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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
419/441

解放の仕方 1

394

「ふぉあー、いいぞ! 捕虜確保1名。プヨン、さぁ見張ろう」


 念の為とゴスイのすぐ横で見張るヘリオン。プヨンに手招きで横にいろと示す。


 あのあと、相手の増援や奪還を懸念し、即座に歩いて5分ほどの少し離れたところに移動した。ここならゴスイ本人とわずかな物資は運び出した後でも、何か起こるとすぐに気付けそうだ。


「見たか? 私達が見つけた押収資源の量を」


 リスターが嬉しそうにヘリオンに話しかける。


「回収には、あと10日はかかる。相手が気づく前になんとかしないと、運ぶ前に援軍がくるかもな」

「そうですね。間に合うといいな。まったく、どうやってこれだけの量を運んだんだろうな」


 ヘリオンは割と気楽に考えている。押収品の多さを意識しているが、たしかに半日以上相手の反応はない。この量で単独犯ではなく、何か目的があるはずだ。


 活動が始まってこの規模の成果は初だ。押収した物質、その当事者の確保。気持ちが昂ったのか、ヘリオンは自分から見張りを買ってでて、プヨン達を巻き込んでいた。


 ゴスイは大人しくしているが、納得はできないようだ。見張るヘリオンにあれこれ聞いている。


「おい、俺はどうなったんだ? なぜ治療すると壊れる? お前たちがやったのか?」

「うるさい、黙れ。お前はまず間違いなく無期懲役だが、協力すれば口添えはしてやる」

「なぁ、治るのか、ずっとこのままなのか?」

「逃げたら、終わりだ。大人しくしてたら死にはしない」


 単なる自己治癒ではなく、正常部位だけの再生がいる。プヨンならできるが、ゴスイの体の正常細胞のみを意識して厳選する必要がある。



 ヘリオンがゴスイを見張っているといっても、しっかりした拘束や牢屋などはない。せいぜい金属鎖で縛って見張るだけ。何かあったら足を抑えられるよう、念の為密かに重い手魔法の準備をしているのは内緒だ。それでも精神魔法の枷をつけるべく、呪文を唱えておく。


「逃げてもいいですけど、運が悪いと大変なことになりますよ。死の呪いです」

「どうやってだ。一定時間後に死ぬとでも言うのか。そんなもの聞いたことないぞ」

「まあ、そんなところかな。治療ができず、カラダが崩れていきますね」

「な、なんだと」


 最初はかなり致命的な損傷を与えたが、深手よりは得体の知れない方法の方が効果が高い。今は逃亡防止も兼ね、適度な治療と破壊を繰り返していた。もちろんゴスイには流石に気づかれていない。


 手枷程度では、プヨンでなくても手首を落とし、逃げてから治療すればいいと考える。プヨンが仕掛けた治療封じが未知数なおかげで、ゴスイは今のところ大人しくしていた。



「おい、取り調べだ。お前のことは報告するが、あれを放置して移動できない」


 引き取り手を呼びに行く前にリスターが問いただす。


「私はこのメンバーをまとめているリスターだ。お前は誰だ? 所属は? あれはなんだ? 中身は?」

「教えてやろう。俺はデブだ。所属は無所属。あれは樽と木箱だ。主に空気が入っている。実は俺も詳しくは知らないが中身の大半は窒素というものらしい」

「ふざけてると痛い目に合わせるぞ」

「ほう。どうやるつもりだ。なんでもやってみろ!」


 もちろん素直に応じるはずもなく、拉致があかない。


「おい、ユコナ、まずはお前がやってみろ。こいつに情報を吐かせろ!」


 リスターが自分でやるかと思ったが最初だけで、豪速球の丸投げのようだ。手なしと読み取ったゴスイは余裕の笑みを浮かべている。指名されたユコナは、手元の工具箱から木のボールとナイフを取り出し、目の前にチラつかせながら宣言する。


「じゃあ私たちの実力を見せてあげましょう。特製セイバーフィッシュ」


 ユコナが取り出したナイフは魚を模したデザインで、ボールは人の頭くらいはある。手のひらをパーに開いてボールを掴むとナイフで連続突きを始めた。徐々に速度が上がり、木に突いた跡がついていく。突然のハンドナイフトリックを披露するユコナと、それを見るゴスイ。


「なんだなんだ? 可愛い顔した見た目とのギャップがいいぞ」


 ゴスイは突然の行動に驚き、ユコナから目が離せない。ユコナもかわいいと褒められ満足気だ。


 カカカカカッと突く音が続く。


「グフフ、捕虜の俺を楽しませてくれるとは。どういう趣向だ?」

「実はね、この木球はあなたの頭のかわりなの。ほらいきなりでやって失敗すると大変でしょ。もう少し待ってね?」

「何? どういうことだ? 俺の頭?」


 ゴスイの言葉は無視し、刺突を見せ続けるユコナが呟く。


「速度アップ。第二段階!」


 ザクザクザク。出た。指の付け根ギリギリを狙う素早い刺突、あれは確かマジデアタックだ。


「刺さるのが怖くないのか?」

「キュア。治せるから。いいとこなの、集中の邪魔をしないで!」


 意図が読みきれないプヨンは、ユコナを見守っていたが、突然理解できた。そして予定の時間がきた。


「突撃、ティッ、撹乱爆」


 ユコナの突きが加速する。一瞬ユコナとプヨンは目があった。


「あっ、グッ、あっ」


 ザムッザムッザムッ


 連続で手のひらに刺さるが、血は流れ出ない。ユコナはそのまま10秒間刺し続け、満足したのかようやく動きが止まった。明らかに尋ねてほしそうにしているので、わざと合わせることにした。


「やると思った。どだい、無理なんだよ。コミュ不足だ。俺がいたからいいようなものの」

「ガウガウ。不安はないわ。マッドメンタルでもないし、冷静よ」


 ドカン


 最後に渾身の一撃で手のひらを貫通させる。理解した。なるほど。誰にでもわかるようパブリックな力を見せろと言うことか。タイミングを合わせる。


 怪我したユコナがナイフを引き抜くタイミングを図る。ゆっくり抜き始める気配りユコナにあわせ、プヨンは即座に治療する。


 手のひらを突き抜けているが、よく切れる分傷口は綺麗で、プヨンなら治療はそう難しくはない。ユコナが剣を抜き終わる時点で、傷はなかったかのように綺麗になっていた。


 ゴスイの目の色が変わった。安心より不安の混じった顔だ。


「さあ何度でも、治療なら飽きるまで見せてあげるわ。果てしなくずっと。次は頭? それとも耳かしら? でべそでも元通りでべそに治してあげるわよ。お代は見てからで」


 ナイフをゆらゆらとさせながらユコナがつぶやく。頭は治せないぞというのは必死に押し隠し、体力の限界もあるプヨンは助け船を出す。


「じゃあ次が本番か。このあとはユコナがお色気で迫ります」

「うっ」


 ゴスイが胸を押さえ、苦しいのかひどい顔をしている。これが色気なしの反応か。露骨に嫌そうなゴスイの表情から、受けているダメージがわかる。


 ファイナルサポートの時間だ。そっとユコナに触れつつ魔力の通りを良くしてパワーの限界を引き上げる。ユコナによるユコナの趣味の取り調べが始まった。


「どうする? 1人でできそうか?」

「うん。大丈夫。失敗したら治してね」

 

 プヨンがユコナの一方的な取り調べを見守る。手違いで重傷を与えないか、良心を破壊してしまわないか気が気でならなかった。


 「まずいな。しかもなぜ頭が動かないんだ?」


 ゴスイはプヨンがっしりと頭を抑えつけ身動きできないため、しきりに動こうとするが、ただひたすら体力が奪われている。


 ユコナの心に響く痛い審問は順調に進み30分で終わり、遺体ができる前に終了した。



「俺の知っていることはこのくらいだ。ここは街の災害用物資置き場だ。洪水に備えて」

「ほんと? じゃあこれらは戦時物資ではないのね」

「も、もちろんだ。平和的なもんだ。この澄んだ目を見てほしい」

「たしかに。再生したてだもんね」


 可燃物があると聞いた気もするが、あえて口にはださない。反論する気力もないのか、ゴスイはボソボソと答えているがかなりヘトヘトのようだ。


「ふーふーふー。プヨン、これは災害のための物資だそうよ。管理者は彼1人。今日は定期の見回りにきたとのこと」

「ユコナ本当か? いつも俺に向ける信じない心はどうしたんだ?」

「私はいつも素直だから信じてしまうの。大丈夫。彼は真実を語ってくれたわ」


 ゴスイの目はそんなに澄んでいたのだろうか。ゴスイが告げた物資は衣料品、医療品、飼料に肥料、塗料と続く。


「そ、そうだ。無料で少しわけてやってもいいぞ。何かあっても、これで俺たちはあと10日は耐えられる」

「武器に火器に鈍器も多数あった。単なる救護用には見えないが、風紀上問題では?」


 さすがにリスターが疑問を持ち、もっともなことを尋ねる。


「危険物は火事場泥棒対策だ。わかるだろ。一定数いるんだよ。そういう盗人には速やかに一死報いる!」


 だがこのあとは有益な情報は得られなかった。話は続くが半信半疑だ。


「これ以上は無理ね。休憩させていいわよ」


 プヨンにもゴスイにも聞こえるようにそう告げるユコナ。しかし、プヨンにはほっぺの膨らみで不満アピールが伝わる。ユコナはゴスイを放置して移動しようとする。


「トイレか」


 プヨンがそう呟くと、加速魔法がかかりユコナの移動速度が一気にあがった。


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