狩りの仕方4
気を取り直して、再び4人は歩きだした。そのあとは、特にこれといったこともなく、ハーバードの襲撃ポイントから20分ほどで、4人は目的地にたどり着いた。
「結局、何も獲物は獲らなかったね」
洞窟の入口が目の前に見えてきたくらいで、サラリスがぼそっと言ったが、俺はとりあえず、
「うーん、でも、行きで獲ると荷物になっちゃうやん。帰りでいいんじゃないの?」
「まぁ、そうだよね。帰りは、何か獲りたいな。結局、ほとんど何もしてないし」
そうは言いながらも、さっき全力の一撃をしていたので、気晴らしはできているようだった。
洞窟の入口は、意外にも、石造りになっていた。自然にある洞窟か、せいぜい廃坑跡のような、穴掘っただけくらいを予想していたが、壁もそれなりに石がはめ込んであり、しっかりしている。
プヨンは、3人に向かって、
「これ、けっこうしっかりした洞窟だね。3人はきたことあるの?」
と聞いてみた。サラリスとユコナは首を横に振って、きたことはないと言っていたが、レオンは、
「巡回で2度ほど、入口まではきたことがあります。石壁なのは知っていましたよ」
と言ってきた。入ってはいないが、おおよそは知っているようだ。
「まぁ、陽も高くなっていて、もう昼前だし、ここで昼食を食べることにしましょう」
上を見上げると、太陽は、ほぼ真上だ。そう言われたので、皆、めいめいに、その辺の岩なりに腰を掛けて、昼を食べることにした。
プヨンは、カバンから、パンと、例の試食した瓶詰を取り出した。シチューがおいしそうだ。
このあたりで手に入る保存食は、瓶詰が多そうだった。しっかりと火を通したものを空気を抜いて瓶につめ、封蝋で密封すると、数日は日持ちする。このルーフという大型のカバのような動物の肉を煮込んだシチューは、1瓶で7グランだった。瓶を持って帰ると2グラン返ってくる。
「あ、あんた。瓶詰持ってきたの?ちょっと分けなさいよ」
サラリスが、砂糖をまぶしたパンを食べながら、言ってきたが、
「やだねー。砂糖パンとは合わないよ」
と、反対によけたところで、
「あっ」
ユコナに奪われてしまった。
「一方しか見ていないのでは、戦いでは生き残れないのです。ふふふ」
ユコナは戦利品を、皆で分配しようとしていた。
(まぁ、いいけどね)
プヨンは、食べながら、洞窟の入口を見ていた。古びた石造りで苔や草なども生えているが、もとは丁寧に作られているように見えた。
入口は広く、大人が2人並んで、十分立って歩ける高さがあった。さすがに飛び跳ねると天井に激突ではあったけど。
「なぁ、ここってけっこうしっかりした作りに見えるけど、なんなの?」
と聞くと、レオンが、
「ここは、ずっと前からあるらしいですよ。少なくとも、ユトリナの町ができる前から」
「えっ、そうなの?それって、どのくらいなの?」
レオンに聞き返すと、さぁと返してきた。
奥を見ると、道はまっすぐ続いているように見えるが10mくらいで暗くなっていて、それ以上は見えない。
「この奥はどうなっているの?かなり奥があるの?」
と聞くと、
「この小山の中の真下あたりまでつながってるらしいですよ。500mくらい続くと、中に広間があると聞いていますが」
そこで、レオンは一呼吸おいて、
「実は、ここで、ちょっと怪しいものを見たとかいう報告が3件ほど届いていて、実は、今回同行したのは、ここもちょっと見てこいというのもあったんですよ。だから、皆さんは1時間ほどここで狩りを。僕は調査を・・・」
と、カバンから、植物油を使ったランタンを取り出しながら、隠しミッションを告白してきた。
「やっぱりね、そんなことだろうと思ってたよ。いくらなんでも、私らの護衛だけではないと思ったし」
サラリスが、拗ねた。ふりをしている。目がにやついている。
「・・・だから、4人で行くわよ」
まぁ、そうなるよなとプヨンは思っていたが、レオンは、当然、
「ダメです、さすがに危険がないとは言えませんので」
断っていた。しかし、サラリス、普段の日常生活の成果により、その手の反撃には慣れている。
「わかっているわよ。私たちがうっかり迷い込んでしまったのよ。レオンは、私たちを探しに入るのよ」
サラリス、完璧理論を展開したつもり。すこし、自分に酔っている。
「し、しかし。危険がないとは言い切れませんが・・・」
当然だが、レオンの歯切れは悪い。
「勝手に入ったって言ってるでしょ。私は危険と思わなかったのよ。あんたは、よそ見してたの」
「えっ。そ、そんなぁ。よそ見ではなく、止めたけど、無理やり入ったってことでは・・・」
「ふふふ。商談成立ね。いいわよ。それで」
サラリスが勝利宣言した。決定事項になったようだ。レオンは、サラリス理論に屈服したようだ。
とりあえず、昼を食べて一休みしたら、中に入ることになった。
3人は、にこにこしながら、1人は、ぶつぶつ言いながら、手早く食事をしていた。
食事が終わって、後片付けがすんで、4人は入り口前に集まった。サラリスが先頭に立って出発の号令をかけようとしているが、プヨンには言っておかねばならないことがあった。
「サラ、実は、中に入る前に言っておかないといけないことがある・・・」
「な、なによ。・・・何かあるの?」
ちょっと心配そうに、サラリスがこちらの顔を覗き込みながら、聞き返してきた。
「さっき、レオンに、私たちがうっかり迷いこんだと言っていたが・・・・」
「・・・・。えぇ、言ったわよ。それが何よ」
そこで、ユコナの方を見ながら、
「迷ったのはサラ一人だ。俺たちは救出部隊だ」
「なっ」
ユコナも、サラリスをみながら大きくうなずいて、
「もちろんです。レオン隊長のもと、行方不明者の捜索に協力しましょう」
「えっ。ユ、ユコナ、裏切り者・・・」
レオンも少し思案していたが、自分一人が取り残されたというよりは、暴走車1台を追いかけたほうが説明しやすいと判断したのか、こちらに乗り換えることにしたようだ。我ら3人の絆は、たとえ、即席ではあっても、今、断ち切ることは難しいと思われた。
サラリスは少し固まっていたが、中に入るにはこの案しかないと妥協したようで、
「クッ、天才軍師と言われたこの私の上をいくとは。プヨン、覚えておきなさいよ」
捨て台詞を吐いてきたので、
「フフフ、10歳はとうに過ぎたのでな、頭も胸も大人になれよ」
とどめを刺してやった。それを聞いて、ユコナは自分の胸を見ながら微妙な顔をしていたが。
気持ちを切り替えて、無謀サラリスを先頭に、2mほど遅れて、救出部隊の3人が中に入る。ちょっと入ったところで、レオンは、ランタンに火魔法で火をつけた。壁が明るくなった、1m程度の一定の大きさの灰色の石が、きれいに並んで壁になっている。どう考えても人口的に作られていると思われた。天井もどうなっているのかはわからないが、同じような区切りの溝が見え、しっかりついているようだ。そのまま、1人+3人は、ゆっくりと奥に進んでいった。しかし、サラリスは、少し先行しているからか、十分に明かりが届かなかった。そのうち、20mくらいのところまで進んだところで、こちらを振り返り、
「ふふふ、私を見くびったことを後悔させてあげるわ。太陽から生まれし、光の精霊達よ、今一度、我が指先に集いて、暗闇を照らせ。ミギー」
そう、叫ぶと、サラリスの持っていた棒切れの先で、小さなオレンジ色の光が揺れている。
「おぉ、サ、サラリス様、照明魔法ですか。いつのまに・・・」
レオンは感心していた。俺も、
「サラ、すごいね。独学なのかい?」
と聞いてみた。サラは、ふふんと鼻を高くしながら、
「そうよ。魔法の本に書いてあったの。魔法隊の人にこつを聞いたの。けっこう苦労したのよ」
ランタンほどではないが、そこそこの明るさの光がでている。真っ暗闇の中では、それでも、十分に視野が広くなっていた。
プヨンは、それを聞いて、レオンがさっき、ランタンに火魔法をつけたのを思い出し、
「レオンも魔法使えるんだね。やっぱり、兵士とかになる人はみんな使えるのかなぁ」
と聞いてみると、
「えぇ、兵士と言えど武器だけでは厳しいですね。特に、自分たちのような兵士は鎧を着たりもするので、多少の筋力強化が使えないと話にならないです。筋力強化は魔法とは少し違いますが、もとになる力は同じだと言われています」
(そういえば、そんなことを以前アデルも言っていたな。自分の身体能力を上げる魔法かぁ)
「どのくらい強化されるものなの?じゃぁ、その金属鎧も苦にならない?」
レオンに聞くと、
「どうなんでしょうね。魔法を使える人はそれだけでも、すでに多少強化されています。具体的には難しいけど、意識して、自分の筋力を強化する場合は、できる人だと、さらに、倍くらいになりますかね。素で2mジャンプできたら、4mくらいまではなんとかできたりしますよ」
アデルも3mは余裕で飛び上がってたもんな。そうか。強化かぁ。
「すごいな、倍か。俺、ためしたことないよ」
プヨンもずっと前にアデルに聞いて強化があることは知っていたし、何人も使う人を見てきたから、程度の差はあれど、みんなできるのはわかっていた。ただ、軽く試そうとしたことはあったものの、本気でする機会がなかった。
中央と思われる道は、ときおり折れ曲がりながら、続いている。また、ところどころ、十字路などもあり、分かれ道のない一本道ということもなかった。特に動物などの生き物に出会うこともなく、4人はそのまま奥にすすんでいった。
 




