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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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引導の渡し方

395

「プヨン、例の男が逃亡したらしいわ」

「ふーん、それは大変だな。逃がしたやつは死刑になるのかな?」

「え? 何で驚かないの?」

「ユコナが驚いていないからな。予定通りなんだろう?」

「ふふふふ。よく気づいたわね。そう、予定通り」


 このことについては、既にプヨンはフィナの監督下のフィナツーから報告を受けていた。カビルスキー粒子を全身と体内に付着させ、フィナツーは適当に追跡機能が発動している。


「そう。泳がせて相手の仲間の居所や背景を探ろうというリスターの指示でね」

「そうだよな。それでどうやって後をつけるんだ? 見失ったりはしないんだろ?」

「当たり前でしょ。リスターが何か考えてると思う。バッチリって言ってたわ、多分」

「ユコナは? 何か準備とか対策を考えたの?」

「当たり前でしょ、ちゃんと対策がありますかと聞いてあるわ」


 正解だ。プヨンの心配通りで、思わず笑顔になってしまう。つられて笑うユコナの返事では、多分実際には使える案がない場合がほとんどで、あとあと困るパターンだ。もちろんプヨンは自分でも色々と仕込んでいるため、ゴスイに逃げきられない自信はあった。


「じゃあヘリオンにメッセージを残して、俺たちは先に進もうか。砂漠は潜伏にはむかないだろうから、どこか拠点があるんじゃないかな」

「そうこなくちゃね。でもヘリオン達はちゃんと後に付いてくるかしら? 森なら木に印ができるけど、ここは何かしら? 砂は無理よね。勘?」

「今回は相手は動くからな。ただ寄り道しないで真っ直ぐ移動するだろうし、そこはちゃんと目印を残していくから大丈夫」


 砂で大きめのガラス玉を作って一定間隔で落としておいてもいいし、いくらでも方法はある。この辺りは臨機応変にするとヘリオンと相談済みだった。


 フィナとは少し距離を置きつつ3人で移動している。もちろんユコナも捕捉している。歩いて30分、距離にして3kmほどまできた。地平線にわずかに緑の線が見える。もちろん飛び上がれば、まだまだ位置確認はできる。


「プヨン、そろそろ森の端が見えにくくなってきたわ。目印どうするの?」


 さっきまでの冒険大好きユコナが不安そうにし始めたが、プヨンは予定した行動に出る。隠れメインイベントだ。


「わかってる。フィナ、作戦『手練れの木』の時間だ」

「待ってました。付いてきたのはこのため。ようやくこの時がやってきたわ」

「あっ。だからヘリオンを置いて先に行くって言ったのね。何をするつもり?」


 いつの間にか背後にいたフィナが活動的になる。反対にサイド鞄のフィナツーは、フィナがいるとほとんど自我がないようで大人しい。


 この辺りにも、普通に生活していると気づかないだけで、いろんな生き物が徘徊している。ユコナはフィナの存在は知っているが、フィナは無口なことが多く、意識しないとそばに来るまで気づかないようだ。


「別に特に何かするわけじゃないけど、歩いたら目印をつけるんだ。ヘリオン達が後追いしやすいように。砂漠は真っ直ぐ歩いているつもりでも、同じところをぐるぐる回る可能性がある。いつのまにか北から太陽が昇ったり」

「それはいいけど、フィナがしたいことと、ヘリオンとどう繋がるの?」

「見ればわかる」


 ユコナに合図すると、フィナも分かったと速やかに作業に入る。右腕を真っ直ぐ伸ばして、うろうろと歩き回る。


「ここね。プヨン、ここがいいわ」

「わかった。ここだな」


 植物素体のフィナは姿は人型だが、中身は樹木。体型変更は割と得意なようだ。右腕を伸ばす。ずいぶん長いがさらに伸ばすと、ボキッと肘から折れた。


「これを。手練れで地面に打ち込んで」

「え? これ? 長すぎない? 5m以上ないか?」


 手練れは植樹みたいなものだ。広告塔の木のような、長さ5mはある棒。木釘に見える。


「ここの砂は浅いわよ。3mも行くと地下水脈を感じますので、そこまで差し込んでね。人にもいい目印になりますよ。栄養を含んだ水さえあれば、私たちにとっては砂漠は光いっぱいなので幸せになれます」

「日焼けしないのかな?」

「しません。ここならきっと巨木になるでしょう。さあ、我が分身よ。行くのです」


 そうなのか。しかしそれなりに長い杭だ。おまけに重い。この杭をどの程度でうちこめば力一杯と言えるのか、慎重に計算し適度に補正する。長さや地面の硬さの兼ね合いから随分わかるようになった。


「なぁ。この木の杭の重さの分は、フィナの重量は軽くなっていくのか?」

「余計なこと考えないで早く」


 治療魔法では体はある程度再生させても、体重は元通りにならない。どこまで正常部分から抜き取るかのバランスが難しいところだ。


 フィナにそう言われて、背中から重い棍を取り外した。いつものプラネットドワーフだが今回は木槌がわりに使用する。さらに威力を高めるべく雑念を取り除き集中する。


 ターゲットは、ユコナな頭、ユコナな頭だ。


 対象物を強く認識した。密かな集中方法、過去のいろいろなことも思い出してさらに威力を高める。杭の先端付近まで浮かび上がり、そして全力で打ち込む。


「ユコナなスイカクラッシュ!」


 ガツン、ボキっ


 最大限威力を高め、一息で打った。渾身の一撃だ。おかげでイメージしたスイカ頭は砕け散り、フィナから預かった苗木は、半分まで埋まったところで途中で折れた。地中に埋まった下半分に上を重ねて、いそいそと治療をはじめる。


「少し強かったようだ。1回じゃ無理っぽいな。治療、治療」


 それとなく独り言を呟く。杭を持ち直して治療で繋げ、今度は小刻みに打ち込んでいく。だが砂漠にもかかわらず、周りに冷気を感じる。もちろん確かめたりはしない。


 ユコナの顔が私は知っていると言う顔をしていた。


「プヨン、どうやって威力を高めたの? あの杭打つ時何を考えていたか言ってみて」


 フィナも怒っていた。


「よくも真っ二つにしたわね! 治療しても治らないものはあるよ」


 2人が連携しないよう、ここはそそくさと治療して、杭を打ち込んだ。


「ストップ。大丈夫。土まで届いたわ。そこまででいいわよ」


 これで目印兼植樹は完了だ。


 地面から1mほどになるまで打ち込んだあと、次の目的地まで歩く。振り返ると1km間隔で杭ならぬ植樹が施される。ヘリオンが迷わず追いかけられるよう、きれいに一木塚ができていた。




 頭が揺れた。


「うぉぉぉー、俺に触れるな―」

「触るわけないでしょ。脳みそぬかみそが!」


 頭が軽く揺さぶられ、ゴスイはハッと我に返る。自分に言い返した女を見て、続けて慌てて周りを見る。どうやら眠っていたようだ。あれは確かアサーネだ。なぜここにいるのか記憶がない。


「これはアホーネ、俺に何か用事か?」

「えぇ、急患で運ばれたと聞いたから見送りにきたの。ほら、あの世に旅立たないといけないでしょ。そのあと埋葬の準備もいるし。でも、まだ時間がかかりそうね。出直してくるわ!」

「急患だと? 俺がか? 俺はどうなったんだ?」

「教えてあげましょう。ノミとあなたは抱き合ってたのよ。砂漠からずっと。血を吐いたあなたをここまで連れてきたんだから、ノミには感謝すべきね。あ、ほら、愛しのシータちゃんがきたわ。あとは診てもらいなさいな」


 アサーネと入れ替わりに、白の上下を着たシータがやってきた。シータは音波攻撃が得意だが、治療の心得もある。体内に埋め込んだ破片などの摘出も得意だ。


「おぉー、こ、これは……」

「ゴスイさーん。まだ生きてたの? あなたはほとんど治療系を受け付けなくなっているらしいわよ。呪いよ、呪い。それとも毒かしら?」

「おぉー。呪いなんかきかんよー。その白い看護だけで癒されるよーほらほら。うぼっ」

「あらあらー。大丈夫? これはリバーシブルで裏地は黒。すみやかに葬儀服にもできるわよ。でも、蘇生したのなら、私のお得意超音波魔法でさっと診察してあげる」

「なに? 音で呪いがわかるのか? それなら頼む」


 そう言いつつ、鼻血が出た。どうやら本当に呪いのように見える。


「わかるわけないけど、何か呪物を仕込まれているかもしれません。取り出せるところなら取り出します」

「取り出せないとどうなるのだ」

「エイメン、チーン。そして、この装束が使用されます」


 マジメに微笑まれると打つ手がない。そのあとも数人が治療を施してくれるが、丸一日かけても正しく治らない。まるで間違った地図で道を進むようだ。やればやるほどカラダが崩れていく。


「ぐっ。一時的でないのか。誰がやってもダメなのか」


 今まさに悟りを開きそうになった時、ニードネンが入ってきた。だが、挨拶する気力もなく、天井を見つめるゴスイに、ニードネンは希望を与えてくれた。


「どうなったのか知っていることは説明しろ」

「もうこの体はダメなのですか? 私は治らないのか」

「あぁ。だから治る体に変えればよい。やむを得ないが、大至急入れ物を探してやる。だから原因を思い出せ」


 その言葉、入れ物の意味を理解し、ゴスイの顔に一気に希望が溢れる。


「貴重な薬液だが最優先で回してやる」

「おぉ。予定外なのに。ありがとうございます」


 そういうと、不安も痛みも嘘のように掻き消えた。


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