表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の使い方教えます  作者: のろろん
409/441

生き埋めの凌ぎ方 1

 ふと上空を何かが横切ろうとしているのに気づいた。またノミがやってきているのだろうか。周りの監視は気づいていないようだが、ノミは5日に一度は必ずやってきているし、時折、正体不明な高高度生物が通り過ぎる。


 今は当番中ではないが、上空の不明確認はハイジャンプのいい練習になっていた。


「どうかしたの?」

「あぁ、ちょっとジャンプしてくる。上空に鳥がいる」

「へぇ。よく見えるわね。私もついていくわ!」

「ついてくるって俺に引っ張れと言うのか? いいけど全力だよ」


 もちろんとうなずくサラリス。


 急加速急減速もやりすぎると身体にダメージがある。重力の10倍くらいの加速度が加わるとかなりのダメージがあり、プヨンは己の身体でどのくらいの加速衝撃まで軽症ですむかの目安を何度も試していた。


「時速40kmくらいで衝突するのがなんとか無事にすむ限界だ。80㎞になるとかなり危ない。飛行時はスピードが出やすいし、樹木への激突は結構危険だよ」

「へーどんなもの?」

「こんなもの。これの、だいたい10倍くらい」


 慣れて仕舞えばどうってことはないが、2階から補助なしで地面に飛び降りる衝撃が時速40㎞くらいだ。プヨンが耐えられる最近の高高度への上昇速度はその10倍、1秒で時速360kmまで加速するのに等しい。


「気を付けないと、血が頭にいかず酸欠になったりする」

「へぇ?」

「初めてやったときは目の毛細血管が破裂し、目が見えなくなってしまったため、治療するはめになったんだよ」


カクッ


「ふぅっ」

「サラリスが落ちたか」


 プヨンが予定通りと呟く。吐かれずすんでよかったが、やはり耐えきれなかった。遠くの方に小さくなっていく姿を見ると、上空を横切ったのは今日もノミで間違いない。連日この辺りを行き来しているようだが、振り返りもせず飛び去ってしまった。




 意識が完落ちのサラリスを連れて地上に戻るとなぜか騒がしい。ぼーっと見ていると、プヨンを見つけたバグナーが走り寄ってきた。まだ寝ぼけているサラリスを放置し話を聞く。


「おい。先日の不自然な大雪の調査をしてたんだが、様子を見に行った4人から定時連絡がない。現地に確認に行くぞ、準備しろ。今日の予定では10kmほど離れた谷間に沿って見回りしたはずだ」


 詳しくはわからないが、2つの大岩の間にある双眼橋まで行って戻るとなっている。定時連絡の上空への火球打ち上げがいまだに視認できていないらしい。


「準備はいいか? たしかに寒いんだが、なんでこんな大雪が。聞いたことがない。お前たちはどう思う?」

「居場所信号はありましたか? 火球を見落とした可能性はないんですか?」

「見落としはまずないが、発煙弾を使っての1分間の火球維持は慣れていないと難しいからな、何とも言えない。それに嫌な予感もする」


 バグナーがぶつぶつ言っている。他にもユコナや他の古参メンバーも数人呼ばれている。プヨンを見つけたユコナが走り寄ってきた。


「プヨン。大変なの。雪崩が発生した可能性があるみたい。貧乏ゆすり対応震度計が大きな揺れを感知したあと、メサルとエクレアが戻ってないらしいわ」

「メサルとエクレアはあまり持久力がないのがまずいな。特にメサル。まあメサルとエクレアはどちらも危険察知が得意だから、待避だけはしているだろうけど」

「たぶんね。でもこれは人災かも」


 そう言われれば、季節的に天気が荒れやすい時期で、ここ最近は特に寒く、ずっと吹雪いていた。


「でも雪崩? 雪崩って、雪が崩れて起こるやつ? そこまで降ったっけ?」

「いるでしょ。ほら、3日前に大寒気団を作ったのが」


 そう言われると心当たりがある。ユコナが大規模な低温魔法を見たいというので、『フリジッド』を用いて大寒気団を作った記憶がかすかに残っている。


「あー、そうだ。ユコナがいい出しだったな。調子に乗って雪降らしてたな!」

「私ではないわよ。影の黒幕がいたでしょ。冗談は置いて、急いで見に行った方がいいかも」


 その後、調子に乗ったユコナが氷雪魔法を重ねがけ、大幅に増幅していた。水を集めて冷気も作るプヨンと2人分担する超強力協力魔法だ。


「たしかにメサルのことは心配だが、訓練はしていた。素人ではないし、1人でもない。災害の直撃を受けた情報もないなら、そこまで焦る必要はないだろう」

「そんなもんかしら。焦らないの?」

「もちろんだ。この雪は冷気のせいだ。ユコナは冷気作成の第一人者に違いない。メサルに何かあったらユコナのせいに違いない」


 プヨンが手を貸しはしたが、ユコナの凶力魔法のせいだから、主犯はユコナで間違いない。


「何をおっしゃるのですか。すべてはプヨンの指導のもとですよ。プヨンが作ったのがベースだから!」

「え? 俺は何もしてないよ。大雪が降ったのはユコナのせいだから」


 そう言いつつ調査の準備をする。たしかにユコナが雪の原因だ。俺は手伝っただけだが、関与がゼロかと問われると、まったくの無関係とは言い難い。プヨンは急ぎ助けに向かうことにした。


「食糧。燃料。そして、プヨンそっちの消毒瓶も取って」

「消毒瓶? 怪我なら治療するけど、いるのか?」

「雪山遭難はアルコールでしょ。高級酒よ。体もあったまるし。あ、アイスもいるかな」

「雪崩が起こっているのにアイス! ユコナは本気で持っていくのか?」

「私はきっと雪かきで汗かくと思うし。糖分も必要」

 

 緊急かつ非常事態の割に、メサルが大丈夫だろうという根拠のない自信もある。緊迫感がないプヨンだが、ユコナの冷気を気にもせず調査の準備を進めていた。




 プヨン達が救助に行く少し前、エクレアはメサル他数人と、担当地域の安全確認のため、積雪の状況を確認していた。


「メサルさん、何かおかしいですね。2kmほど前からやけに冷えています。雪が多い」

「なぁ、エクレア、雪のある谷を歩くのは危険だと思う。尾根沿いか、いっそ空中を移動が良いと班長代理に進言を」

「それは無理です。進言は怖いです。言ったもの負けもあるかも。でもなぜ最近こんなに雪が降ったのでしょう?」


 聞かれたからには、律儀にメサルは返す。


「それは先日から上空に入り込んだ寒気のせいだ。空気中に多く含まれていた水分が氷の粒に集まって結晶化し、重くなって落ちてくると雪になる」

「え? いえ。メサルさん博識ですね」


 しまった。エクレアの目が違うと言っている。博識で鳴らしているエクレアなら、この程度は知っていて当たり前。プヨンとは違うのだ。おそらくなぜここ5km四方だけが大雪なのかを聞きたかったのだろう。


 そう言えば、先日はユコナとプヨンが雪合戦をやるぞとか言っていたが、今回の大雪と関係ある気がしてきた。だが未確認のことを口に出すのは憚られた。


 サクッ、サクッ、サクッ


 しばし無言になってしまった。上級兵の2人は手がかりを探しながらか、後方にいて距離が開いている。


 エクレアと無言で2人は厳しい。だがレアに言うようにはすぐ言葉が出ない。


 レアとエクレア、響きは近いのにこんなに悩むとは。馬鹿なことを言える雰囲気でもなく、エクレアの抑止効果もあって耳が痛くなるほどの静けさだ。


 メサルは何も言えず、時間がゆっくりと流れていく。長い時間に思えたが、実際はせいぜい2、3分だ。


「実は私はぎゅー魔王なんです」

「は?」


 突然、動き封じと無音魔法を兼ね備えたエクレアの魔法が発動し、メサルは動きを封じられた。しばらくして解除されたが、この意味はなんだろう。続けて付随効果がとって変わり、メサルの精神が激しく混乱する。


 咄嗟に反応できない。これは天の神がエクレアに乗り移って、メサルに試練を与えようとしているのだろうか。これはまったく予測していなかった。


「牛魔王? 魔王なのか? どんな?」

「魔法はおまけです。ぎゅーが重要なのです」


 ぎゅう? 牛? クーシェフなのか? それとも妓夫なのか? 発音だけでは読み取れず、メサルは混乱する。


「すごい肉好きなのか?」

「え? どう言うことですか?」


 肉や乳などの食べ物の話と思ったが、変な顔をされた。どうやら違うようだ。そしてエクレアが何かを抱き寄せる仕草をする。これが混乱効果をさらに高めた。


「妓夫魔王?」


 メサルはなんとか一言反応したが、色々と想像してしまい動けない。違うと思う気持ちや案外そうなのかもという気持ちがまざる。こんな手の込んだ混乱詠唱があるとは。メサルにはなんらかの試練に思えてきた。


「説明終わり! あとは秘密です」


 なぜかエクレアの顔が赤い。神を信じ、仲間も信じているため、知人の悩みは基本的に寄り添いたい。


 メサルには精神や癒し魔法に通じるものがあり、エクレアが精神面修練の格好の相手に思えた。結局、エクレアの意図が読めず効果的な対応ができない。加えて混乱を封じるほどの効果もなく、消耗も激しかった。



 ドドド


 そんなことを考えていると、突然地面が揺れた。地響きのようだが音は上から聞こえ、音の方を見上げた。今日の上空はじっと白い雪雲だったが、目の前が白く、ついでに頭も真っ白になる。雪、それも大量だ。降っているものとは明らかに違う。エクレアは上には気づいていない。危険を察知し反射的に叫ぶ。


「エンゼルフィンだ!」


 とりあえず痛みを軽減できるように、衝撃にも精神的に備える。そして音のする上をもう一度みるが、広範囲で逃げる時間も逃げ場所もない。


「アバランシエ、大ハード!」


 集中力が上がっていたせいか、とてもゆっくりに感じた。雪崩に間違いない。緊急事態だ。やはり今日は天の試練の日かもしれない。


 エンゼルフィンの効果か、メサルに天使が舞い降り、次の行動が天啓のように頭に浮かぶ。リミッターが外れ、普段ではあり得ない行動力が解放された。


 エクレアを掴みそのまま壁際に押し込む。まだ状況が把握できず驚くエクレアの反応はもちろん無視して勢いでいく。説明する時間はない。


 同時に全力で背中に氷板を作る。ありえない速度で氷ができる。その上にザザザッという音とともに、大量の雪が落ちてくるのがわかる。


 危なかった。以前屋根に積もった雪が落ち、雪の下に埋もれた時に似ているが規模が違う。


 リミットが外れたかおかげか、薄いながらもなんとか岩と氷を利用して空間を確保できている。幸い水はたくさんあり、氷を厚くする材料は豊富にある。なんとか埋もれずにすんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ