手持ち物資が十分ないから、食料などは現地調達する必要がある。


「そうだ、俺たちは日雇いの商隊護衛にしよう。それをこなしつつ情報収集だ」

「商隊護衛と言ったが商隊がいないなぁ。今なら無料でしてやるのに。正体がばれないように警戒せねば」

「砂漠は水無しと思ったが、意外に水脈や植物もあるんだな」


 ヘリオンが1人で喋る。その横をプヨンが、少し離れてユコナ達が一定距離を取る。ヘリオンの言うように地中には水分もあるし、カナートもあった。おかげで適度にミストを利用し、秘密裡に進んでいた。



 通りがかった商隊とすれ違う。リスターとヘリオンはよほど気があったのか、仲良く同時に商隊と交流開始。情報は得られなかったが、食料を手に入れていた。


 その後は陽射しが強くなる時間帯に入った。砂影で夕方まで休憩となった。リスターやユコナは昼寝で過ごすが、ヘリオンはハイになっているのか、ぶつぶつと独り言をつぶやいている。遠巻きに集音しつつ聞く限り、何やら計画を練り直しているようだ。


 ヘリオンと目があった。聞いていることに気づかれたのか、こちらにやってくる。


「プヨン、俺は思うんだが、水脈沿いの小さな集落は大したイベントはないだろう。ここは砂漠の出口、帝国のの入口である交流拠点『コロージョン』まで一気に行こう」

「ここからまだ100㎞もあるのに? 砂漠の中を本気なのか? 何か目的があるのか?」


 もちろん既にヘリオンに意図があるのはわかっている。意図が何かもわかっているが、本気でそこまで踏み出すのか、プヨンはヘリオンに念押しをする。


「そこだ。ワサビさん情報では、コロージョンは不安定な状態になっているらしい。うまくやると味方になるらしい。リスターさんもそのつもりらしい。サラリス達のようにお前も協力しろ」


 行きたい理由もないが拒む理由もない。砂に埋もれないように体を浮かべろ、と気配りも忘れないヘリオンに協力しようと思える。即答は避け、しばし考えるフリをしてからプヨンも同意した。興味深く、今まで試せなかったことを色々と試せそうだ。プヨンもヘリオンの横で色々と計画を考えて時間を過ごした。

               


 プヨンは寝ている皆を起こしていた。暑い昼間はのんびり過ごして体力を温存し、陽が地平線にかかった頃から再び行動を開始する。


「サラリスが増えすぎた脂肪をお胸に移動させるようになって反省期。おへその周りの巨大なお肉は、人外の第二の防具となり……」

「寝ぼけるなユコナ、そろそろ起きないと地獄を見るぞ」

「ぶひょ、お茶が沸いたの!」


 目覚まし魔法は水の系列、寝ぼけないようユコナの鼻に水を灌ぐ。他にも目に垂らす方法もあるが、効果は抜群でユコナは飛び起きた。 副作用の怒りの反撃氷塊も難なくかわし、さらにユコナの眠気を払う。


 少し見回りするが、陽が落ちると周りは明かりも見えず、月星がないと空と地面の境界もわからない。出立の準備をしていると、背後に気配を感じた。やけに足音を立てないようにしているので、一瞬不審者かと思ったが、これはサラリスだろう。みんな準備が整ったようだ。


「そこにいるのはサラか? そろそろ移動できそうか?」

「この暗さでよく私ってわかったわね。朝まで歩くとかは無理よ。そもそも暗闇でまっすぐ歩ける自信はあるの? 同じところをぐるぐる回って、朝また同じ景色を見るとか最悪よ」

「わかってるさ。目を閉じたまま、まっすぐ歩くのは高難度な熟練者スキルだからな。ほら、俺が編み出した火球魔法アサップの応用アサッテだ。あの並んだ赤い3連星(火球)が一つに見えるように、明後日に向かって歩くんだ」

「え? あの遠くの火? あれ、どれくらい離れてる?」


 振り返るサラリスの前に、豆粒のような火球を3つ出す。ある程度近づくと次の3個を出す。この繰り返しで常に希望の星を出し続け、迷うことなく直進できた。



 闇夜の行軍を始めて1時間くらい経った。プヨンは先頭を歩き、周囲に気を配っている。時折、夜道を進む者の明かりがずっと遠くに見えた。闇夜のたいまつは、ものすごく目につく。今もまた、地平線付近に1つゆらゆらと瞬く光が見えている。


 ふと、前方の足音に気付いた。砂地は歩きにくくわずかに浮かんでいるため、プヨン自身の足音はしない。サラリス達も似たようなもので、足音の間隔はこんなに短くない。もちろん襲撃者でもなく人のものではないようだ。


ザッザッ、ザザッ


 少し離れているが、時々砂を踏む音がする。それも複数だ。体温で位置を探ろうとしたが、どうやら砂地との温度差がほとんどなく特定できない。これといって高さのあるものも見つけられなかった。


やがてかなり近くまできているのがわかった。徐々に近づく音に加え、プヨンが発した微弱な紫外光パルスが届く距離まで近づいたのか、位置は大体特定できた。


「プヨン、私の アイスボックスの感じでは、左前方に何かいるみたい。生き物は間違いないけど、人ではなさそう」


他にもフィナツーのミエルスキー花粉やユコナの霧氷など、目以外で位置特定ができる方法はある。ユコナも見つけたようだ。


「大きさや形は? 人型ではないのは確実か?」



 何かがいるのは間違いない。盗賊なら盗るものはないよと言ったあと、捕まえた方がいいのだろうが、交渉は難しそうだ。


「明かりはまだつけないほうがいいぞ。遠方から狙われると、下手すると的になる」


 背後に回っていたリスターからの指示だ。音も光も使わない肩たたき通信、さすがに場慣れしてるのか対応が早い。


 明かりをつけたい気持ちを抑え、そのまま動かず周りの気配を探った。プヨンはそっと近づいてユコナに触れ、今のうちにユコナに増幅を仕掛けておく。プヨンの手が触れる距離でないと使えない効率が悪いところがあり、時間とともに効果が落ちるため戦闘開始直前でないと難しい。


「プヨン、わざと音を出して反対に追い込むとかあるかしら?」

「まともなら音を出さずに近づいて、油断してるところを急襲するよな。逃げた先に罠を仕掛けるとかもありえなくはないが」


 結局どっちなのよといいつつ、納得したユコナは迎撃モードに移行する。人間でないなら、声もそう隠さなくていい。


「何かいるわよ。そっちで音がする。サラ!」

「わかってるけど、音でしかわからない。動きはそこまで速くない気がするけど。そこ!」


 プヨンの感知でも何かいることはわかっているが、音がするところに明かりが灯る。そこに向けサラリスが直接火球を灯したようだ。だが明かりが灯っても何もない。ただ黒い闇が広がっている。


 そんなはずはないという声がするが、サラリスやユコナの位置は小さな火球でもぼんやりと浮かび上がった。

 

 数秒後、ガツンと音がした。直後にうめき声のようなものも聞こえる。


「あかりに反応した。これは砂漠にいる『自爆の蠍』だ! 真っ黒だから、明かりをつけても黒いままだ。夜だとほとんど見えないぞ」

「それなら! これならどうよ!」


 リスターは近づいてきた生き物の見当がついたようだ。サラリス前に近くの音の側で火球を灯す。再び火球が灯るが、すぐ近くの砂粒が瞬くだけで、夜の黒さは変わらない。


「手当たり次第に乱射はダメなんですか? すべてを一網打尽に!」

「はっはー。広範囲の敵を一気に殲滅できる方法があればいいが、疲れても助けてやらないぞ?」


 そこでハッとするリスターが、怒気をはらんだ声で問いただす。


「もしや、私も一緒にやるつもりか?」

「えっ?」


 いつものプヨンなら少々範囲内にいても勝手に相殺してくれる。死なばもろとも作戦で、敵とプヨンを関係なく仕掛けるクセが出てしまい、サラリスは冷や汗が出ていた。


 思わず無言で、怪しいサラリスをおいてリスターの指示が続く。


「明かりが出る方法はおさえろ。他のものを引き寄せてしまう。音もだ。他国の巡視隊などがくると面倒だ」

「明かりで姿を確認した方が良いのでは?」

「明るくしても黒は黒だ。周りが暗いと黒同士は区別がつかん。たしかに動きは鈍いから位置がわかれば楽勝なんだが」


 サラリスの主張はリスターに却下されたが、このまま音を頼りに逃げ回っていても仕方ない。プヨンは、サラリスやユコナの望む、姿が見える化を手助けしようと思った。


 蝋燭の明かりを青や紫の塗料を塗った透明なフィルムを通すのと同じ、トイレの汚れを見るときにも使える方法だ。


「ブラックライト」


 原子を励起させて明かりを作る基本的な魔法に、ちょっとフィルターをかけるだけだ。蓄光性のある植物や細菌が暗闇でこれに照らされると光る。プヨンは以前散々遊んで知っていた。


「な、なんだ。この緑に光る生き物は? 新手か? 気をつけろ!」

「見える。見えるぞ、俺にも敵が見える!」

「見える。動きが見える!」


 リスターの声に、ヘリオン。ユコナも蠍のツメの攻撃をかわしている。


 暗闇の中ではわずかに光るだけでも、はっきりとわかる。プヨンが光量を絞ったためだが、それでも銀狼サイズの蠍が10匹ほど浮かび上がった。サラリスやリスターの服も白い部分が怪しく光っている。


 思った以上に蠍の動きは緩慢だ。今まで音で避けていられたのもわかる。尻尾の先まで光っている。これだけ動きが見えるようになったら、まったく脅威にならない。


 一斉に他の4人が攻撃に転じたのか、蠍の足音が遠ざかる。プヨンは何もせず砂地に座り、追い払われる蠍の動きを見守っている。もちろん手伝ったりしない。


 バチーン


 砂漠に突然の火花。小さい雷光が蠍の1匹に直撃した雷撃が見えた。先ほどの威力アップで発動したようだ。初めてみたのかリスターのウワーッという叫びが聞こえ、それを最後に蠍はいなくなってしまった。



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